表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何も見えない月夜に  作者: HAg
本読み
9/9

バラ色の7話

前回までのあらすじ

→恐怖!覆面男の謎!

「…こうなったらアレね。アレしかないわ。アレ以外思いつかない。でもアレをしたらちょっとアレね...まあアレになっても結局はアレでアレよね。アレ?アレってアレだっけ?」



 時間はお昼を少し過ぎた頃、傾き始めた太陽に照らされた美女が馬車も通れるほど大きさな古びた門の前で行ったり来たりを繰り返している。最近謎多きクールビューティーからのキャラぶれが激しい気がするのだが、読者の皆さんにはもう諦めてもらう他ない。


「72回目…73、74回目…75回目…。ワクワクだなー。」

「ねえねえ、さっきからビローさん『アレ』しか言ってないけど、どうしたの?」

「81回目!さぁ馬車の人もいないし、84、ワクワクだし、いいんじゃないか?88回目。」

「あなたももさっきから『ワクワク』しか言ってないけど?」


「アレだわ!」

「ワクワクだなー!」


「(もう何でもいいよ。)」


「ミカちゃん、そのあまり関わりたくない人から距離を置く時にしか使わないような顔をしている場合じゃないわよ!アレに決めたわ!」

「89回目、あと1回でワクワクだぞー。」

「へー(白目)」


 目は口ほどにものを言う。私の身の回りには、と言うよりかは演劇部にはそういう表現力が豊かな(変)人達が沢山いるが彼女もその例に漏れない。少し話は逸れるが近くに演劇部がいても不用意に接近するのは避けた方がいい。世の全ての演劇部が危険だと言うのではない、演劇部には奇抜な方が多いのも事実だが"類は友を呼ぶ"演劇部とは即ち誘蛾灯、誘我灯なのである。その人が変でなくても周りがすんごいのだ。こんな風に…。


「登山するわよ!」


「...へっ?」


「登、山、するわよ!」


「いや、聞き取れなかったわけじゃないんです。」



「ナ、何ダッテー。ワクワクジャナイカー。」

「若干棒読み気味なのが気になるけどいいリアクション、セレーナ様腕を上げたわね。」

「まあな!」


 自然のど真ん中には不釣り合いな貴族然とした服装の2人の間で交わせられる熱い握手。その光景は異様という言葉以外の何者でもない。これこそが私の言いたい我、我の強い者を無意識に誘う眩い光、演劇部なのである。


「(もう何でもいいよ。)」


「だけど、だけど僕ぁ反対どぁ!」


 熱い友情のような何かの握手を振り払われ重そう、暑そう、邪魔でしょうの三拍子揃ったパンプキンのアイデンティティのパンプキンがぷきんぷきんと揺れる。


「あら?セレーナ様ってこういうの1番好きそうなのにどうしてかしら?」


「ワックワクが付いてないからさ!」


「"ワックワク"登山するわよ!!」

「ワックワクだぜー!!!」


「(もう何でもいいよ。)」




 そうして彼女らは山の緑に侵食されて傾く古びた門をくぐり、これまた外れかけたような古びた扉を叩く。扉を開くということは新たな世界へ入るということだ。そこでは時に出会いがあり、驚きがあり、新たな境地がある。しかし、我らが主人公はその世界の持つ独特な境地を感じ取ってしまったらしい。

 忌むべき臆病も捉え方によっては慎重という美徳になりうる。ドアノブにのせられたビローの繊細な手を制し、ミカはそっと新たな世界の音に耳を傾ける。


「んほっ…んほっ…。」


 扉から離れず問いかけるような目でみつめるが受け入れ難い現実への答えは沈黙である。


「…あのー、ビローさん。建物の中から雄々しい、獣みたい声が聞こえるんですけど"コルーマ神山管理局"ってここで本当に合ってるんですか?」

「建物が何もないのにピシッってなるじゃない。多分これもアレの特殊なものよ。」

「それはちょっと無理がありますよ。」

「祝90回ワクワクアニバーサリー!イェーイ!」

「おめでとうございます。」


【ハイタッチ】


「(もう何でもいいよ。)」

「またミカちゃんがツッコミとしての自分の現実から目を背けたわ。」

「ヘイ!イエス!ワ★ク★ワ★ク!」

「ミカちゃんごめんなさいね。この頃は仕事でずっとこの子と一緒にいるから久し振りのボケ側で楽しくてついやり過ぎちゃったわ。」

「お互い大変ですね。許しませんけど、ハハ。」

「本当にやり過ぎちゃったみたいね…。今度から気をつけるから、ね?ほらセレーナ様も踊ってないで早く入るわよ。」

「漢み溢れるポルターガイストなら見てみたいですよー、ハハ。」


 見た目以上に手入れが行き届いているのか軋むこともなく扉は開いた。

 ここは山の中に位置するコルーマの中心街から山手へ歩くこと20分の神山管理局。自警団が管理するこの国で一二を争う要所で、この地の由来でもある復活した霊峰"コルーマ"の祭事や事務、衛生環境までもを司る施設である。しかも自警団の本部だった時代もあり、見た目はボロボロだが頑丈かつ多機能で敷地も広く、今でも本部にしようと思えば全自警団員が入ることも可能だ。

 しかし現在は見ての通りあまり使われてはいない。地下牢などの有事に必要なものがあり、コルーマ山に近いという事もあって実務的には形骸となってしまっているが自警団のサボ…休憩所のような場所となっていている。そんな理由で緑のゴリラがほぼ全裸でトレーニングをしてても誰も咎めない。もう咎める気もこのゴリラの筋肉に吸い取られてしまったのだろう。


「おー緑の人!久し振りだなー!」

「久し振りと言ってもさっき別れたばっかりなんですがねー。どうかされました?」

「入山の手続きをお願いするわ。」

「ワックワクだなー。」

「うげっ。あの担当ムザだかんなー…。」

「あなたは出来ないの?」

「いやー書類とかは出来ないことはないんですがねー。ムザがいっつもやってる説明までってなるとちょっと厳しいですねー。筋肉見ます?」

「長居する訳でもないし書類だけでいいわ。筋肉ももう見えてるから結構よ。」

「いい筋肉だと思うぞ!ワクワクだ!」

「…どーも。じゃあ準備して来ますね。」


 そう言って下着一枚の変態が扉の向こうへと消えていった。少し補足すると、このコルーマ山の特に聖域とされる神石の採れる採掘場あたりは女人禁制である。女性は穢れているからとか、男性の方が優れているからというこっちの世界の歴史でよく耳にする男尊女卑とは違い"女性の方が神聖なものに近い"から、"神聖すぎるから"という宗教上の理由から避けられているのだ。劣化するしかない染色体を持たなかったり、生物学的にも女性が強いのは当たり前だ。だから、こっちの歴史も原始的な社会にまで遡ると女性の方が強かったし、現在でも家庭においては女性が強い方が安定するといった通説もある。こっちの世界では、欲求に忠実な男性は欲求より輪を大切にする強かな女性を畏怖し、力で支配することで欲求を実現しようとした。

 対照的にこの世界では女性を自分達の欲求を抑えつける横暴で非力な存在として捉えず、自分達から遠く離れた崇拝すべき存在としたのだ。上手いことに全ての女性を対象とはせず、理想像を作ることで女性さえもその存在を目指すべきだとする"型"まで用意して。

 時間はいつの時代も必要としなくても平等で必要とする時に限って不公平だ。私が1人で語っている間に、苔みたいな色の露出ゴリラは美女に囲まれながら真面目そうに話を進めている。



「んでー、ここにサインをしてもらえれば鉱山内で管理員程度の権利が許可されるーはずーだとー信じてください。」

「おい!しっかりしろ!しっかりしない奴にはしっかりしたワクワクなんてないんだからな!」

「ハッハッハッ、こりゃ手厳しいなー。」

「全くその通り。まずは自分の言葉遣いをしっかりする為にお勉強が大切だと、ご理解いただけて嬉しいです。」

「…たまにはグダァっとしたワクワクもいいもんだよな!緑!」


「(なんでほぼ全裸の男がいるのにスムーズに話が進むの?見慣れてるの?それとも頭の中ワクワクなの?どういうワクワクなの?)」


「そういうもんかなー。あ、サインありがとうございます。にしてもー、こーんな権限もらって何するんですかー?」

「まあ、それは…ワクワクよね。」

「ワクワクだぜー!」

「ワクワクーですか…。お祭り関係なのは分かりますがー、女所帯なんですから今日の奴とかー最近物騒ですんで気を付けてくださいねー。」

「お気遣いありがとうございます。では、失礼。」

「ワクワクでなー!」


「ほらミカちゃんも、筋肉を見つめていたいって気持ちも分かるけど行くわよ。」

「…あ、はい!失礼しました!」


 足早に2人のもとへ走るミカちゃん、彼女の冷ややかな視線の先にはポージングをキメる勘違い筋肉。いや別に見惚れてたんじゃねえし、犯罪者の一足一挙動を見逃さないように監視してただけだし、こっち見んな。そんな我が主人公の心の叫びが私には聞こえる。普通の恋愛さえよく知らない穢れなき乙女にありのまマッチョは早すぎた。ミカちゃんには勘違いする公然猥褻ゴリラなんて上級者向けのコンテンツとは無縁の世界に生きて欲しい、まさに今から開くコルーマ神山という聖域で真の女神へと昇華してもらいたい‼︎




「とりあえず今までの冗談は全て忘れなさい。ここからがあのガンドラの源たる霊峰の中心。ミカちゃん、ここでの仕事はまさに聖戦よ…覚悟はいいかしら。」


 彼女の手を引く天使は止まることなく、耳元でそっと呟いた。その言葉にのせられた、微笑に隠されていた深みは後輩に緊張を伝える為だけのものではない。



「はい!いつでも!」



 さあ、その質素な扉をうち開き、貴女に相応しい世界、聖女(貴女)がなるべき女神(貴女)へとなる世界へ、偉大なる一歩を聖地に刻みつけるのです‼︎





「なぁボブ、いいだろう?こんなところ誰も通りゃしねえよ。」

「あぁン!やめてよマイケル!何度も言ってるけど僕はそっちの趣味はないんだ!」

「じゃあ…どうしてお前は今、そんなに切なそうな顔してるんだ?」

「…っ!!」

「アノ時のことが忘れられねぇんだろ?なあ?!」

「マイケル!そこは、アッ、違っ!」





 空よりも風よりも彼方の天殿より燦々と照る太陽の下に一際輝く聖なる庭。そこに咲いた美しい薔薇。聖なる庭のバラ。



「衆道か。初めて見たがなかなか面白いな。」

「セレーナ様キャラ設定をお忘れなきよう、ここはワクワクで誤魔化すところでございます。」

「おぉ忘れていたな。ワックワクー!!」

「まったく…お茶目なんですから。」


「(もう何でもいいよ。)」



次回 質問(クエッション)です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ