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天才魔法少女は爪を隠す  作者: 茴香バニラ
1章 幼少期
11/15

新キャラです


入試を終えた次の日、私はアルバイト先の魔術書の店に向かった。

キースから話を受けていたと優しく笑って、魔術書の扱いを説明してくれるのは店長のブルックさんだ。

ブルックさん自体は魔術師ではないのだが、古書集めが趣味らしく、特殊な魔術書はその好みにあっていた。

趣味が転じて職業となった典型例だろう。



「へぇ、それじゃあシュラは魔工師の卵ってわけかい!」



さん付けを年上にされるのは慣れないので、呼び捨てにしてもらった。

ブルックさんは人がいいので、お喋りも好きらしく次々と新しい情報を貰えるので有難い。



「ええ。まだまだ弱輩者ではありますが」

「魔工師ってのは、目指すだけでも大したもんだ。で、今は何を読んでるんだ?」



話ながら眺めていたのは、あの賢者の石の製法の本だ。

うむむ、材料を揃えるのは難しいけど、材料さえ集まれば私でも作れるか……?

いや、そのまま作ったら不完全なもの。

足りないものは何だ?



「賢者の石の製法についての本です」

「賢者の石なぁ。魔工師のやることではねー気がすっけど。不老不死に興味あるのかい?」

「興味としてはありますけど、なりたいとは思いませんね。

今が充実していればいいですから」



賢者の石。

それはよくあるフィクションの中の不老不死の効能やオリハルコンなどの超貴重な鉱物を作り出す幻の石だ。

フレアに聞いたところ、現存する賢者の石は暗黒竜ベテルギティスが飲み込んでいるらしく、ドラゴンの中で唯一不老不死をもつ個体なのだそうだ。

フレアはこのドラゴンに対してあまり良い感情は持っていないらしく、始終おっ死んでしまえと呪いの言葉を吐いていたけれど。


フレアとは、通話水晶という私がオリジナルで作った電話のようなものでお話ししている。

夜中に女友達と電話するのは楽しい。

たとえ、相手が女の子の心を持つドラゴンであったとしても。


フレアにはギルガディスのことも相談している。

これが恋なのか分からないと言った私にフレアは



「シュラが、普通の人間のように恋に悩んでおる……っ!」



などと失礼極まりない発言をしたので、ゲートで突撃訪問して最大威力のファイヤーアローをぶちこんでおいた。

入学試験?これの千分の一も出してませんが何か?

知ってた?ファイヤーアローで地形って変わるんだよ。


店番は7時でおしまい。

あんまり人が来ない気がしたけど、ブルックさん曰く、いつものことらしい。

経営は大丈夫なのかな。



結果とクラス発表の日まで暇だったのでゴロゴロしていると、別室のリリアが遊びに来たので街へとくり出す。

リリアは生粋のお嬢様らしく護衛の方が何人か付いているようだった。



「シュラ、あれは何ですの?」

「こんな美味しいもの、食べたことありませんの!」



キラキラと表情を輝かせるリリアを連れて街を歩くと人混みを見つけた。



「何ですの?」

「曲芸師かなぁ。見てみる?」

「ええ、ぜひ!」



手品師のような不思議なメイクの人物が口から火を吹いたり、空中で水球をジャグリングするのを真剣に見つめるリリア。

私はその隣で曲芸師の技を眺めていた。

曲芸師の手から炎が吹き上がる。

拍手喝采。

そのはずだった。

魔力の揺らめきが大きくズレ、噴射口となる手の平が私の方に向く。

ん?


曲芸師の手から異常なほどの炎が吹き出す。

その先にいるのは私。

曲芸師の顔がひきつった。

あ、これヤバいやつ……?



「氷の精霊よ!我が命令を聞き、望むものを凍てつかせよ!ブリザードソリッド!!」



どこからか聞こえてきた呪文。

それよりも速く私の魔法は障壁として周りに張られている。

私の魔障壁は冷気も通さない特別仕様。しかも大きさは特大だから周りの人達も守ることが出来る。

一つ遅れて呪文による氷が曲芸師の手を凍らせた。痛そう。



「大丈夫か?危ないところだったな」



助ける人以外に迷惑を及ぼしかけていたのに平然と男は英雄のような振る舞いで私に声をかけてきた。

ツンツンとした尖った金髪。

その目は緑色のイケメンだった。



「助けていただいてありがとうございます。でも、早く解いてあげてください。あのピエロの人の手、凍傷を起こしかけて……」

「きゃあああ!!」

「エドワード様だわっ!!」

「いつ見ても素敵っ!!」



黄色い歓声に私の文句が掻き消される。

あー、あれか、この国のアイドル的な存在って訳ね。

女子に囲まれたエドワードと道連れに女子に囲まれていた私は思わず固まったままになってしまっていた。

リリアがそっと私の腕を取って下がらせてくる。



「エドワード・フォン・オーガスタス様ですの。オーガスタス侯爵様のご長男で、現賢者様のお弟子さんですの」



何という肩書き。

色んなとこに幅を効かせられそうな後ろ楯だね。


っと、それどころじゃなくて、ピエロの人!!

凍傷起こしかけてるって!!



「大丈夫ですか」

「あ、ああ……」



エドワードのところを離れてピエロの元へ。

無詠唱魔法を人前で使うわけにもいかず、私はどうやって炎を使うか迷っていた。

詠唱魔法はコントロールがまず、難しい。

容赦なく魔法を発動させるなら何とかなるのだけれど、弱い力にしたりとか調節が出来ないのだ。

ペンダントで抑えていたとしても、まんま炎の魔法だと火傷をしかねない。



「……内なる炎の精霊よ。氷を溶かせ、傷を付けずこの者を氷の戒めから解き放つが良い」



魔力の調節が出来ないなら呪文に頼ろう。

呪文というのは日本でいうところの言霊というやつで、考えていることのイメージが定まっていない魔法を言葉通りのものに制御するものなのだろう。

だからこそ、コントロールが効かないはずの融解魔法もピエロの人の手を焼かずに発動した。



「あ、ありがとうございます!」

「いいえ、構いませんよ。むしろ、溶かすのが遅くなってすみません。霜焼けになってしまいましたね」

「いえ!!お怪我をさせずに済んだだけでも幸運でした!」



ふっと表情筋を緩ませるとピエロの人は慌てたように目を逸らした。

何かな?もしかして私の表情筋、まだ固いまま?



「リリア、治癒魔法は出来る?」

「治癒魔法は高度ですの。呪文なら知っておりますけど……」

「試しでも良いからやってみてくれない?」

「んんっ、安らぎの女神よ、癒しの力をここに与えよ。ヒーリング」



ゆらりと揺らいだリリアの魔力は圧倒的に少ない。

だからこそ、私はリリアの背に軽く触れた。

大気中にある魔力の微粒子をリリアの手に集める。



「おおっ!」



人々がどよめく。

ピエロの手はほんのりと光を帯びて、その霜焼けはみるみるうちに消えていった。

治った手を握ったり開いたりして確かめるピエロ。

まるで自分に起こったことが信じられないといった表情だ。


リリア本人も。



「え、あ……!!治癒魔法が使えてますの!!」



驚きながらも嬉しそうな声をあげるリリア。

彼女をこのまま見守っていたいのだけど、後ろから視線を送り続けてくるエドワードにはどう反応したら良いものか。




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