第二十一幕 脂肪の行く末
「……って事は、まだ聖獣様は地上に降りてきていないって事?」
「うん。本当だったらもうとっくに来ているハズなんだけど……」
体育祭準備の日の夜、白犬神社。
僕は結局あの後午後6時まで体育祭準備に勤しみ、その後直でこの白犬神社に来ていた。
理由―――それは、今日辺りに神界からやって来るハズの聖獣様とやらを取っ捕まえて、コマの神界への強制送還を阻止させるため。
コマ曰く、よくよく考えたらまだ白犬神社は廃神社にはなっていないため、強制送還の可能性はかなり低いらしいが、僕は万が一を考え、こうして神社まで来ている。
「……もう9時か。今日はあと3時間もないぞ?」
僕は神社の境内にある、例のゾクゾクするベンチに腰掛け、聖獣様とやらを待っていた。
ちなみに、僕の隣にはめっちゃ緊張気味のコマの姿も。
顔は強ばり、身体は少し震え、尻尾は下がり、ちょっと過呼吸気味。
そして犬耳だけが辺りの音をかき集めるかのように、ピクピク動いていた。
「……大丈夫だよコマ。そんな緊張するなよ」
「で、でも相手は聖獣様だし……」
「聖獣だろうが何だろうが、僕が守ってやるって誓っただろ?」
「うぅ……」
「だからうなだれるなよ……」
よほど緊張しているのか、コマにいつもの覇気はなし。
僕はため息をつきながら空を見上げる。
空には満天の星模様。
聖獣。
それは、コマやリィゼといった神獣の上に立ち、それらを統べる4体の神様。
鳥類の神獣を統べる『獄炎の朱雀ノ神』
海生類の神獣を統べる『氷晶の青龍ノ神』
獣類の神獣を統べる『武威の白虎ノ神』
昆虫類、爬虫類、両生類の神獣を統べる『鉄壁の玄武ノ神』
これら4体の聖獣は地上に降りる時、人間に見られて神通力を奪われないように、なんと人間そのものに化けて地上に降りてくると言うのだ。
聖獣ではなく、完璧な人間としてだ。
すなわち、耳や尻尾、翼のない普通の人間に化けて。
この状態なら人間に見られようが神通力を失う心配はない。
聖獣のみが持つ変幻の力『人間化』
そして彼ら聖獣は人間に化け、毎年1回自らが統べる神獣の神社へ行き、ちゃんと神様として振る舞えているかどうかを確認に来るという。
そして、白犬神社や黒烏神社のあるこの辺りは、毎年6月頃が聖獣のやって来る時期らしく。
こうして今、僕とコマはその聖獣を出待ちしているのだ。
・・・が、しかし
「・・・こねぇ」
時刻、午後11時50分。
いつもなら自室でムフフっちゃってる時間なのだが・・・
「・・・なぁコマ。ホントに今日来るのか?」
あと10分で日付変わるぞ?
「・・・たぶん」
コマさんは相変わらず俯き気味。
「多分って・・・どんだけ曖昧なのさ?」
「し、知らないわよ。大体白虎様は時間にルーズな方だし・・・」
「なにその設定!?」
神様時間守って!!
「ってか、僕明日体育祭!! そろそろ時間的に寝ないと・・・」
ふと思い出す、明日の地獄。
「・・・体育祭?」
・・・で、コマの頭には?マーク。
「イェス! 明日体育祭!! もやしっ子の公開処刑!」
リレーで抜かされた時のあの空気。
騎馬戦での転倒時のあの空気。
借り物競争でカワイイ女の子ってカードを引いた時のあの空気(ヒャッホイ!)!
全てが体育祭!!
「ああ・・・鬱だ体育祭。体育会系ならまだしも、文科系は見せ場なし。女の子食いつかない!」
「なに? 体育祭ってそんなイベントなの?」
「ザッツライ!! その通り! 体育会系が出しゃばり、文科系は運動能力の無さを公開され、ただ精神的に処刑されるだけの差別的学校行事! それが体育祭!」
「・・・ふぅん」
「あ、コマ今軽く流したね? 人の悩みを神様であるお前が軽く流したね? いいのそれ?」
「・・・だったら、お賽銭ちょうだい」
「まぁ、なんて現金な神様!? ってか賽銭したって、お前今神力ないからどうにもできないだろ!」
「え、知らないの? 狛犬神獣はね、骨っこクッキーがあれば凄い力が・・・」
「ウソつけ! お前ただクッキー食べたいだけだろ!!」
「ただのクッキーじゃだめよ? 骨っこよ骨っこ!」
「知らないよ! ってかこんな夜中にクッキーとか食べると、太るぞ?」
「ふふっ、残念でした! アタシはどれだけ食べても太らない体質なのよ!」
「・・・それは神獣だからだろ? 食事はあくまでも趣味って・・・」
「ふっ、神獣でも食べれば太るわよ。現に桃牛神社の神獣、モー子さんは人間界の食べ物にハマって、神界から降りてきた時より30キロも太ったらしいしね」
「牛の神獣・・・なんと、まぁ」
「それに比べて、アタシは無駄肉なし、血圧もコレステロールも正常! 脂肪もなし!!」
「・・・うん、無いよね脂肪(主に胸部)」
「でしょ! アタシ太ってないでしょ!?」
「・・・うん、脂肪0(さすがぺちゃぱい)」
「これでも結構食べるほうなのよアタシ!」
「・・・うん、摂取したカロリーはどこへ行ってんだろうね(少なくとも胸には行ってないな)」
「・・・さっきからアンタ、どこ見てんの・・・?」
「・・・うん、摂取したカロリーの一部でも胸部へ回っていればね・・・こんな・・・せっかく脂肪分取ってるのに・・・胸無いとか・・・おかしいよね」
「・・・・・・」
バキッ!!!
「や、やめてコマ様! 火薬はマズイ、さすがに火薬はマズイよコマさ・・・あつッ、ちょっ、まっ、ヤバい、燃える、僕燃えるッ!!」
・・・結局この日、コマの上司的神様は白犬神社には現れなかった。
約半年ぶりの最新話!!
おまたせし過ぎましたね。
これからも私神をよろしくお願いします!!