入学式です
入学式当日。
ドキドキしながら制服に身を包み、私は広い学校の前まで来ていた。
寮に住んでいるため、誰よりも早い到着である。
学校の門の近くには桜のような木が植えてあったが、まだ肌寒い気候のせいか、蕾も膨らんではいない。
むぅ、残念。
すると、学校の中から出てきた教師陣が杖を片手に、木の方向へ向かってくるのに気がついて、そっと邪魔にならないように脇に避けた。
「おや?早いお着きですね。まぁいいでしょう」
性格がきつそうなとんがり帽子の如何にもなお婆さん魔女の先生がそう言って、合図を出す。
一斉に杖を木に向けて、呪文を唱えた。
『木の精霊よ。春の息吹を待ちて焦がるる汝に命ずる。我らが祈りに答え花を咲かせよ』
ゆっくりと蕾がスローモーションのように膨らんで開いていく。
しばらくすれば、美しい黄色の花びらが一面を彩っていた。
「うわぁ……!綺麗!!」
桜を想像していたが、どちらかというと菜の花に近いだろうか。
かわいらしい小さな花が風に揺れる。
思わず私はその美しい世界の中に身体を躍らせるように入り込んでいた。
ざあっと風が花びらを纏って私の周りを彩る。
まるで、台風の目の中にいるかのように。
その光景にやって来た入学生の者たちが思わず見とれてしまったのは仕方のないことだろう。
天女のように美しい少女が花びらに遊ばれて、幸せそうに笑っているのは、まるで一枚の絵画のような世界だったのだから。
もちろん、シュラはそんなこととはまったく知らなかったが。
「美しい姫君、名前をお聞きしてもよろしいですか?」
空気をぶち壊したのはある一人の貴族だった。
成績1位。ビルモンテ準男爵家次男、マーリン・ビルモンテである。
「えっと……シュラです。って、わぁ!」
すでに多くの生徒たちが来ていることに気付いて、私は顔を赤くした。
さっきの子供みたいな振る舞いが見られていたかと思うと恥ずかしかったのだ。
でも、あれ?
私、まだ10歳だよね?
なら、ああゆうのもまだ許される年齢か……?
恥ずかしさに思わず「ごめんなさい!」と叫んで、私は人混みの中で見つけたリリアの側に駆け寄った。
「おはよう。シュラ、目立ってましたの」
「おはよ。やめてよー。滅茶苦茶恥ずかしい」
リリアの背中に隠れて頬の火照りを冷ましてから、私は新入生用の席についた。
入学式というのは日本も異世界もほとんど変わりはなく、退屈な時間として過ぎていった。
魔法でも使えばいいのにと思いつつ、寝ぼけ半分で話を聞き流す。
校長先生という人は思っていた通りの人で、第一、第二学園を目の敵にしているようなイメージを抱いた。
多分、予算の関係だろう。
あっちの学園は支援が多いから予算も多く支給され、研究なんかのお金も多いのだと思う。
さっきのお婆さん魔女は教頭先生のようだ。
ひぇぇ、厳しそう。
学年は1から5年生まであるが、入学式は1年生だけらしい。
真面目に聞いている子に混じって私のように欠伸しつつ聞いている子もちらほらいた。
入学式が終わると、クラス別のホームルームがある。
教科書などの支給は終わっているので、簡単な自己紹介などが主にやることだろう。
クラスの担任だという男性の後ろについて教室に入ると、木の椅子と机が綺麗に並べている普通のいかにも学校といった内装だった。
黒板も緑ではなく黒色の、昔の黒板に近い。
黒板に張り出された席順の場所に全員が座ったことを確かめて、男性教師はホームルームを始めた。
「さて、では改めて入学おめでとう。俺はこのクラスを担任するシュラデウス・トロメニルだ。魔法実技と数学を担当する。俺もこの高等魔術学園の卒業生で、教師になって3年になる。貴族と平民が混ざっているこの学園で身分差別的な行動はご法度だ。よく気を付けるように。このクラスには優秀なものもそうでない者もいる。お互いに仲良くなって実力を磨いていってもらえると嬉しい」
そう言い終えて、彼は前の席から順番に自己紹介を始めるようにと促した。
可愛らしい小さな男の子が自己紹介を終え、順番にあっさりとした自己紹介を終えていく。
似たような話ばかりで少しつまらないなと思っていたときだった。
「私はニコラ・ジェンネルク!!見た目の通り獣人だ!
苛めたいやつは覚悟しておけ!私は簡単にはやられないからな!!」
にゃははと笑う彼女の頭にはふわふわの可愛い狐の耳。
そのお尻にはふさふさの黄色の尻尾が揺れていた。
か、可愛い!!触りたい!!
だが、プラスの感情を持ったものは少ないらしく、ぎこちない雰囲気が教室に広がった。
「えっと、リリア・デュラク・サンドライトなの。魔術師志望。でも、最近治癒魔法も使えることが分かってちょっと揺れてるの」
雰囲気を変えたのはリリアだった。
治癒魔法という言葉に教師が目を開く。
だが、あえてなのか何も言わなかった。
しばらくして、私の番が回ってくる。
私の前は小さな可愛い女の子だった。
「ノルン・バクナレスタ。見ての通りエルフです。魔術師になりたいです。よ、よろしくお願いします」
エルフ!!よくあるエロティカルなお姉さんタイプじゃないけど滅茶苦茶可愛い!!
ただ、ロリコンに狙われそうな子だなぁ。大変だ、お姉さんが守ってあげねば!
「私は、シュラです。魔工師志望。ですけど、色々な魔法が使えるように努力しようと思っています。よろしくお願いします」
当たり障りのない挨拶。
それなのに皆真剣に聞いてくれるね。有り難いことだ。
それからも順に自己紹介していったのだが、クラスの10人ちょっとが貴族。それ以外が平民らしい。
目立っていたのが学年1位のマーリンという少年で、偉そうにふんぞり返っていたのが印象的だった。
ギルガディスより上なのがよく分からないんだよなぁ。
ギルガディスはあんまり目立たなかった。
二人目の獣人だったし、挨拶も派手ではない。
フードも着けていなかったから、目立ったのは眼帯くらいだ。
純な人族でない獣人やエルフはクラス内に5人。
さっきのノルンちゃん、ニコラちゃん、ドワーフの子が二人、ギルガディスだ。
仲良くなりたいなー。
そのあとは学校施設や授業の説明をして終わり。
解散のときになると、私はすぐにノルンちゃんのところに向かった。
「はじめまして!ノルンちゃんだよね、私はシュラ。よろしくね」
「ノルン・バクナレスタです。よろしく、シュラさん」
ふわっと笑った少女の髪は新緑の色。
紛れもなくエルフだ!!
耳は思っていたほど尖っていなくて、気になりはしなかった。
「シュラ、置いていかないでくださいなの。リリアですの。よろしく、ノルン」
リリアが恨めしそうにこっちを見たので、苦笑いで返した。
「よろしくお願いします!リリアさん」
「さん付けは無しでいいよ!同い年なんだし!」
きゃっきゃと女三人で騒いでいると、一人の女の子もやって来た。
あの獣人の子だ。
「私、ニコラ・ジェンネルク!私も入れてもらっていい?」
「いいよー」
大きな目の可愛い子だ。
狐さんの耳とか尻尾とか、触りたいなぁ。
友達がすでに二人できました!!
あと、何人増えるかな??