1.生れ落ちた世界。
2015年8月23日始動。
作者の気の向くままに投稿致します。
傾向としては、初めての俺TUEEEE!作品です。
内政に関してはそこまで、詳しく突っ込めないかもしれませんが政治云々頑張ります。
子ども子どもしていない主人公の冒険活劇を目指して。
1. プロローグ。
世界は『絶対不変』の樹、ユグドラシルの枝葉として捕らえられている。
世界で起きる出来事は、全て葉の成長過程に等しく、崩壊もまた呆気なく。
葉が一枚、枯れ落ちただけの事になるのだろう。
並行世界、もしくはパラレルワールド。
ファンタジー系やそれを宇宙に置き換えたSF系などで、壮大なスケールの世界を物語にした題目の中で、一度は必ず眼にし、耳にする言葉。
その世界は、例えば目の前にある二つに分かれた道を、右に進むか、左に進むか、というだけで決まる。
右に進んで、落とし穴に落ちたが、それ以外は安全に進めた。
しかし、左に進めば、今度は未知の生物に襲われて死んでいた。
それを当事者として分かるべくも無い。
しかし、その事象が重なり合う並行した世界。
何を選択し、何を切り捨てたのか。
事象が幾つも重なり合った世界のことだ。
勿論、選択肢の中には、進まないという選択肢もあったかもしれない。
だが、それはどうなろうと知ったことではない。
この例題によって、何を結論とするか。
それは、自分自身の選択、ひいては世界の選択によって様々な世界が生み出され続けているということ。
そして、生まれる世界があれば、滅びる世界もある。
その滅びを迎えた世界であっても、その方程式は変わらない。
つまり、選択によって重なり合った結果が、世界の崩壊となったという事実だ。
それを、ユグドラシルの樹でたとえるのならば、大して大きな事変でもない。
あっても無くても、別に困る事は無いのだ。
しかし、それが枝に波及するとなれば、どうなるのか。
葉が一枚、落ちたところで瑣末事。
だが、その葉が、全て枯れ落ちてしまった時、枝はどうなるのか。
学者達がこぞって、論争しても所詮は憶測。
それが、どういった結果を齎すかまでは、想像の範囲内でしか考えられないのが、必然だった。
「……もう、時間は無いかもしれないな…」
言の葉に、意味も無く乗せられた落胆。
少年のような、あるいは少女のような容貌をしたその人物。
その人物の目の前に鎮座した水晶には、真っ黒な靄が立ち昇っている。
既に、その靄に大半が埋め尽くされている状況だ。
「…異界の魂よ。…出来れば、次の世界では心を乱すことなく、清廉であってほしいものだ…」
人々から神と呼ばれ、崇め称えられるその存在。
柳眉を寄せて、水晶を睨み付けるその険しい表情は、刻一刻と近付く終わりの時を懸念していた。
しかし、その願いは、誰の耳に届く事も無く、その無色の空間に消えていく。
異界の魂。
そう表題にされた青年にも、届く事は無い。
ーーーーーー
2.生れ落ちる。
並行世界、とはこういうことだろうか、とその魂は首を傾げた。
それが、今しがた眼を覚ましたばかりの、その魂の元素となった青年が考えた思考だった。
しかし、その青年は青年の姿はしていない。
魂だけが、その青年のものであって、身体はまったくの別物。
「ああ、シェルヴェスタ!…わたしの、息子…!」
真っ青な顔で額に汗し、涙ながらにその青年を見下ろしていた女性。
その女性が自分の母親に当たる事は、すぐに勘付いたものの。
大人となんら変わりない精神を持ったままの青年の魂の器。
新しく生まれ変わった体は、文字通り赤ん坊だった。
赤ん坊特有の聴力と視力の低さのせいで、まったくと言って良いほど視界が悪い。
声も遠く、聞こえづらい。
しかし、その実聞き取れた単語や感極まった女性の声音は、それでも鋭く青年の魂に衝撃を与えていた。
考えた結果、彼の脳内で判別された一つの事実。
「(また、転生しちゃったよ…)おんぎゃあ!おんぎゃあ!!」
これで通算何度目か、と数える気にもならないままで続ける泣き真似。
これも間抜けな事ながら、青年が覚えた立派な処世術である。
転生。
それも、彼がまたか、と公言した通り。
何度目かも分からない輪廻転生である。
青年の魂も、最初の頃は赤ん坊の生活の仕方が良く分からないばかりか、現状に呆けていた。
その所為もあって、取り上げただろう医者や産婆や果ては父親にまで、大いに慌てられてしまった経験がこれまで何度もある。
そして、最終的にはケツをパンパン叩かれた所為でモウコハンが更に酷くなったりなんだり、と苦い記憶も擁している。
そんな苦い記憶を思い出しながらも、もう何度目かも分からない泣き真似で産まれた事を告げる青年。
しかし、身体は赤ん坊だ。
何かが噛みあっていない。
「良かったですね、奥様。元気な男の子です」
「ええ、良かったわ。…やっと、わたしも母親になれたのね…」
「(んー…っと、多分さっきのは、俺の名前で合ってるよな…シェルヴェスタ…ねぇ)」
名前のニュアンスや、使っている言語からしておそらくは中世ヨーロッパぐらいだと思われる。
青年は泣き真似を続けながらも、着々と思考を纏めている。
周りで大騒ぎしている大人達よりも、冷静なことだっただろう。
現代社会で、自宅で出産しようとする家は、ほとんど無いだろう。
感染症のリスクも高まる上、処置が出来なければ母親にも子どもにも命の危険が伴うのだ。
わざわざ危険な橋を渡ることはしないはず。
しかも、である。
今さっき、自身を取り上げたであろう人間は、格好がそれとなく医者っぽい。
金銭面で問題があるとすれば、医者も何もいないだろう。
まして、聞こえづらくとも声の主は、俺の母親らしき人間を「奥様」と呼んでいた。
まさか、またしても上流階級の面倒くさい世界に産まれたのだろうか。
と青年は辟易としてしまう。
出来れば、家格は少しでも上であってくれよと祈るばかり。
「(はぁ…、今度の家族は出来れば、優しい両親であってくれ。また、赤ん坊のままで捨てられるようなら、もう運命だと思って諦めるしかなくなっちまう…)」
内心、溜め息混じり。
以前の世界とこちらの世界での差異を探りながら、泣き疲れて寝たフリ開始。
いつの世も、赤ん坊というのは、食って寝るのが仕事。
それ以外の仕事は、大きくなるにつれて覚えるに限る。
彼は、早々に諦めにも似た境地で、頭の片隅にこびり付いたままの睡魔に身をゆだねることにした。
今生の自分の名前、『シェルヴェスタ』。
以前の世界では付けられることも無かったそれを、授かっただけでも良しとしよう。
まどろみの中に落ちた青年。
彼のこの目覚めから、世界は始まった。
世界は、既に崩壊を目前に控えている。
それが、神と呼ばれたものの、懸念であった。
しかし、それを知る術も無い青年は、今後面倒ごとを抱えながらも、生きて行く他に道は無い。
ーーーーー
青年の生前は、如月 伊織という名の男だった。
名前を付けたのは、残念ながら両親ではなかった。
本名でも無かったが、これはこれで気に入っていた。
以前、初めて生れ落ちた世界である現代日本で、如月 伊織は生まれてすぐに捨てられた。
おそらくは、容姿の所為だったのだろう。
アルビノとも呼ばれる病気で産まれた青年は、色を日本人の特徴的な色を持っていなかった。
色素の欠乏した白い髪。
これまた色素が欠乏したせいで真っ赤になっている白目。
果ては眼球の色まで色素が薄かったせいで碧眼。
なんて、フランス人形?と、青年は自我を持つようになってから自虐していた。
現代日本では、何万人に一人だろう。
その奇病を抱えた彼は、勿論、容姿以外は五体満足だったので幸運ではあるものの。
以来、両親の顔を見る事も無く、そのまま施設に収容された。
その施設が、なんとも運の悪いことに、また映画や漫画の中でしか有り得ないような裏組織とつながった育成施設だった。
伊織は悪運を呪うばかりである。
しかしどんなに呪っても、そんな施設に収容されてしまったのだから仕方ない。
自我も発達しない子どもに代わりはなく、逃れられる筈も無い。
青年には6歳以前の記憶が無い。
親代わりとなっていた施設の総合管理責任者によれば、心因性の逆行性健忘ではないか、と言われたものの。
空白の6年間は未だに謎のままである。
施設で教えられた事と言えば、旧ナチスも真っ青な特殊訓練だった。
所謂暗殺術。
それを、古今東西あらゆる方面から詰め込まされる。
剣道は勿論、武術と名の付くものはそれこそマイナーなものまで、ほとんど体に叩き込まれ、そして沁みこまされていった。
その頃の事を思い出すと、正直しんどかった。と伊織は語る。
心因性の逆行性健忘を起こすぐらいだ。
それこそ、彼は世界中からかき集めた猫の額ほどの不運な子どもだったのだろう。
無論、それを悲観視するつもりはない。
おかげさまでとは聞こえが悪いが、伊織はどこに行っても生還出来てしまうような、とんでもない『化け物』に成長できたのだから。
付けられたコードネームは『銀帝』。
曰く彼の髪の色は宵闇に紛れれば白にも銀色にも見えることから、その髪を持った帝王(しかも、ニュアンスは暴君)だった為『銀帝』らしい。
本人的には「いやだな。ちょっと厨二病っぽくて」と甚だ遺憾であるらしい。
それはともかく、施設の中でも伊織の身体能力は群を抜いていた。
どうやら、これに関しては彼の教育を担当した先輩方も予期していなかったようで喜ばれた反面疎まれた。
理不尽である。
なにせ、伊織にはとんでもない能力があった。
とんでも記憶能力(伊織命名。正式には瞬間記憶能力・サヴァン症候群とも)を持っているせいで、一度見たものや聞いたものは忘れない。
どうあっても忘れない。
逆行性健忘は起こしてしまったものの、自我を保っている6歳からの記憶は、完全に一人の人間の許容範囲を超えていた。
瞬間記憶能力を持った人間は、自閉症であったり日常生活に支障があると思われがちながら、そうでない人間だって存在する。
彼は、後者だった。
ただし、伊織はその記憶能力の引き出しを整理できない傾向があるらしく、思い出すのに時間が掛かってしまうことの方が多い。
例えるなら、整理されていない図書館だ。
いや、そのままだろうという突っ込みは受け付けないで置く。
訓練の時には、この能力も活かして様々な武器の取り扱いも覚えさせられたため、今では知らない武器が少ない方だろう。
その後、全過程のほとんどをとんでもないスピードで吸収した伊織は、その施設を離れる事となる。
親代わりの総合責任者の養子として引き取られたが、理由は別の英才教育を施す為。
そして、この時点でも、彼のとんでも記憶能力が重宝した。
本を一冊ないし、二冊ぐらい読めば、後はほとんど独学で良い。
医学書を渡された挙句、さすがに論文まで読まされた時には、脳内がショートしかけてしまい、発熱(この時、「知恵熱ってほ本当に出るんですね?」って親代わりに失笑された。その為、伊織はいつかこの親代わりを殺そうと復讐を誓った。)をしてしまったのは苦い記憶ではある。
だが、その甲斐あって15歳を数える頃には、医学免許を取得していた。
勿論、年齢は鯖を読んでいる。
裏稼業、万歳。
その他、音楽や雑学を習う為の期間も2年ぐらい設けられていた。
おかげで、彼の趣味の一つは音楽となっている。
ギターやヴァイオリン、ドラムやティンパニでもなんでもござれ。
民族楽器だって、いくつかであれば演奏出来る。
思えば、この期間が一番平和だったかもしれない。
医師免許の他にも、自動車免許は必須だった上に、教員免許、果ては何に使うのか分からないもののフィナンシャルプランナーだかなんだかの諸々の資格まで取得した。
親代わりは伊織に、自分の汚れた金の管理をさせようとしていたに違いない。
持ち出して逃げたらどんな顔したかな、と考えてみても、自分は既に死んだ身だ。
知る必要も無い。
そう、結局、そこまでの教育を施されても伊織は死んだ。
20歳を目前に控えていた彼も、電車を巻き込んだテロの渦中にあっては、自分の身を守ることすら出来なかった。
どんなに、暗殺の術を学ぼうとも、どんなに免許や資格を重ねようとも、結局死んでしまっては意味が無い。
それでも、本職となった2年で、彼一人が動かした金額は決して低いものではないだろう。
特殊訓練や英才教育に関して掛かった金は、無駄にはしていない筈。
とは言っても、結局死んだ事には変わりない。
そもそも、死ねば価値は無くなる。
そういう世界だ。
別に未練があったわけではない。
ましてや、不遇の死を迎えた伊織が、死ぬ直後に考えたのは死の恐怖でも後悔でもなく、解放へと向かう安堵だった。
それが、どうだろう。
次の転生になって、そのまま絶望したのは言うまでも無い。
記憶はそのままに、彼は赤ん坊となって、現代日本とは根本的に違う世界へと産声を上げていた。
その絶望が、そのまま赤ん坊の泣き声になったのは、とんだ黒歴史だ。
そして、その転生は一度だけではなかった。
赤ん坊の生活は、これで何度目かも数えていない。
以前の世界でも何度も体験している、赤ん坊の生活は食って寝る以外は悪夢と、伊織は語る。
黒歴史をどんどこ量産するだけの、ただの恐怖の期間でしかない。
その、黒歴史がまたしても繰り返される事に辟易としながら、
「あぶ~…(なんでだよ、畜生)」
赤ん坊にしては珍しい黒の法衣。
転生したばかりの伊織は、目覚めて3日目の今日、その法衣を被せられて、初めて外の世界へと連れ出された。
産まれて生後3日ながら、この世界では生まれ年で年齢を数えるらしく晴れて1歳である伊織。
そんあ1歳の彼が、そのまま見送ったのは白い煙となった母親。
燃やされているのは、母親であるセラフィア=クロディア。
産まれたばかりの彼を残して、彼女は旅立った。
自分のように転生するのだろうか、と遠くを眺めてみても、彼には彼女の来世を知る由も無い。
ただ、一つ、言える事。
それは、今回の彼は、産まれて良かったとはお世辞にも思えない転生をしてしまった事。
彼の命と引き換えに、母親は死んでしまったのである。
産後の肥立ちが悪かったらしい。
もう、母親である彼女の顔を見る事も、声を聞く事も出来ない。
例え産まれたばかりで見えなかったとしても、その母親の顔をよく見ておけば良かった。
聞こえづらかったとしても、その母親の声をよく聞いておけば良かった。
伊織は今更ながらに後悔した。
だとしても、死は絶対だ。
後悔はしても、覆せはしない。
「ぶー…(母さん、ごめん)」
泣く事も出来ない伊織。
なんて親不孝な子どもなんだろうか、と内心で自嘲する。
たとえ、赤ん坊の身体であっても、精神が完成しきった大人の男。
だが、そうであろうとも、あの女性の子供である事に変わりは無いのに。
今生の伊織の名前は、シェルヴェスタ=クロディア。
産まれてから3日の1歳ながら、母親を失った彼の名前。
そして、この名前は、彼女が最後に呼んでいた名前だったと、俺を抱き抱えて葬儀に参列した年嵩のメイドから聞いた。
「あぶ~…(はぁ、前途多難だ)」
「お腹がすいてしまわれましたか?…終わりましたら、ミルクを準備いたしますので、お待ちくださいね?」
「ぶ~…(いや、違うし…)」
結局、彼の世界は決まってしまった。
母親を殺して、生まれてしまった。
どれだけ、その生を拒絶したところで、いまだ赤ん坊の彼にはどうしようも無い現実であった。
次話に続く
ーーーーー
誤字脱字乱文等失礼致します。
感想・レビューはいつでもお待ちしております。