第四幕 クラス委員長真田穹音観察レポート
真田穹音観察日記
佐薙中学3年、市沢和也
観察初日
ターゲットは放課後、友達と帰宅。
特に異常は見られない。
即行で自宅に。
観察二日目
今日も寄り道をせずに帰宅。
帰り道、友達とたい焼きの話題で盛り上がる。
ターゲットは頭から食べる人間のようだ。
ちなみに僕は背鰭から頂く。
観察三日目
今日も即行帰宅。
真面目だ。
そろそろなんかイベント起きないと……飽きる。
ちなみに今日はお友達と因数分解の話をしながら帰宅していた。
考えられない。
観察四日目
ああ……水泳部のぷるるんが恋しくなってきた今日この頃。
今日は帰宅途中に猫と戯れていたターゲット。
観察始まって以来の初寄り道が、まさかの猫……
観察五日目
今日は土曜日で学校休み。
つまりはストーキングも休み!
キャッホー!!
観察六日目
いい加減性癖暴けとコマに怒られた。
なら自分でやれって言ったら、なんか引っ掻かれた。
人使いの荒いぺちゃぱい神様だ。
観察七日目
そろそろムフフがないとしんどくなってきた月曜日。
ターゲットはいつも通りの生活スタイル。
ムフフしたい。
一週間観察した結果。
こいつ、真面目すぎ。
和也
「……何、この観察レポート?」
僕はこの一週間、水泳部観察を我慢してまでやり遂げたこのストーキング日記を今、コマに手渡している所だ。
「何って……真田穹音の一週間だよ。ファンに売ったら高値で売れる!」
「いや、これじゃ売れないでしょ……」
そういうコマの目はなんか遠かった。
相変わらず参拝客の少ない白犬神社。
来るのはいつも通り、バナナで世界征服を狙っているカトウって人だけ。
「本当に真田は真面目なんだな……」
僕は例のゾクゾクするベンチに座りながら、自分で書いたレポートを何となく眺める。
真田の性癖を誇示するような事はなし。
たい焼きや猫相手にハァハァするならまだしも、これじゃ本当に真田の性癖が分からないままだ。
「……とりあえず、あと一週間だな。一週間尾行してみて何もなければ、もう真田の願いを叶えるのは諦めよう」
それしかない。
だっていい加減ムフフの時間もないとしんどいし。
「そしたら、もう1つの願いの方を叶えてあげなくちゃね」
そういうコマの手には、例のあのハンマー……って
「ちょ、待て待てッ!!」
「だって片方は簡単に叶えられる願いなのよ? だったら叶えてあげるべきよ」
コマどや顔。
「簡単にって……何? 僕の命ってそんなもんなの?」
「そんなもんよ」
「なっ、人の命を6文字で返すなッ!」
「ま、もし死んだらネクロマンサーにでも生きかえらせてもらいなさい」
「ネクロマンサーて……何故お前がそんな事を……」
なんだい?
ネクロマンサーいるなら魔装少女とかもいそうだよね。
某電ノコで変身だ!
「……とにかく、あんたがターゲットの性癖を見付けて直せたのなら、殉職は無しになるって事よ。まぁ、頑張ってね!」
超笑顔のコマ。
「……早くも何? 僕、なんか召使い的立場になってないか?」
なんかラブコメ漫画とかによくあるパターンだよね。
まぁ、こんなぺちゃぱいとラブっても良いこと無しだが。
「……でさぁ」
「ん?」
召使いの運命を半ば拒絶しつつ、神社を出ようとした僕を呼び止めるコマ。
その体には何か、どす黒いオーラみたいなものが……。
「この観察日記の六日目、何このぺちゃぱい神様って?」
「……あ」
そういや消すの忘れてた。
「……これ、誰の事?」
「あ、いや、その、えーと……」
ヤバい!!
目がマジだコイツ!!
「……誰よ?」
「……えーと」
「…………」
「…………」
「…………」
「……その、そ、それは……」
「…………」
「ぼ、僕の……事……かな?」
とぼけた。
「……あんたは最初から男でしょうがぁっ!」
「うわ〜!!」
何で女性ってのは、胸の大きさにコンプレックスを持つの?
本当に不思議な生き物だ。
まぁ、確かにデカイ方が僕的には……げふんげふん。
……でもまぁ、脱衣麻雀界のタイガーマスクは確か貧乳派だったような。
「くあぁぁッ!!」
「何それ? それまさか狛犬の威嚇ポーズ!?」
「ぐあッ!!」
「だぁっ痛いっ、噛み付くなぺちゃぱいっ!」
ガブッ
「やーめーてー!!」
観察八日目
ターゲット、いつも通りに帰宅。
つまんね。
観察九日目
今日は朝の登校時間もストーキングしてみたが、特にコレといったことはなかった。
フラグすら立たないなんて……
観察十日目
今日、ストーキング帰りに脱衣麻雀界のタイガーマスクと偶然遭遇。
公園のベンチに座り、マラソン時の乳揺れの幅について熱く語り合った。
観察十一日目
今日もターゲットに異常なし。
途中、地域パトロール中のやっちゃんに遭遇。
ジャック・バウアー再来。
観察十二日目
今日は学校休み。
来週月曜からは定期テストです。
しかし、このムフフはやめられないとまらない。
かっぱっぱえびせん。
観察十三日目
……明日までにターゲットの情報を掴まないと、僕の命が危ない事を今さら思い出す。
本当にあのぺちゃぱ……コマには困ったよ。
……コマにこまった。
……(笑)
観察十四日目(今日)
「……ヤバいぞ、今日中にターゲットの情報を掴まないと……僕殉職しちゃう!」
今日から定期テスト期間の佐薙中学校。
しかし、僕の頭の中ではテストどころの話ではなくなっている!
「赤点よりも命! 定期テストよりもムフフ!」
まぁ、ムフフはともかく命は大事よ。
で、定期テスト。
初日の今日は国語と英語。
国語……微妙。
英語……ヤバス。
で、命の事を考えながらの地獄のテスト。
「……くそっ」
テスト終了後。
今日はテストなので、午前中で学校終了。
僕は焦っている。
英語で赤点取るかもしんねぇ。
国語、腎臓って漢字が書けなかった。
……いや、そんな事じゃなくてだ。
「今日中だ……今日中に真田の性癖を……」
その頃、ターゲットの真田は友達と教室から退室。
帰路へ。
「……とにかく、ストーキングだな」
で、僕もそれを追って外に出ようとしたら。
「おっすエロ魔神!」
「ん?」
後ろから僕を呼んだと思われる声が。
ちなみに僕には沢山のあだ名があるんだ。
エロ魔神なんかは本人否認定だよ。
で、
「なんだ……お前か」
そこにいたのは本編初登場、脱衣麻雀界のタイガーマスク!!
本名は木原 徹。
なんか名字的に叫びたくなる名前でしょ?
木ィィィ原くゥゥゥん!!
的な?
「なんか用かタイガー? 僕は急いでるんだけど!」
「急いでる? 何か用事あんのかエロ魔神?」
ちなみに、脱衣麻雀界のタイガーマスクの手元にはニュース番組のラベルでカモフラージュされた、女の子ビデオらしきものが。
なるほど、この後暇なら一緒に鑑賞会でもしようって感じか?
「悪いなタイガー、今僕は武偵見習い中なんだ。申し訳ないけど、用事は明日以降に……」
まぁ、僕が明日まで生きていたらの話だけど。
「そうか……武偵か……」
何故か武偵で納得気味のタイガーマスク。
ちなみにこいつ、く〇ゅ病発病者。
「……分かった。エロ魔神、くれぐれも武偵殺しには気をつけろよ!」
「すまんなタイガー、じゃ、また明日!」
僕は女の子ビデオとタイガーマスクに別れを告げ、いざターゲットのストーキングへ!
ただの読者への印象付けのためだけに出演。
脱衣麻雀界のタイガーマスクよ、君の次回の出番はかなり先になりそうだ!!
で、ストーキング。
もう電柱の陰に隠れるのに慣れつつある自分って何だろうね。
自分の将来が怖い。
で!
「じゃあね穹音!」
「うん、また明日!」
ターゲット、友達と別かれた。
……いつも通りだ。
「……ヤバいぞ、このままだとターゲットは真っ直ぐに自宅へ……」
くそっ……こ、このままじゃ僕死ぬ!
ぺちゃぱい神様のハンマーにやられる!
何かイベント的なもの起これ!
……って祈ってみるけど。
「…………」
友達と別れてから、数分後。
特にこれといった事はなく、真田はもう……自宅前まで来ていた。
「……終わった」
真田穹音の性癖。
それを知るために、水泳部や女の子ビデオを我慢してまで頑張ってきたのに……なんで……
「……ちくしょうっ」
何故だろう。
目から……目から汗が止まらねぇ。
今までの苦労はなんだったんだ!
ちくしょう……
「うわっ、てんとう虫だ!!」
「あっ、指のさきに止まったよ!」
「ゆー君すげぇ!!」
不思議な悲しみにうちひしがれている僕の横を、ランドセルを背負った小学生達が通り過ぎていく。
……そっか。
今日はテストで午前中日課だから、下校時間が小学生とかぶってんのね。
「あ、あっちになんか虫がいるよ!」
「え、どこ?」
……小学生達は元気だなぁ。
僕なんかこれから、死ぬかもしれないっていう命の瀬戸際にいるのに。
いいなぁ……
ぺちゃぱい神様に縛られていない無邪気な小学生、いいなぁ。
僕も自由にムフフがしたいよ……
「……小学生を僻んでもしょうがない。とりあえずはコマの機嫌を取るために、骨っ子クッキーを買って……」
今後の市沢和也命死守計画のため、作戦を練りながらターゲットの元を離れようとした僕。
その時だった……
「……じゅるり」
「……ん?」
もう僕の体はクッキー売ってるスーパーへ向けて歩き出している。
……しかし背後から、なんかこう……フラグ的なものが……
「……ん?」
僕は何気なく振り返った。
そう、何気なく……
……で。
「…………」
後ろには、真田穹音自宅。
ターゲットは家の玄関の扉に手を掛けていて、もう既に半分開いていた。
……しかし、彼女の視線は自宅にあらず。
「今日この後、ゆー君家で遊ばない?
「いいよ!」
「マジで? じゃあポケ〇ンやろうぜ!」
彼女の視線……それは、家の前を歩いている小学生達。
そしてその目は……女の子ビデオを見ている、脱衣麻雀界のタイガーマスクと同じ目をしていた。
……は?
ちなみに、僕は相変わらず電柱の陰からこっそりと観察中。
そして……
「うへへ……」
家の前を通過し、去っていく小学生の後ろ姿を見ながら、超真面目なクラス委員長真田穹音は、確かにそう笑った。
そう、まさに変態で欲情中の笑い方……
顔はほんのり赤く、にやけ顔。
……マジでか。