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みかんアイス

作者: 鷲澤 しば

 昨日見たドラマで、海に沈む夕日が映っていた。

静かに波打つ砂浜に立ちながら、日が沈むまでじっと水平線を見つめる。

そんな夕暮れも過ごしてみたいけれど、僕が海に行ったら遊びが先でそれどころじゃない気がする。



 僕が住んでいる街は、海のように綺麗に沈む夕日を見ることができない。団地ばかりの街の隙間から、まぶしく光る夕日が顔を覗かせているだけ。

ちょうど今の時間も、自分の部屋から見える夕日がまぶしすぎる。その光を遮りたくて、僕はまだ外が明るいのにカーテンを閉めた。


 母が夕食の準備をする音が聞こえる。薄暗い部屋の中で、今日一日特に何もせずに過ごしてしまったことを後悔する。


「あーあ、つまんない」


どこかに行きたい。

でも今の時間からでは遅いし、何よりそう思うだけで実際に動こうとする気力はないのだ。

ただ何もしないよりはマシな気がして、居間に向けて「コンビニ行ってくる」と告げた後、サンダルをひっかけて玄関のドアを開けた。



 8月が終わりかけているのに外は相変わらず暑く、夏休み明けを想うと気分を憂鬱にさせる。

暑いから早く行こう。1階まで小走りで階段を下る途中、踊り場から見えた風景にふと足が止まった。


 街の団地が皆、濃いオレンジ色に染まっていた。

いや、団地だけじゃなくて、遊び帰りの小学生も、スーパーの袋を下げたおばさんも皆濃いオレンジ色に染まっていた。

何度も見ている風景のはずなのに、何故か今日は綺麗に感じた。


 ドラマで見る海の夕日には、なんだか明日の希望を感じさせる前向きなものを感じる。

けれども僕の住んでいる街の夕日からは、鬱々としたものをいつも感じていた。


夕日の色の中に、夏の終わり、無駄に過ごした一日、あまり好物ではない晩御飯の焼き魚の香りなど、なんだか切ない気持ちが全部詰め込まれている気がするからだ。その色が切なくて少し悲しくなるのが嫌だった。

だけど今この一瞬はなぜだか、ああ、いいなと思える風景だった。


 僕も少しは大人になった、ってことなのかな。


 

 結局、日が沈むまでそこに立ちすくみ、はっと気づいて小走りでコンビニに向かう。

オレンジの色に魅せられて、みかんアイスを買うことにした。


 しかし、コンビニに着いて見たアイスケースの中にみかんアイスはなかった。売り切れだ。

薄暗くなった外とは逆に、やけに明るい蛍光灯の下、僕はしばらくその場で足を止めた。

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