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天才魔法少女は爪を隠す  作者: 茴香バニラ
1章 幼少期
7/15

王都に到着です


旅立ちの日。

10歳の誕生日を終えて数か月後、私は、個人の馬車ではなく乗合馬車で王都まで行くことになった。

レイナは大げさなくらい泣いて大変だったけど、何とか荷物をまとめて馬車に積むことが出来た。



「お嬢」

「「お嬢様」」

「「「行ってらっしゃいませ」」」


「うん、行ってきます」



震える声で別れを告げるレイナ、カロン、キースの順に抱きしめてもらって、最後はドレイク。

近くで見るとドレイクも少し、目を潤ませていた。



「お嬢、どうかご無事で」

「うん。でもちゃんと帰ってくるからね!ドレイクに剣技習ってるんだからよっぽどのことがなかったら大丈夫だよ」



私の姿が母に重なるのだろうか。

それでも私はシュラ・アルデル・ステュワート。

母とは違い、魔法も剣技も身に着けた。ただのか弱い女の子にはならない。

見せかけはするけど。



「だな。……行っておいで」

「うん!!お土産話楽しみにしといてね!!」



そうして私は馬車に乗り込んだ。

馬車の中には王都に向かう人々が小さくなって座っていて、その空いている席に腰をつける。

ふっと風が髪を靡かせるのに気持ちよさを感じて目を閉じる。

その静かな風の音と馬車の中のざわめきに、身を委ねる。

コトコトと揺れる馬車。

その乗り心地の良さにうつらうつらしていた時だった。


突然の馬の悲鳴、急ブレーキをかける馬車。

乗客たちの悲鳴に夢の世界から引っ張り出された私は、少し不機嫌に御者に問いかけると慌てている御者は乱暴に答えてくれた。



「オルトガウルフだ!!天災級の魔物が出やがった!!」



するりと混乱する馬車の中から抜け出し、寝ぼけ眼を開いて魔物を見据える。

そこまで遠くない辺りに口元を赤く染めた緑色の大型犬のようなものが見えた。

狼に詳しくはないが、たぶんあれだろう。

馬車が慌てたように反転するのにあの魔物が気付いていないわけはなく、貪られていた猪の死体から顔を上げてこちらに襲い掛かるべく追いかけてきた。



「くそっ、なんでだよ!!

ここの辺りは滅多に魔物なんか出ないはずなのに!!」



諦めと絶望が入り混じった怒声。馬車の中で泣き叫ぶ子供。

まさに阿鼻叫喚の図。



「おいアンタ!!せめて中に入って隠れてろ!!」



勇敢そうに一人の男が剣を片手に私に怒鳴りつけてきた。



「……アイスピックス」



呪文は省略!

だけど無詠唱で騒がれるのも嫌なので、小声で言っていたように見せかけて指先に細く長い氷の氷柱を作り出す。

ダーツを投げるようにひょいと放った氷柱は風の魔法を纏ってどんどん加速していく。

そして、氷柱は狼の脳に向かって真っすぐに突き刺さった。

衝撃で跳ねた狼は、地面にその体を横たえてぴくぴくしている。



「へ……?」

「こう見えて私、魔法使いですわ。お役に立てて光栄です」



唖然とする男にそう言ってほほ笑んだ。



「そんな、天災級を一撃で……」



御者も、呆けたようにつぶやく。

ふわぁ、とまだ残っていた眠気がぶり返したのをあくびで誤魔化した。



「さて」



馬車から飛び降りて狩った獲物を見に行く。

緑色の狼は息絶えていないようだったので、口元から完全に酸素を消して窒息死させた。

えぐいとか言わない。やるかやらないか。生きるか死ぬかの自然界に生きるには当然だ。



「狼って犬科だよねぇ。食べれないことはないだろうけど、臭みが強そう」



それに毛皮は緑。

ちょっと悪趣味だ。



「ちょっ、お嬢さん!?これ食べたりしませんよね!?これ、天災級ですよ!!

王宮護衛隊が束になってやっと相手取る天災級の素材ですよ!!町へもっていけばいい儲けになること間違いなしです!!」

「肉も?」

「肉もです!」



どう見ても大荷物なのに、荷物を捨ててでも素材を運ぼうとする御者に『秘密の方法』で運ぶからと説得し、『異空間収納魔法』に狼を放り込んだ。

何食わぬ顔で馬車に戻り、詳細を聞きたそうにする乗客たちの無言の訴えを無視してさっきと同じ窓際に座る。


狼の魔物を瞬殺する少女に不躾な質問など出来るわけもなく、馬車の中は王都に着くまで静まり返っていた。




王都に着くと、賑やかな大通りに目を奪われる。

うわぁぁぁ!本当にファンタジーの世界だぁ!


道沿いに並ぶ露店商、鎧を着けた兵士、街娘たちが楽しそうにお喋りしながら街を駆けていく。

その道に並ぶように赤い屋根の建物が建ち並び、中には魔術書やアイテムを扱う店もある。

活気溢れる王都に雰囲気に飲まれたのか、私の周りの者たちもようやく口を開いてざわめきを取り戻す。


ちなみに狼の死体は御者に渡した。

金貨を200枚ほど貰ってしまったのは、ぼったくりなのかもっとあれが価値の高かったのか。

まぁ、氷柱で倒した分散らばった血の少なかったことと、氷柱は魔力が無くなれば融けて消えるので余分なものが混じってなかったからいい素材で売れただろう。

『異空間収納魔法』にしまってて、保存はばっちりだし。

相場はまだ知らなくていいや。

株とかないだろうしね。


さて、余裕を持って街に着いた分、時間が余ったな。

散策でもしよーっと。


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