息つく幕間もなく
前回までのあらすじ
→ゴルフのルール?知りませんよ
拝啓
風薫る新緑の季節、皆様におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申しあげたいところ、なんですが.......ここに独り、窓から見える五月晴れの空や青葉が眩しく感じる自然輝く山々にさえ目もくれず、鬱陶しいだけの書類の山と闘う風流の"む"の字もないお方がいらっしゃいます。
『会長赤いな!アイウエオ!』
「………。」
『浮藻に会長泳いでる!』
「……………。」
『会長栗の木!カキクケコ!』
「…………………。」
『啄木鳥コツコツ枯れ会長!』
「……………………………。」
『会長酢をかけ!サシスセソ!』
「…………………………………………。」
『その魚会長刺しました!』
「うるさあああぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
「今流行りの壁ドン‼︎ いや‼︎その更に一歩先を行く天井ドン、略して天ドンですか‼︎」
「んな、しょーないことゆーちゅぅ暇があんなら上ん奴らぁ止めてきぃ!」
「ああ、その点はご安心を‼︎先程の音声は会長様をからかうためだけに特別に作られたもので、先輩方はもう会長様の反応を楽しんだものと思われます‼︎よってすぐに止まります‼︎」
「しかも。今日は非活動日だ。」
「大会とかもな〜く演劇部は定休日のはずなんだけど〜、なぜなぜど〜してフルメンバーなんだよね〜。」
「暇なのか?!」
「んな、当たり前の事ぁ聞かんでも分かりましょうが。」
「うおおおおお⁈久し振りの敬語タケ先輩だあああああああああああ‼︎これはいいものが見れました‼︎」
「うるさい。」
「てゆ〜かさ〜ここ寒くな〜い??」
「確かに少し寒いですね‼︎」
「まぁ…こん学校も相当古いっちゅうしな。」
「何が言いたい。」
「…ナニかいるんかもしれんな。」
「「きゃあああああああああああああああああああああ!‼︎!‼︎」」
「うるさい。」
「やめてくださいよ‼︎私そういうの苦手なんですって‼︎」
「んにしても騒ぎ過ぎやろ。まったく。」
「そ〜だよ〜男ならしっかりしなよ〜。」
「マリ先輩だって叫んでたじゃないですか‼︎」
「マリは女。コマイチは男。だ。」
「いやぁん‼︎だってぇ‼︎私もこわぁい‼︎」
「うわ〜。」
「やめい!気色悪いわ!」
「確かに。やめた方が良い。」
「分かりました‼︎こんなに言われるなら男辞めてやりますよ‼︎いいえ、こっちから辞めてやりますわ‼︎」
「そ〜だこの後コンビニ行かない??」
「えっ⁈私の決意表明はどうなったんですか‼︎」
「賛成。」
「今週は期間限定の唐揚げがあるらしいのぉ。」
「そ〜それそれ〜私は辛いのいけるんだけどさ〜ウーたんがダメだからさ〜。」
「私が女になっちゃうんですよ‼︎」
「確かに儂らは辛いもんいける口やけぇな。しっかしコンビニのちゃっちい唐揚げぐらいじゃと物足りんかもしれんけどなぁ。」
「ほ〜それは楽しみなんやな〜」
「もしかして儂の真似か?」
「まだまだだ。」
「か〜方言ってむつかしいね〜。」
「っっっっるさいぃ!!!」
「「「?!」」」
「さっきから黙って聞いとったら意味の分からん話をタラタラタラタラとぉからかいに来たんやないのかい!!」
「からかった方が良かったんですか⁉︎」
「違うわ!!!仕事の邪魔が!!定休日なぁサッサッと帰って課題でもしぇんかい!!」
「「「は、はいぃっ!!!」」」
ウナガミ先輩と同じく、いやそれ以上にこの界隈で彼女を知らない者はいない、170cmの長身と抜群の運動神経、凛とした雰囲気を持つ元演劇部部長。彼女の人を惹きつける才能、所謂カリスマ性というものは生徒会長当選以外でも演劇の全国大会にも出場するなど様々な面で暴力的なまでに発揮されている。
しかし、そんな彼女も完璧でない一面を持っている。"生徒会長様の隠れた人間味"それを晒してしまった数少ない場所の一つがこの演劇部である。
それを晒してしまった理由は幾つかあるが、私は気にしていない。勉強が苦手でも、人付き合いが苦手でも、考え方が違っても、単純にイイねと認めてくれる人達がいるだけで何度も救われた。演劇部は家族、後輩達は妹や弟だと思っている。まあ、やり過ぎたら怒るのも家族の務めだがな。
「怖がってるフリして隠れてても何かやらかしたら許さんかんな。」
「は、は〜い…お邪魔しまし〜た。」
嵐が去った後に残るのは、威厳ある生徒会長席の机の上で一向に減る気配なく天高く聳える書類の山と、
「もう全員行ったか?」
「…そういうの何て言うか教えてやろうかー。」
「んんんんんんんんんんん‼︎死亡フラグ‼︎このあたりから濃厚な死亡フラグの気配が致します‼︎」
「ひいぃ!」
今密かに話題の無気力系副会長。
「おおおおっと‼︎これはこれはオヅキ先輩ではありませんか‼︎お久し振りです‼︎今日も働くことに対して全力で後ろ向きで早く帰りたいと言わんばかりの独特な魅力に溢れていらっしゃる‼︎」
「ありがとう、そんなに褒められちゃったら嬉しいものも嬉しくなくなるよ。」
「そんなに褒めないでください‼︎先輩の隠しきれない魅力をただ口に出しただけですよ‼︎それにしてもいつの間にいらしていたのですか‼︎」
「んー、ついさっきかなぁ。(汗)」
「それは惜しいですね‼︎あと2分早く此方にいらしていたら会長様が地上波初公開した次世代の流行を先取りできたというのに‼︎まあ、過ぎたことを悔やんでも仕方がありません‼︎」
「やっぱり君の後輩は変な奴ばっかりだね。」
「特にこいつには私も驚かされた。」
「なぜなら我々の目はより広範囲を立体的に見ることや‼︎正確な距離を測るためだけについているわけではなく未来を見るために前についていますからね‼︎まあ、振り返ることも出来るよう我々の首が動いたりもするわけですが、一旦それは置いておきましょう‼︎」
「それにしても止まらないなぁ…。」
「つまるところ私が言いたいことは‼︎先輩方には私の目の前に高々と積み上げられた使命の山に真っ直ぐに向き合ってほしいということです‼︎」
「要は頑張れってことら?」
「その通りです‼︎その通りなのですがここに積み上げられた紙の束につまった先輩方の使命はそんな陳腐な単語で済まされるようなものでは決してないでしょう‼︎」
「この書類は何なのか知っているよな。」
「えっ...?し、知りませんけど。」
「本当に?」
「え、ええ‼︎…使命と言う他ないような私ごときには理解できない程の何かがこの御山には…。」
「えーと〈今年度予算案〉、〈演劇部予算調査〉、〈今年度予算修正案〉、〈演劇部からの要望〉と…赤い字で'数字が合わない'と書かれた今年度の生徒総会か何かで使われた最終予算の紙などなど…だね。」
「予算決定から数ヶ月経った今頃になって発覚した予算のミス……。」
「人間だ「人間だもの気付かない時だってあるよ‼︎、で済むものだと思うか。」
「………不思議なこともあるものですね‼︎」
「私は人為的なものだと思っている。」
「はっ‼︎急に勉強への意欲がムクムクと‼︎これが"ものごころ"とういものなのか⁈」
「早く帰りたいんなら、実行犯を教えてもらおうか。」
「私は部員になりたてホヤホヤ‼︎可能性のかたまり1年生‼︎悪いように言えばつかいっパシリ同然の存在‼︎会長様には悪いのですが何も知りはしませんよ‼︎その証拠に書類の印もマリ先輩のものです‼︎」
「ほお。」
「信じてもらえたのなら重畳‼︎では私はこれで失礼します‼︎」
「おーい、顧問の先生なんだけどコマイチ君からもらった要望書の写し持ってきたよ…ってコマイチ君どうしたの?」
「うげっ‼︎まずい‼︎」
「えっ?何?どうしたのって?」
「コマイチ君にはここにある書類について質問をしていたんですよ。」
「ああ、今年度の部の予算はコマイチ君が頑張って担当してくれたもんね。」
「先生⁈」
「予算については知らないと聞いたのですが…。」
「アッハッハッ‼︎」
乾いた笑い声を叩き割るように振り下ろされた平手。今の絶対痛いやつですよね、机バンッてめっちゃ痛くないですか?絶対痛いやつですよね?
「サナダさん手大丈夫?」
「…何がまずいのか教えてもらいましょうか、コマイチ君。」
「(あれ?おかしいな僕先生のはずなのに無視された?)」
「いやぁ私じゃないですよ‼︎もしそうだとしても、私の字は汚いですからね5が6に見えたとかそのくらいのことじゃないでしょうかね‼︎」
「なんで6って知ってるんだ。」
「墓穴っ…‼︎」
「答えなさいコマイチ。」
「……し、しましたよ‼︎ええ‼︎どうしても緊急でお金が必要という話になりまして印をもらった後にちょこっと線を加えましたよ‼︎本当に申し訳ないって思ってますけど、1000円ですよ‼︎たった1000円じゃないですか‼︎今すぐにでもお返ししますよ‼︎なんなんですか‼︎何でそんなに怒っているんですか‼︎あれですか、逆ギレってやつですか‼︎そうやっていつもイライラしているから"女帝"とか"悪魔会長"とか"サナダさんって顔怖くね"とか言われるんですよ‼︎」
「後輩くん最後の最後はただの悪口じゃない?いいの?その魔属性バリバリの女帝様にケンカ売っちゃったんだよ。」
「あと先輩太りました?」
「うわー。」
今度は〜コマイチ君の頬に振り下ろされた先生の平手〜。しか〜し皆にいいことを教えてあげよ〜コマイチ君はMなのだ〜!
「あなた達が手をつけたお金は生徒のお金でも、私達教員のお金でもありません。皆さんの為を思って親御さんが出してくれた学校のお金です。そして、君のした事は立派な犯罪です。」
「犯罪に立派なんてないと思います‼︎」
「その通り、どんな犯罪も最低な行為です。それを棚に上げて逆ギレ、ましてやサナダさんを馬鹿にするような言動は許されないことです。」
「まあ"普段"だったら私も少し説教して終わりなんだが……覚悟して聞いてほしい。」
「(あれ、また僕はスルー?シースルー?)」
「?何か急に寒くなった。」
「先生その変顔はどうしたんですか⁈」
「いやだって、先生らしく怒ったのにスルーされちゃったんだよ!」
「…あれはそういう"流れ"なんですよ。」
「え?流れ?」
「顧問なのに知らないんですか?前の文化祭で演った[あの後輩大嫌いです!!!]っていう台本の好きな先輩から怒られて後輩がつい毒づいてしまうシーンなんですって。」
「そこから転じまして‼︎我が演劇部の中では謝罪や感謝の気持ちを"照れ"を含めて伝えたい時‼︎ 謝罪または感謝の言葉+逆ギレ+『あと先輩太りました?』で伝えることができます‼︎」
「へ、へぇ…。」
「それで会長様‼︎覚悟して聞くような話とはなんでしょうか‼︎」
「やけに早いが本当に覚悟はできているのか?」
「勿論‼︎このコマイチは何時如何なる危機にでも臨機応変に対応できる男ですよ‼︎私の財布の中見てみますか‼︎」
「えっ見たい。」
「私は遠慮する。という話は置いといて予算の話なんだが、三週間前の事件を知っているだろうか。」
「ああビックベン(笑)が怒ったって噂のやつですか‼︎」
「そう君達が公欠していた日の五時間目、ビックベン(笑)の愛称で親しまれている旧校舎の大時計から大きな金属が落下したような大きな音が聞こえた事件があった。」
「まさか⁈ビックベン(笑)の真下の演劇部室が潰されたんですか‼︎」
「じゃあ今日使った音響の道具はどこから取ってきたんだよ。」
「はっ‼︎オヅキ先輩、貴方は天才なんですか⁈」
「オイ話を続けるぞ。調査によると鐘を固定している金具の老朽化が進んでいて落下したらしいのだが、その他の部品も修理が必要で先日修復工事の発注が行われ一週間後には着工される。」
「ビックベン(笑)は我が校の象徴的な存在ですからね‼︎また元気になって私達を見守っていてほしいです‼︎」
「いい感じに締めくくろうとしてくれてるところ悪いが、その工事の予算を調整している途中色々と"合わ"なくてな……結果的に予算が足りないという結論が出た。」
「で、でも、たった1000円なら足りなくも問題無いですよね‼︎」
「「「………………。」」」
「...え⁈そんなにです⁈」
「工事の前にも部友会を通してサッカー部やテニス部、茶華道部、吹奏楽部などからの要望があったりして無理してる部分もあってな…最終的な不足額は6000…。」
「なんと6倍の6000円ですって⁈」
「残念、万円だ。」
「6万円、つまりミリオン⁈」
「残念、テンミリオンだ。」
「6000万円⁈そんなになるなら工事しなくてもいいいじゃないですか‼︎」
「その場合、キャンセル料やらなんやらも合わせて2…。」
「ほら4000万円も削減できるじゃないですか‼︎」
「億円になりまーす。」
「ハンドレットミリオオオオオオオン⁈」
すごい事になって来ましたね。
暑さ厳しき折柄、くれぐれもご自愛下さい。
敬具
次回 たまにはお仕事をしよう