知らない彼と歩く6話
前回のあらすじ
→地の文騒ぐ
〜本当に申し訳ございませんでした〜
皆さんおはようございます。そして、助けてください。
それが、目的地に到着するのが早かったのでお客様を起こすのも悪いかなって思って、お客様が起きるまで少っしだけ仮眠を取ってたらいつの間にかお客様がいなくなってたんです!
仮眠が過眠になっちゃってたんです!しかも、気が付いたらそこに怪しげな手紙が置いてあって簡単な文字しか読めないけど、私なりに頑張って解読してみたら…多分お客様は誘拐されたのだと思います!
あ、自己紹介がまだでしたね。俺はスタンブ様の命令でスタンブ様のご友人達を乗せた馬車を運転していました御者のリーパーです。下っ端でも馬の世話係でもお好きなように呼んでください。
今から大事なことを言いますよ。
これは、とても、大変な、こと、なんです!
あああ怒られるっ!知ってますか、スタンブ様ってすっごく恐いんだよ!いつもはニコニコしてて俺みたいな下っ端の話も聞いてくれるんだけど、仕事を失敗した人には容赦がなくて、この前は調味料を間違えたみたいで料理人のピピさんが解雇になったし、その前には可愛いメイドのシーさん、前の前は子供の頃からお世話になってたっていう執事長のマーシトッシュさんまで…。
もしも、もしもですよ!仮にご友人に何かあったら解雇どころか本当に俺の首が飛んじゃうかもしれないんですよ!ヤダー!
あ、おぁーざいっす‼︎
前に仕事しない‼︎って言ったんですけど"月曜日の次は火曜日"という世界の不条理に気付き通常出勤した地の文です。(申請したのですが休日出勤手当はもらえませんでした。でも先輩がご褒美に何か奢ってくれるそうです。イェイ‼︎)
それで今朝の話なんですが、前の回に頑張り過ぎて私としたことが爆睡してしまいさっきの覆面の変な奴と一緒に美女達に置いていかれました。残念。
最初はちょっとだけ隙間から見える顔が素敵なこの覆面さんのこと、実は細身スレンダー美女で覆面を取るとズッキュンときて恋に恋するあの頃に戻れちゃうんではないかとトキメキに溢れてたんですけど、ただの変な覆 面男でした。いやあ自分でも酷い言い方だと思いますが…少し待ってください、このお兄さん本当に変なんですよ。ちょっと聞いててくださいね。
こうなったら探すしかないか……はぁ…何だかイライラしてきたな仕事したくないし、馬達の世話もあるし、女の人と喋らないといけないし、嫌だなぁ、面倒くさいなぁ、憂鬱だなぁ…略して面ウットゥだよっ!ウッツじゃなくてウットゥ!
まったくっ!俺にこっっっっんな面ウットゥなことをさせやがって…このぉ…。
「待ってろよ!面ウットゥの根源供めっ!」
あのー、覆面さん心の声が口から出ちゃってるよ。後一応皆さんに伝えておきますけど、この面白覆面さんは私が起きる前から、つまり少なくとも1時間はずっとこの調子なんですよ。本当に変ですよね。しかも、黙ったまま......。
一見ただボーッとしているだけなのに脳内はあの病的なまでのハイテンション、若いのに色々あったんでしょうね......面白い。過眠って(笑)。
「はーい!いらっしゃいお兄さん!保存食はいらないかい?味も腐りにくさもウチの保存食はコルーマで1番だよ!」
「……あ、いえ。」
「よう、兄ちゃんは旅の人かい?旅行用品ならココがコルーマで1番品揃えがいいって言われてんだ。ちょっと見ていかないか?」
「……だ、大丈夫っす。」
「我が店の品揃えはァァァァァァァァコルーマ一ィィィィィィィィ!」
「…WRY。」
「宿ぅ!宿はいかがぅ!ちょっとそこのお兄さん、宿はお決まり?この時間から皆出発するから今ならいい部屋がとれちゃうよぅ。どぉ?サービスはコルーマで1番のモノを用意してるよぅん。」
「……いや、その。」
もしかして、もしかしなくてもこの覆面さんは人と話すのが苦手である。頭の中では流れるように挨拶をしながら颯爽と賑わう街を歩いているのだが残念なことに経験が足りない。そう、このコルーマ美女誘拐事件(仮)の捜査の中で友達いない歴=年齢の覆面さんに出来ることは少ないのだ。そしてコルーマの人は何にしても1番が好き。
「あなたに言ってるんだよぅ!覆面のお兄さん!って、あぅららら、綺麗な顔してるのに隠すのはもったいなぁい。この宿に泊まればあなたの自信もムックムクにしちゃうよぅ。ここいらの自警団のムッキムキのお兄ちゃん達だってこの宿で自信をムックムク付けてるのよぉ......どぅ泊まらなぁい?」
「……あ、いや、、俺は別に。」
「えぇムックムクよムックムクなのよぅ。ほぅら、ムックムク❤︎」
「すす、すすすいませんっ結構でっっっっす!!」
「.........あらぅ?変な人ぅ。覆面忘れてるのにぃ。」
いくらオネェさんっぽい人が苦手だからといって走って逃げるのは良くなかった、今度から『背ぇ負ぉいぃ投ぁげぇ』って言われたら背負い投げされに行こうと反省している様子の覆面さん。もう覆面じゃないけど私の中では永遠の覆面男さん。現在地は乗ってきた馬車の裏、要するに覆面さんはふりだしに戻って来たって事ですね、もう覆面さんったら何やってんの面白い。
違う俺は逃げたんじゃない。あいつの目はヤバかった、あれは何十日ぶりに飯を手に入れたお腹ペッコペコの肉食動物が飯を差し出すどころか自らの皮を剥いで自分の肉を自分でこんがりジューシーに焼き上げブロッコリーまで添えてしまうんじゃないかってぐらいヤバかった。話の通じる相手じゃないことは見ただけで分かる。だから俺は最善を尽くし距離をとったんだ。それに加えて一般的に誘拐をするような外道はここみたいに人目に付かなくて薄暗い誘拐犯みたいに陰鬱とした裏道なんかにいると相場が決まっている。まあ、分かりやすく一言で言えば、この一連の流れは最初から全て我が掌中にあったのだっ!まさに計画通りっだっ!ハーハハハハハハ!
どっかで聞いたことがありそうな言葉に高笑いを添えて、いつも通り脳内で惜しげもなく無駄にハイなテンションを撒き散らすサイレントハイテンション覆面さん。皆さんは信じられるでしょうか?今日の覆面さんは「あ、いえ」とか「別に、大丈夫です」ぐらいの言葉しか現実では発してないのに正式な地の文よりも行を使っているのです。車中の美女達以来のアンビリーバブル。
ハハハハハ!よしっ!調子が出てきたぞっ!大通りは一通り確認してご友人がいないことが分かったから次は唯一の手掛かりであるこの書置きの解読だっ!
えーと、なになに…『ちょっと……見る……あなた…眠る…許す、許される…1200…あなた…赤子の宿…迎え……きっと…横になる、倒れている』と………フフフフフ!
フーハッハッハッハッハ!なるほど…おおよそは分かった!
つまり、『この美女達にちょっと景色を見せに言ってくるぜグヘヘまあお前はグースカ眠っててもいいから大人しく寝てろグヘヘまあ1200万ほど譲ってくれるなら美女達は返してやるぜグヘヘその金は赤子の宿に持ってきな、持ってこなかったらこの美女達は倒れてしまうだろうなグヘヘ』ということだな!不埒な犯罪者めっ!景色を見せるとは誘拐を遠回しに表現しているのだろう、自分ではウィットに富んだギャグを使うアウトローなハードボイルドスチームパンクのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長介とか思ってるんだろう、ふざけやがってっ!人をバカにして楽しんでいるのかっ!何が美女達は倒れてしまうだろうだ!性的にかっ?性的な意味でかっ?おのれっ許されると思うなよっ!!
それでも安定のこの無言&体育座りである。何というか覆面さん流石です。年齢は多く見積もってもミカちゃんの1、2歳上くらいだろうに本当に何があったのかって心配になる二面性、やっぱり………面白い。
「おーいそこの不審者ー、俺らのナワバリで何してんだ?」
軽い感じのピアスを付けた前世がゴリラと言われても納得できる筋肉量の第4ボタンまで外した緑マッチョと三下感が滲み出ている眼鏡着用のインテリっぽい白もやし、簡単に形容するとチンピラ風の男が2人…犯人は現場に戻ってくる理論から考えると今回の誘拐犯と繋がっている可能性もあるなっ。フッ最悪の場合は流血沙汰になるかもしれないが仕方がない、出来るだけ穏便に情報を聞きだすとしよう。
「だんまりか?見ない顔だけど、ひょっとしてオレ達にケンカを売りに来たのかい?」
「あーあーそうやってムザは、すーぐにケンカの話にしたがるー。まあそーいうの嫌いじゃないけどさー。」
「あ、えっと。あの、誘拐が」
「あぇ?声が小さくて聞こえないぞー。」
「誘拐って言ってなかったか?」
「誘拐ぃ?俺らを誘拐するってか?やってみろよー、オレをコルーマで1番の腕自慢リョク様と知っててそんなこと言ってんのか?」
「いや、いや、犯罪者で、その。」
「犯罪がどうした?」
「モゴモゴ言ってても分かんねーぞ。こいつ怪しーな、何か大事なことを知ってるのかもなー。」
「…連れて行くか。」
「だな、詳しいことはあっちで聞くとしよーか。おーい着いて来い。」
「ああ、違っ…。」
こいつらも話が通じる相手ではなかったようだ。がっしかし!このおマヌケな犯罪者達は俺の巧みな話術によって口を滑らせてしまった。"連れて行く"という単語に躊躇いや罪の意識などは無く不自然な程に慣れているようであった。よって!こいつらは今回の誘拐犯の一味である可能性が高いっ!
最悪の場合を想定してなかった訳ではないが、ククク、まさか本当にそういう流れになってしまうとは…。まあ俺はこのまま大人しく着いて行って犯罪者どもを一網打尽にも出来る男だが、
俺にはやるべきことがある。
「どうした?ああ、怖がることはない。オレ達はみてくれはイカついが裏では女の子には優しいと評判なんだ。安心して着いて来な。」
「おーい、それセクハラだぞ」
「フッ俺は男だがなっ!」
「まじで?ってかちゃんと喋れんの?!」
「まー男でも俺らは優しいけど、ナァッッ!!!」
自分の中の世界に入っちゃうと饒舌になる不思議な人がたまにいる。覆面さんもそんなちょっと面倒臭い人の1人である。面倒臭いって言ってもいきなり人を殴るのはいただけません。
「まずは1人っ!」
「おいリョク大丈夫か!この!お前一体何者だ!」
「どこにでもいるありふれた正義漢っ。とでも言っておこう」
うわダッサ。
「上等だ!!」
覆面さんの右斜め上からチンピラの鋭い拳が迫る。服や鎧などを装着することができ防御が高く小細工も容易な胴体を狙わず確実に意識を奪う頭部を狙った一撃必殺の攻撃。
こいつは戦い慣れている、勝つ方法を知っている。こいつはただのチンピラじゃないっ!相手をひねり潰す為に考え、実際に何人もひねり潰してきた立派な犯罪者だ。だがそれでは不十分っ、俺もただのケンカ売りじゃないっ!
「これを避けるだと?!」
「ナメんなっ!」
チンピラ風の男はいたずらに空を過ぎた拳を横に振るい体勢を整える。戦いを知っている人間は決断が早い。チンピラ風と言われていたこの白服が次の一手、いや一足を低めに蹴り出した。拳を避ける為に屈んだ覆面さんの真横には倒れているゴリラピアスよりは細いが引き締った白服の脚が伸びる。
「ナメてんのはどっちだ!!覆面!!!」
己の勝利を確信した白メガネの顔に笑みが浮かぶ。侮っていたのは覆面、お前だと信じて疑わなかった。
「だからっお前だよっ!」
「跳...んだ......だトォッッ!!」
「屈んだら普通跳ぶだろうがよっ。」
キレイに飛び蹴りがキマり吹っ飛ばされる白もやし。その理屈は理解し難いけど戦っていた覆面さんはカッコいいと言わざるを得ないだろう。
「さて、そんじゃ次は持ち物検査といこうかっ!そろそろお腹が空いたんだよなぁ。」
武士に二言はないって言葉があるけど武士じゃないし前言を撤回したい。コソ泥体育座り系覆面に未来はない。
「............これは鍵の束、と...ヤッタ!携帯食料!それにハンカチと、これは?......笛か?仲間に合図を出すときにとかに使うのか?これは思ってた以上に組織的な犯行だな......。」
「......っておおおおっ!良いもの見っけ!コルーマの市街図かっ!これで赤子の宿に行けるじゃないかっ!フフフ待ってろよ。俺は絶対クビになんかなんねーからなっ!」
「ふぁあ...リョクとムザ遅いなぁ」
「すいませんトーカさん。お待たせしました」
「あぁいえいえ、これも自警団の務めですから。それよりコルーマ名物の"赤子の宿チャヤさんの灸加療"どうでした?」
「すっごく良かったです。体の内側から元気がもうムックムクですよぅ。」
「フフ、チャヤさんの真似ですか?」
「ええ、似てました?」
「いいえチャヤさんの真似にしてはミカさんはキュート過ぎます。」
「もおトーカさんったら、褒めても何も出ませんよ。」
何がキュート過ぎるだ、あの優男め。ミカちゃんとあんなに楽しげに会話しやがって羨ましい。何もない所でこけろ。河に落ちろ。雷落ちろ。アフロになってしまえ。
「ご友人を発見。作戦を実行する。ああやって優しく近づいて身代金が手に入らなかったらパクッと食べちまうんだろうな…恐ろしいクズだ。ご友人すぐにこの短剣でお助けに向かいます。」
ああ‼︎もうカッコ良過ぎるよ覆面さん‼︎まぶいよ最高に輝いているよ‼︎前言撤回だぞこの野郎‼︎さあグサッといっちゃってください‼︎グサッと‼︎
「あれ短剣がない?」
うわダッサ。いいじゃん覆面さん強いし素手で行こうよ。素手で。
「クソッ刃物が無いとなると......ご友人が人質に取られる心配があるな。しかも、あいつは前の奴らより手強そうだ。素手だとご友人に危険が及ぶ可能性が…クソォ。」
手も足も出ない八方塞がりの現状。なら、他人に手やら足やらを出してもらえばいい。
「そうかっ!俺がやらなくても誰かにやらせればいいっ!」
覆面屋、お主も悪よのぉ。
「ビローさん達はもう少ししたら出てくると思います」
「?!ミカさん下がって!」
ガンッ!
「木材?お前は何者だ!」
「思った通り下っ端とは反応が違うなっ。」
「怪しいな、不審者が何の用だ?」
「フフフ、その余裕がいつまで続くかな。」
スランブ様から聞いたことをさっき思い出した。コルーマでは子供やご老人、妊婦などは笛を持っていてそれを鳴らせば自警団が駆けつけてくれるらしいっと!じゃあこの笛でもイケるんじゃないかっ!この暴漢をポリスメンに倒してもらえるのではないかっ!
ここで何かおかしいなと気付いて止まっていれば覆面さんに前科がつくことは無かったかもしれない。覆面さんのことは...たぶん忘れない。
「スゥ.........ピーーーーーーーーー!!!!」
「「へ?」」
「なぁに?営業妨害はやめてよぅ。」
「ハーッハハハ犯罪者め!もう自警団を呼んだっ!ご友人を解放し大人しくお縄につくんだなっ!」
「......自警団をお呼びでしたか。私は自警団団長のトーカと申します。」
「副団長のリョクでーす。」
「同じく副団長のムザだ。さっきは世話になったな犯罪者。」
「え?いや、違って、そこのご友人を…。」
「ミカさんのお知り合いですか?」
「いいえ。私は知らないです。」
「あ、私知ってるよぅ。あのお兄さん私が話しかけたらアタフタして逃げちゃったのよぅ。」
「何かやましいことでもあるんでしょうね。リョク、ミカさんは頼んだ。ムザ、この男を連行する手伝ってくれ。」
「さっきの跳び蹴りの分、可愛がってやるぜ。」
「いや、そ、その。た、助けてー!」
「はーワクワクだったなビロー!」
「そうね、流石コルーマで1番のサービスだわ。」
「あらぅお褒めに預かり光栄よぅ。」
「旅の疲れがすっかり取れたわ、ありがとう。途中の大音量の笛の音が無ければ最高だったんだけど。」
「それが、見た感じ病弱そうで、やつれた感じの、私ぐらいの歳で茶色いバッグを持った細身の男の子がいきなり笛をピーって鳴らしたんですよ。」
「路地裏で自警団に襲いかかってくる異常者ですよー。」
「そう、物騒ね。もう一泊しようと思ってたけど今日中にも出発しようかしら。」
「えーこのワクワクの街をまだ全部見てないぞ!まだワクワクし足りないぞー!」
「もぉワガママ言わないの。」
「あのビローさん馬車に行かなくてもいいんですか?」
「大丈夫よちゃんと『少し街を散策してくるけど貴方はまだ寝ててもいいわよ。12時に赤子の宿に迎えに来てね。私達はゆっくり休んでるから』みたいな書置きをしといたから。」
「あぅれれれ、12時はとっくに過ぎてるよぅ。」
「あれー?それはおかしいですねー。客人達。」
「そうね。」
「そうですね。」
「ワクワクだなー。」
「だ、だから、俺は、その...。」
「トーカ、ダメだ。こいつ話になんない。」
「お疲れ様。それよりムザ、この印どこかで見たことないか?」
「んぁ?なんだこれ?」
「リョクから預かったあの男の数少ない所持品だ。」
「これは……確かにどこかで見たことのあるようなって、ああ!クイズマン所長んとこで見たぞ!魔除けの印じゃないか?」
「魔除けの印とは少し意匠が違う...クイズマンさんのお客を狙ったこいつ、一体何者なんだ?」
「俺は無実だっっ!!!」
次回 ワクワクの人からワクワクが消える日