第三幕 煩悩中学生のストーキング講座
「あんたが教室にいるだけでみんなが迷惑するの! だから早く教室……いや学校……いや地球……いや、この銀河系から出ていって!」
「そんな宇宙規模で嫌われてんの僕!?」
あれから翌日。
朝、僕こと市沢和也が学校へ登校し教室に入った途端、早速クラス委員長の真田穹音から銀河外への強制立ち退きを要請された。
「とにかく死ね市沢! 万年発情期の最低男!!」
ぶはぁっ!
こやつ、ピンク色を何だと思って……
「女の敵! 売春帝王! 幼女虐待! わいせつ男! 強姦変態! 社会のクズ!」
「ちょっと待て、確かに僕はムフフ大好きだけど、犯罪にまでは手を染めた覚えないぞ!?」
見に覚え無し。
「黙れ変態! この露出野郎!」
「だから露出なんてやってないってば! しかもそんな趣味ないし!」
まぁ、露出があーだこーだの女の子ビデオなら……ムフフ。
「嘘つけ! どうせあんたん家には露出系のビデオとかあるんでしょ? キモすぎ!!」
「ぐあっ何故それを……じゃなかった。とにかく僕はノーマルな健全中学生だ!」
「何がノーマルよ、この人間界の変態廃棄物!」
「変態廃棄物って何!?」
とにかく、今日は朝から生討論会という、ハードすぎる内容で今日がスタートするのでした。
先ほど言った通り、僕はムフフに生きる健全ピンク色中学生だが、今まで一度も犯罪に手を染めた事はないんだよ。
いや本当!
信じて!!
……しかしながら、僕は今非常に犯罪に近い事をしていた。
キーンコーンカーンコーン
今日も1日学校が終わり、放課後のチャイムが鳴る。
日頃の僕ならグラウンドの隅っこへ移動し、汗を流しながら部活に勤しむ女子の安全を守るため、観賞……もとい観察活動へと精を出す時間なのだが。
今日は違った。
「でさぁ、駅前の洋菓子店のミルフィーユが本当に美味しくてさ!」
「へぇ〜……」
「穹音、今度一緒に食べに行こうよ!」
「うん、そうだね。食べに行こうか」
……佐薙中学校校門から100メートル付近の住宅街中の普通の道路。
そこを歩き下校しているのは、我が宿敵ダースベーダ……もとい真田穹音!!
隣にはお友達らしき女子も1名!
「あとさ、そこの店チョコレートケーキも美味しくてさ、本当にいい店なんだ〜!」
「そう言えばその店のパティシエ、最近フランスから帰ってきたばかりの超職人らしいよ」
「え、マジで!?」
……これがガールズトークなるものなのか?
二人は互いに話しながら、ゆっくりと下校中。
仲良しこよし。
……そして僕は。
「…………」
二人の後ろ約10メートルの所にある電信柱の陰。
THE・ストーカー!!
あ、いや、別にしたくてしている訳じゃないからね!?
いや本当!!
本来だったら水泳部の練習風景の観賞の時間。
背泳ぎ万歳。
揺れる揺れる。
……しかし、実際に僕はしたくもねぇ真田穹音のストーカー的な事をしているのであって。
理由?
はい以下回想。
「うわぁ……これ、確か福澤明よね?」
「違う、福沢諭吉だ」
昨日、真田穹音が神社に参拝に来て、帰った後。
僕とコマは真田穹音が置いていったお賽銭を確認。
そしたら……
「あいつって……もしかして金持ち?」
賽銭箱の中には、福沢諭吉がこんにちはしていた。
「すごい……こんなに大金を賽銭してくれるなんて……」
コマの瞳にはマネーのマーク。
この現金神様め。
「こんなに大金貰っちゃったなら……ちゃんと願いを叶えてあげなくちゃ!!」
で、再び1tハンマーを構えるコマ。
……って、
「だからちょっと待てぇ〜!!」
そうか、真田穹音にとって僕は1万円を払ってでも抹殺したい人間なのね。
恐ろしい……
「神様なら、腹くくって殉職しなさい!」
「ちょ、ちょっと、まだ僕生きたい! もっとムフフしたい!!」
とにかく必死。
「コマ、とにかく一旦ハンマー降ろせ、お願いだから!!」
「じゃあアンタもお供え物しなさいよ!」
「はぁ? なんつー理不尽な……僕も一応神様もどきなのに!」
「それは関係ない! どうすんの? 生きるの死ぬの?」
「あぁ生きます! 骨っ子クッキー買ってあげるから生かさして! そしてハンマー降ろして!」
とにもかくにも、命は大事だよみんな!
で、
ボリボリボリボリ
「美味しい!」
「そりゃ良かったな」
僕はさっき買ってあげたクッキーを笑顔で食べてるコマを尻目に、ちょっとブルーな気持ちに。
「しかし……」
真田穹音……本当に恐ろしいヤツだ。
「ねぇ」
「ん?」
クッキーの粉を口いっぱいに着けたコマが、さっきの賽銭の諭吉さんをひらつかせながら話し掛けてくる。
「でもさ、せっかく1諭吉も貰ったんだからさ、何か願いを叶えてあげないと可愛そうだよね、あの女の人」
「1諭吉て……あぁ、でもな……」
確かに、1万も払って願いが叶わないようじゃ、神社の評判は下がる一方だしな……
かといって、まだ僕の生涯には沢山の悔いがあって死ねないし。
我が生涯に一片の悔い無し!!
みたいにはならないし。
うーん……
「あ、ねぇ1つ質問!」
その時、コマが勢いよく挙手。
「ん?」
「せいへき……って何?」
真顔で言うコマ。
「……性癖?」
コマ、何故今それを……って、
「そ、それだぁ!!」
僕は思わずコマを指差した。
「え、わ、私がせいへき……なの?」
「ん? あ、違う、そういう意味じゃなくて!」
確か真田は言っていた!
自分の性癖を直したいと!!
「そうだ……真田、確か性癖を直したいって……って」
あれ?
「……どうしたのアンタ? 突然固まっちゃって?」
コマは相変わらずクッキーボリボリ。
っておい!
「そもそも……真田の性癖って……何?」
はい回想終了。
つまりは今、僕は真田をストーキングしている理由ってのが、
真田の性癖を見出だす事!!
下校中、そっと後をつければ、何かしらの性癖のヒントとか出るのでは?
って思ったわけですよ。
で、
「あ、じゃあ私の家こっちだから!」
「うん、じゃあまた明日!」
学校から約800メートル地点。
ターゲット、友達と別れ1人に。
「へっへっへ、やぁーっと1人になったか」
僕、思わず昨日みたビデオの中で男が言ってたセリフを口ずさんでしまった。
あ、そのビデオってのは僕の友人である脱衣麻雀界のタイガーマスクが貸してくれた路上系の女の子ビデ……ごほんごほん。
と、とにかく
「何としても、警察に見つかる前に真田の性癖を見出ださなければ!」
うん、だって捕まったらアウトだもんね。