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3話:芝居

 ダンジョンへの突入当日。

 騎士の二人レドルとヒューリエは、担当勇者の一人であるコウセイをダンジョンの3階層の地獄部屋へと放り込んだ。


 そこにいるのはケルベロスだ。まず、生きて出ることはできない。


「まさか、もう一度この部屋をあけることになるとはな……」

「そうね……。あの魔物は魔法が効かないから、私たち騎士でも歯が立たないものね」


 その後ダンジョンから出て、二人はこれからの算段を話し合った。


「さて、勇者はすべてダンジョンの中に放り込まれたようだ。報告を盗み聞いた限りだと、死亡報告が完了しているな」

「どっちにしても完全な死亡を確認できるようなところまで騎士たちは階層を下りていないわよ」


 そう会話している時だった。上空から、人影が下りてきた。


「(勇者だ、能力に気づいたのか?)」

「(どうするの?)」

「(とりあえずやり過ごそう。一応、殺せないかどうかを試しては見るが無理だろう。それよりも下手に俺たちの情報がバレないことに徹しよう。何も知らない……あくまでもこの国の騎士として知っていることだけ教えて満足させよう)」

「(なぜ? あの能力なら、仲間に入れた方が……)」

「(たぶんそれは無理だろうな。力だけを求める関係は力を得た強者には通用しないんだ)」

「(そう……、私たちは一つ間違えてしまったのかもね。仕方ない、わかったわ)」

「(じゃあ、俺に合わせろ)」


 レドルは声をあげて勇者に行った。


「どうなってやがる! なぜ!?」


 勇者は憮然として答えた。


「は? 俺の言葉が聞こえなかったのか? お前らが騙していた『小石召喚』なんかじゃなくて、本当の能力を使えたからだよ」

「くっ、もうバレたのか! じゃあ、いまここでなんとしても」


 ヒューリエはレドルの話に合わせて、こう呟く。


「あなたはこの世界の文字が読めないはず! ステータスさえ見れないのに……」

「おいおい、わからないのか? 俺の『物質支配』があればそんなこと簡単に(……できる)」


 そのタイミングでレドルはがら空きの首に切りかかった。

 『霧影』と呼ばれる影から影へと霧のように移動する転移魔法だ。


 が、レドルの長剣は勇者の皮膚に触れたまま動きが止まる。


「けっ、『斬撃無効』は見間違いじゃなかったか」


 一瞬で下がるレドル。


「火球!」


 巨大な火の弾丸が熱気をまとって、勇者に迫った。


 が、その攻撃も内側から乱気流が巻き起こり、火の弧は内側から周囲に散ってしまった。


「気が済んだか?」


 勇者はあきれたように言う。



「な、にが……。LV.8の火魔法が、かき消された!?」


  レドルは驚いた表情を維持したまま、上位魔法さえ効かない状況にため息をひそかについていた。


 すると、何か考えが変わったのか、勇者はレドルへと胸小石を飛ばした。


 レドルの胸には穴があき、血が噴き出た。


(さて、死んだふりか……とはいえ、ここまでされるのは始めってだな。ヒューリエは大丈夫か?)


 案の定、痙攣して人が死んだように見えるこの状況に悲嘆の表情を浮かべていた。


「あ、ああ……」


 悲鳴をこらえる騎士の女ヒューリエは、口を押さえてレドルを見ていた。


「お前はどうするんだ?」

「わ、わた、わたしは……」

「とりあえず、お前たちはなぜ裏切った? 許すつもりはないが、何がしたかったのか聞かせろ」

「俺の能力を見て殺しておこうとなったのか?」

「そ、それは……、あなたが一番危険そうなステータスを持っていたからよ。だから……」

「じゃあ、お前たちは魔王軍に寝返ったってことか?」

「そ、そうよ、もういいでしょ?」


 ヒューリエの身体を電気ショックが襲った。


「がああああああああああああああああっ!」


 ヒューリエは口からよだれを垂らして、痙攣したまま地面にへたり込んだ。


「本当のことを話せ」


「……ち、ちあ、違うの、私たちはもともと、魔王軍側のスパイ……だったの」


「スパイ?」


「私たちを世界を滅ぼす悪者に仕立て上げて、勇者を使ってダンジョンを襲わせようとしていたから……。悪いのは国王軍よ。あの王女こそ本当の魔王みたいな女なんだから」


 ヒューリエは情報を吐いてしまう。


「ふ~ん、それで魔王のいるダンジョンのブラフを流して襲わせないように画策したわけか?」

「ち、違う。魔王がダンジョンの最下層にいるのは本当なの……。だから、私たちは危なそうな奴をみんな、不意打ちで排除しようと……」


 本当は少し違う、魔王はあのダンジョンの最下層にはもういない。


「はぁ……、あほくさっ」

「こ、これでいいでしょ? 私、まだ死に……」


 とりあえず、命乞いをしているように見せるため、ヒューリエはそれを口に仕掛けるが、石が胸に風穴を開けた。


 無数の穴から血を流してヒューリエは倒れた。


(もうなんか、いろいろボロボロだわ……そういえば、不死なんだからレドルも生きているのよね。つい、動転しちゃったわ)


 勇者が西の空へとい飛んでいくのを待って、二人は同時に起き上がった。


 地面に倒れていた血まみれの二人の騎士は、のそりと起き上がった。


「行ったか?」

「そうみたいね……」


 女騎士ヒューリエは、傷口からあふれた血を布で拭う。


「いや、しっかし化け物だなありゃ。下手な攻撃はまず効かねえぞ」

「それより、ちょっとしゃべっちゃったわ。ごめんなさい」

「いいさ、あのくらいは。ここで意地でも魔王を倒すと言ってくる方が厄介だ」

「でもあなたの腕なら、木剣で何とかなったんじゃない?」

「いや、それは無理だ。それよりも魔物の生き骨を使った針の方が効いたんじゃねえか? 途中で気づかれちまったが」

「仕方ないわ……」


 女騎士ヒューリエは地面に落ちた針を拾い上げる。

 魔物から分離しても未だに毒を吹き出し続ける骨は、先端が黒く染まっていた。


 レドルは身体の動きを確認しつつ、魔法で傷をふさいでいく。ヒューリエにも同じように見た目を元に戻していく。


 魔王によって与えられた『不死体性』。


 死にはしないが、傷も痛みも感じる。

 以前見たマルファールス国王のように傷を負ってすぐの人体再生もしない。


「さて、ダンジョンで死にかけて五体満足かは分からないが、勇者を拾いに行きますか」

「彼らはもう、不死体性は受けているんでしょ? それなら大丈夫よ」

「ああ、ダンジョンに入った段階で、あの勇者一人を除いて魔王による支配が発動した。だが……」


 支配したものを不死にする力。

 それがいまいる魔王の力だった。


 そこでレドルは首を振って話を続ける。


「自分で動けない奴もいるかもしれないから念のためだ。俺たち『魔王軍』の側についてもらわなきゃならん。一か所に集めてその説得をしなきゃだろ?」

「そうね……」


 少しだけ疑念を抱くように男の騎士は空を見上げた。


「あの異世界からきた勇者たちはどこか浮かれていた。それにさっきの勇者に対する態度もひどいものだった」


 ヒューリエは召喚されてから訓練中のコウセイという勇者とそのクラスメートたちの態度を思い出した。

 確かに、一人だけ冷たい扱いを受けていた様子だった。

 まあ、殺そうとした人間がこんなことを考えるのもおかしいなと思ったりもした。

 そこにレドルは少し前向きなことを言う。


「死にかけた経験で、何かが変わってくれればいいがな。いろいろ頭が足りないところ、弱い者を虐げる卑怯な考えも……」

「そうならなかった勇者はどうするの?」

「その場合は仕方ないさ。不死の支配を解いて自由にさせるさ」

「ふふっ、一緒じゃない」


 そこでクスっとヒューリエが笑った理由は簡単だ。

 あのダンジョンの中で、不死を解いて自由にすると言うのは、魔物の中に放り込まれるのと同じことなのだから。一種の脅しだ。


「つまりそういうことだよ。そこまで愚かな奴はせめてここで安らかに眠ってもらった方がいい。魔王の望みをかなえるためにもな」

「そうね、今の彼らじゃまだ力が『足りない』ものね」

「これからすこし派手に動き回ることになるが、あの化け物じみた勇者が向かったのは帝国のある方角だ。その混乱をせいぜい利用させてもらうさ」

「じゃあ急ぎましょ。他の騎士に見つからないように、あなたの血印魔法『霧影』で移動ね?」


 そう言ってヒューリエは、レドルの身体に触れると、一瞬にして霧のようにその場から姿を消した。

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