病室センチメンタル。
窓の外は冬の色に変わりつつあった。細く弱々しい木の枝に、今にも飛ばされてしまいそうな枯れ葉が必死にしがみついている。そしてその結末を見届ける事なく、景色は閉じられてしまった。
カーテンを閉めた看護師は、悲しいほど優しい笑顔をしていて、その度に僕は思い知るのだ。
あぁ、もうすぐ終わりなのだと。
こんなにまだまだやっていける気でいるのに、僕の体は僕の心を無視して静かに元気を失っていく。目を閉じて眠りについてしまったら、もう二度と目覚めないかもしれない。この見慣れた天井も、そう思うと愛しく見えるから不思議だ。
大学の友人達は、元気でやっているだろうか。半年前お見舞いに来てくれた時、大学でのくだらない日常や、就職への不安など、恐らくはあえてしてくれた本当にごく普通のありふれた雑談。それが僕には華やかでそして酷く悲しくて、ロクに会話に参加しなかった事を今では本当に後悔している。
僕は愛されていた。
だって一人じゃなかったのだ。
今ではすっかりお客は来なくなってしまったけど、それでいいと思っている。僕はやっと自分の運命を受け入れたのだ。
後は静かに、日と月の巡りを眺めて生きるのだ。
お客は来ないと言ったが、そういえば先日、死神が病室にやってきた。正確には死神だと言い張る女の子だったが。夕焼けが病室を金色に染める、とても幻想的で鮮やかな時間だった。
死神はこう言ったのだ。
お前の大切な人の命と引き換えに、お前の命を助けてやろうか。
金色の光が、死神の影をより濃く壁に写していた。そして僕は迷う事無く首を振った。もうそんなものはいらないし、大切な人の命は渡せない。だってその人の事を、僕は僕以上に大切に思っているのだ。
死神は僕を助けようとしてくれた。こんなどうしようもなく頼りない僕を、死神は選んで選択を与えてくれた。それがなんだか無性に嬉しくて、僕は死神にお礼を言ったのだ。
こんな僕を選んでくれてありがとう。
すると死神は凛とした表情をゆっくりと歪ませて、ポロポロと涙を零しはじめた。染められて金色に光るそれが床を濡らすたびに、僕の心は幸せで溢れていって、ますます思うのだ。
この人の為なら、僕は僕の命などいらない。
あなたには生きていて欲しい。
死神と名乗った僕の彼女は、いつまでも泣いていた。頼りになる男になりたかったなぁと、今更ながらに後悔するのだ。
カーテンが揺れて、冬の景色が顔を出す。枝に付いた枯れ葉はいつの間にか無くなっていた。
あぁ、君も行ったか。
ならば、
僕も、
逝こうか。