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宙〈そら〉へ撃て  作者: ヒヨコ
プロローグ
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プロローグ アリューシャンの海

初投稿です。気まぐれな投稿となりますがどうぞお付き合いください。

2047年 北太平洋 アリューシャン列島沖


国連軍決戦艦隊は進路を西にとっていた。

合計31隻。ミサイル駆逐艦などの大型艦は4隻ほどしか無く、ミサイル艇や哨戒艇、挙句の果てに巡視船など、いわゆる寄せ集めの艦隊だった。

人類の海洋戦力はもうこれらしか残っていない。

あとは全て海の廃墟と化した。

彼らは勝つためにここへ来た訳では無い。

悲惨な戦いを演じる役者としてやって来たのである。

その相手は未知の地球外生命体だった。


数少ない駆逐艦の中に、海上自衛隊こんごう級イージス護衛艦『きりしま』がいた。


ネームシップの『こんごう』や改こんごう級『あたご』含むいわゆる『第4世代』のイージス艦8隻は、2020年代後半に登場したステルス性を持つゆきかぜ級イージス護衛艦に主力の座を奪われ、地方護衛隊で細々と余生を送った後、2030年代後半に全て除籍され、自衛艦としての役目を終えた。

その後、『こんごう』や『きりしま』は記念艦として広島県呉市呉港や福島県いわき市小名浜港に係留され、その他の艦は東南アジア諸国にアジア安全保障協定(某国は反発していた)に基づく相互協力として無償供与された。ちなみに、ここでイージスシステムが某国に漏えいする恐れが有る、としてアメリカが難色を示しているが、当時はアメリカ軍は軍縮の一途をたどっており、アジアの安全保障から手を引きつつあり、日本にも負担させるべきだとのアメリカ国内世論もあったため、結局は輸出され、ついでのようにアメリカ海軍も軍縮により余剰となったイージス艦を多数インドネシアやタイ、マレーシアに提供している。当然、某国は主権の侵害を助長する動きだとして反発している。


その後、第2の人生を歩んでいた『きりしま』だったが、『それ』が侵攻すると、世界情勢は大きく変わった。

『それ』は地球に飛来するなり各国の主要都市を瞬時に殲滅。地球外生命体による明らかな敵対行為と見た国連はすぐさま国連軍を組織するも、各国の足並みはバラバラでその不意をつくように瞬く間に世界の制海権、制空権は奪われていった。

海上自衛隊も多数の護衛艦を失い、開戦から1週間で総戦力の大半を喪失した。頭を悩ませた海幕は記念艦として保存されていた『こんごう』『きりしま』を復隊させた。

しかし、『こんごう』は第2次ハワイ沖防宙戦で沈没、残る海上自衛隊戦力は『きりしま』のみとなった。


数々のベテラン乗組員を失った海上自衛隊は、『きりしま』艦長にある男を充てた。


「なんで僕なんですかね?」

その当の本人は『きりしま』艦橋で未だにぼやいていた。

小野寺晃。海上自衛隊史上最年少の艦長だ。

戦役勃発前は2等海尉だったのが、人手不足による階級インフレであれよあれよという間に昇進して3等海佐、そして『きりしま』艦長の任に就いた際、2階級特進の1等海佐となってしまった。現在29歳。全く本人もこうなった理由がわかっていない。そのため何だかやる気に欠けていた。

「人手不足だってのは重々承知してるんだけど、なんで艦長が僕なんですかねぇ。他にも適材はたくさんおられるでしょうに。たとえば副長とか」

「まだボヤいておられるんですか。もう戦闘海域ですよ」

副長の国東英敏2佐が呆れた顔で指摘した。

国東は52歳。小野寺のはるーか前に防衛大学校を卒業している大大先輩であった。まさかその人が部下になろうとは。これが小野寺が気が乗らない理由のひとつでもあった。

「艦長なんか国東2佐の方が最適じゃないですかぁー。だって現役時代の『きりしま』に乗ってるんでしょう?僕達なんか教本で見ただけ。こんごう級を知らない世代なんですよ?」

国東は困っ顔をして「選ばたのにはそれなりの理由があるんです。任務に集中してください」と宥められた。

「ま、それもそうっすね」

小野寺は艦橋の向こう、太平洋を眺めた。どこまでも灰色の雲が立ち込め、この先の艦隊の行く末を見ているかのようで、小野寺は眉をひそめた。

海はうねりを増すばかりだった。


しかし、この作戦から『きりしま』は落伍してしまう。


目標まで200キロを切った時だ。

艦橋に損害を知らせるビープ音が鳴り響いた。

「CIC!!どこがイカれた!?」

《機関に異常を確認しました!》

小野寺の確認にCICオペレーターは少し狼狽気味で答えた。

「機関室に調査班は!?」

「向かわせてます!!」

「機関出力低下、速度低下します!」

「おいおい、ここに来てこれじゃ異星人に勝てっこねえな」

小野寺が得意とするボヤキをまた繰り返した時、機関部に送っていた調査班から報告が来た。

「燃料タンクに亀裂です!!」

「流石に大荒れのアリューシャン海域に耐えられなかったか」

がっくり肩を落とす小野寺。呆然とする国東。そこへ更に追い打ちをかけられた。

「速度を13ノットに減速!!」

艦隊速度は24ノット。海空共同作戦であるため、作戦日時を遅らせることは出来ない。

これで、作戦参加は絶望的になってしまった。

「旗艦に『到着遅れる。先にゆかれたし』送れ」

呑気な小野寺も声のトーンが落ちていた。

しばらく経って、

「旗艦『ヒューストン』より返信。『要請了解した。貴艦の無事を心から願う』」

「マークス、すまない」

小野寺はリムパックで知り合った決戦艦隊司令の無事を祈ることしか出来なかった。

『きりしま』は艦隊からこぼれ落ちるように落伍していった。



しかし、これが『きりしま』の運命を、そして世界の運命を大きく変えた。


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