賢者について考えます
「えっと、助けていただいてありがとうございました」
「いや、いい。災難だったな」
エドワードは照れたように首の後ろ辺りを掻いて、言った。
その目はちらちらとリリアの方に向いている。
一目惚れですか!!イケメン侯爵候補め!
「エドワード・フォン・オーガスタスだ。
ところで、そこのものが今、治癒魔法を使っていたようなのだが、魔術学園に通う者か?」
「リリア・デュラク・サンドライトと申しますの。こっちはシュラ。二人とも第三学園に通う予定の者ですの」
さらっと挨拶してくれるリリア。
いい奥さんになれそうだなぁ。
「ほぅ。貴族と平民の友人関係とは第三学園ならではよな。治癒魔法はどこで習ったのだ?」
……この人、貴賤差別のある人なのかな。
治癒魔法拘るね。そんなに珍しいんだろうか。
「書物ですの。でも、今まで成功した試しがないから使えないものだと思っておりましたのに。……シュラ、エドワード様は第一学園に通っていらっしゃる二年生の方ですの」
「先輩ってことですね。申し遅れました。シュラと申します。以後、お見知り置きを」
日本式の礼の型。
指先まで拘って、お辞儀の角度は45度。
一応は会釈ではなく最敬礼である。
まぁ、日本を知らない者にとってはまったく分からない違いなので自己満足でしかないが。
「ほう、平民にしては独特の礼だな。まぁいい。魔術は使えるようだし、平民とていつ、貴族に見初められるか分からん。それに」
くいっと顎に指を掛けようとする動作に、思わず後ろに下がる。
バスケなどでいうフェイントのような動きだ。
「瞬発力はなかなかだな。顔もいい。
護衛にも、愛妾にももってこいだ」
あっさりと指なんぞかけられてしまえば、効果のある魔法が使いやすくなる。
例えば、火傷を負わせる魔法とか、呪いなどは触れることで効果を大きくすることが出来る。
防御魔法が出なかっただけマシだ。
「……気をつけるがいい。魔術師候補は狙われやすいからな」
そう言って去っていく背中に、私は安堵の息を吐いた。
リリアはくすくすと笑っている。
そのまま、お茶でもしようと二人で喫茶店に入った。
「エドワード様、シュラに関心をお持ちみたいですの」
「冗談。私を平民扱いしてたでしょう?あの人の本命は貴女よ、リリア」
相手に押し付け合いをしてしまう。
お互いにあまり彼には良いイメージを持っていないらしい。
まぁ、鼻持ちならないお金持ちなイケメンだからだろうか。
紅茶が運ばれてくると、二人とも黙って砂糖とミルクを入れる。
リリアはミルクが多目、私はどっちも多いが、砂糖の方が多い。
コーヒーよりマシだ。コーヒーなら、私はコーヒー牛乳と呼べるくらいまで甘くするから。
「でも、出世頭なのは確かですの。何といっても、賢者様のお弟子さんですから」
賢者。
ドレイクが話してくれた魔術師の最高ランク。
その弟子ってことは、後継者候補ということだろう。
その割には凄い魔術師って感じではなかったけど。
あれなら、ギルガディスの方が強いと思う。
ぺろっと紅茶を子猫がミルクを舐めるように味見をする。
熱っ、火傷するかも。
そっとカップに近づけた指の先から冷気を送って紅茶を冷ます。
ふーふー、猫舌ってのはちょっと損だよね。
「ふーん、賢者の弟子、かぁ」
賢者にもなれば、どこまでの魔法が使えるのだろう。
国の防護障壁とか、張れるんだろうなぁ。
自分もいつかラ○ュタ城みたいなの作ってみたいなぁ。
それには永続的に魔力を与えてくれる核を作らないと。
液体化は出来るんだし、固形化してじわじわ染み出していくような魔力石が作れないかな?
賢者の石みたいなとんでも物質が出来たら……?
うむむ……。
「シュラ?何を考えてますの?」
「ああ、いや、賢者ってどんな人なのかなーと」
「洗脳術などが得意な頭脳派ですわ。政治の面でも活躍してますの」
おお、洗脳!!面白そう!!
冷めた紅茶を口にしてから、私は洗脳術の使い方を模索してみる。
動物を操るのはいいけど、人間はちょっと怖いな。
自分の指一つで命が消えるかもしれないし。
動物の視線を自分と共有したりしたら、色々と役に立つんじゃないかな?
ドローンみたいな。
「シュラは魔工師志望と言ってましたけど、前任の賢者様も魔工師上がりですの」
「本当!?」
「ええ。素晴らしい剣を作るのだとか。国宝級のものだそうですの」
国宝級、か。
この前ギルガディスにそういう風に私のナイフを褒められてしまったからかあんまり凄いと思えないんだけど。
まぁ、日本でいうとこの日本刀とかがそうだよね。
物凄く値段が高いんだけど、素人目にはどれも同じに見えるっていう。
「リリアは魔術師志望だよね」
「いえ、治癒魔法師もこの分だと考えられるかもしれませんの。先程、使えましたし」
ああ。さっきのかー。
でも、リリア、魔力を集めるのが苦手なんだと思うよ?
避雷針みたいに私が背中に手を当てて誘導したから集まったものの、あんな少量の魔力じゃ治癒魔法は使えないし。
「まぁ、一度出来たことだし、使える可能性は高いよね」
本当のことは言わないけど、感覚で魔力が集まったのは感じたはず。
できなかったとき、どうやったら魔力が集まるかを工夫しさえすれば治癒魔法は使えるようになるかな。
「治癒魔法さえ使えれば聖女にもなれるかもしれませんし。そうなると旦那様探しにも有利ですの」
「結婚ねぇ。私は遅くても良いかな。子供とか出来ちゃうと下手に動けなくなりそうだし」
魔工師志望ではあるものの、私は外の世界に出ていきたいと思っていた。
この世界には魔物もいる。ギルドもある。
ならば、冒険者になるのも悪くないはず!!
ぐだぐだと女の子らしく無駄話をしたあと、明日の入学試験結果発表に一緒に行こうと約束して私は寮に帰った。
さて、明日からも頑張るぞっと。