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第十八幕 守りたいっていう気持ち

「……何言ってるんだよコマ?」


僕は焦っていたのかも知れない。


今、唐突にコマの口から放たれた言葉。


それは、僕の希望や願いが叶わなくなる呪い。


それが今、僕の中にある。


「……ゴメン。多分、本当のことなんだと思う」


コマもコマで、なんとも申し訳なさそうな顔をしていた。


「……で、でもさ。願いが叶わなくなるとかって、実際あり得るのかよ?」


僕は信じたくなかっただけなのかもしれない。


今後、希望が持てなくなるとか。


「……じゃあ、聞くけど」


……しばらく間をあけ、コマは話しだす。


「アンタ今、真田穹音って人の願いを叶えているんでしょ? アンタの今の願い、希望は……真田穹音の願いを叶える事」


「あ、ああ……」


僕は唾を飲んだ。


窓から差し込む夕日がうつむくコマの影をさらに濃くしている。


「……その願いは、今進展しているの?」


「…………」


僕は、少し過呼吸気味になっていた。


真田穹音をストーキングして見つけた、ショタコンを治したいという真田自身が願っていた思い。


朝の学校で見た彼女の涙に、僕は何とかしてあげたいって思って、その克服に協力すると誓った。


けど、それから……


恐怖や痛みでの克服は失敗、ビリビリさんも役立たず、しかもその鍵は未だに見つからない。


失敗ばかりだ。


何1つ、真田の願いでもあり僕の願いでもある性癖の克服が、叶うどころか進展すらもしていない。


「……いや、それだけじゃない」


僕はある事に気付いた。


そして、咄嗟にコマの方へと向く。


……コマは、軽く微笑みながらこっちを向いていた。


その瞳には、うっすらと光るモノが。


「……うん。だからさ、アタシ近々神界に帰るかもしれない」


僕はその言葉に、体が震えた。


僕の、1番の願い。


それは、白犬神社を繁栄させる事。


僕のせいで神通力を失い、参拝客の願いを叶える事が出来なくなったコマ。


だから僕は、そんなコマに変わって副神様もどきになり、何とか神社が継続していけるように頑張る(主に肉体労働だけど)


と、誓い願った。


白犬神社の繁栄。


それが僕の1番の願い。


つまりは……


絶対に叶わない願い。


「……嘘だろ」


僕は呟いた。


もし、これで本当に神社の評判が下がり、参拝客が0になり、白犬神社が廃神社なんかになったら……。


コマは神界に帰り、2度とこの地上には戻ってこれなくなる。


「……実際にね、アタシ知ってるんだ」


その時、コマが口を開いた。


「ちょっと前まで、隣町に紅狐神社っていうそこそこ大きな神社があったの」


コマの声は震えていた。


「でね、そこの神獣がある日、一般の人間に姿を見られた」


心なしか、身体も震えているかのように見えた。


「……狐の獣の呪いは(本音の逆転)、つまりは嘘と本当が入れ替わるって事」


……コマの手は、ぐっと握られていた。


「……でね、実際……その人間は本音を嘘と言い、嘘を本音と言い張る……自分の気持ちを正直に話せない、嘘つき人間になってしまったの」


獣の呪い。


見た神獣によって異なる効力を持つ呪い。


「だから多分、呪いは実際にあって、今アンタの身体の中にもある」


衝撃なんだろうか。


不思議と僕の身体は動かない。


唐突に、今さっき知った獣の呪い。


現実味なんてほとんどないけど、こんなコマの表情を見たら、本当の事なんだろうって思う。


「……だからもう、白犬神社の繁栄は……なくなったのよ」


……理不尽だな。


こんなの。


「多分、今週中には神界から聖獣様がやって来ると思う。その時にアタシは……神界へ連れて帰られる」


「こ、今週中……」


って事は、あと最長でも7日しかない……。


「……何かゴメンね。アタシのせいで変な呪いを掛けちゃって」


その時、コマの瞳から一筋の涙がこぼれた。








僕は壊れたのだろうか?


それとも、元からバカなのだろうか?


僕はニハッと笑い、椅子から立ち上がる。


そして、うつむくコマの前まで行き、コマの犬耳ごと頭をわしゃわしゃ。


「っ、ちょっ……」


その行為に動揺するコマ。


「いつものコマらしくないよ」


僕はコマの犬耳を指先でコスコス。


「ひぃっ!」


コマは奇妙な声を出した。


そしていつの間にか萎れていたコマの尻尾をもう片方の手で掴み、フニフニ。


「ひゃっ! あっ、ちょっ!!」


「なんだなんだ、いつもの威勢はどうしたぺちゃぱいっ!」


「なっ……」


一気に顔がひきつったコマ。


「……お! お前の尻尾って意外と毛触りいいな。ふさふさで気持ちいい!」


「ひゃあああッ!」


何を感じているのか、その場に膝をつき、くねくねし出したコマ。


うわぁ、何かエロい。


「ちょ……尻尾は止めてぇ……あと耳も……ひゃうっ!」


「……謎の背徳感がヤバいなコレ」


もっと尻尾と耳をフニフニしてみる。


「あっ……ちょっ……ば……かっ……!」


コマの顔はどんどん赤くなっていく。

いつしかの発情期を彷彿させるな。


「うぁ……ぁ……」


徐々に目を細めていくコマ。


僕は少し手を止める。


すると……


「はぁっ……はぁっ……ッ!!」


コマは顔を赤らめつつも血相を変えて、


「何すんのよこの変態ッ!!!」


ドゴッ!!!


「がはッ!!!」


物凄い勢いで顔面パンチを繰り出してきた。


僕は床の上を二転三転し、クローゼットに頭から激突。


頭蓋骨に響く衝撃!


やべぇ、めちゃくちゃ痛いッ!


一方のコマは、


「はぁっはぁっ……何よアンタはッ!」


凄く怒り状態。

尻尾に至っては逆立ってるし。

ってかそれ猫。


「……痛っ」


僕は頭を抱えながら起き上がった。


そして。


「……やっといつものコマらしくなったね」


その言葉に、コマはハッとしていた。


「えっ……ちょ……」


そしてめちゃくちゃに動揺しとる。


「……コマはさ、神界に帰りたいのか?」


「……っ」


僕は話を切り出した。


「どうなの?」


「…………」


コマは黙ったまま。


そして。


「……正直、まだ帰りたくない」


ボソッと呟くように言った。


「まだ地上には面白い事いっぱいあるし、リィゼやスピカもいるし、それに……あの神社が好きだし……」


やっと聞けたコマの本音。


コマは帰りたくないらしい。


「……なぁコマ、1つ聞いていいか?」


「なに?」


「神獣ってさ、姿を人間に見られたくらいじゃ強制送還にはならないの?」


その質問に、コマは少し真顔になった。


「……神獣が神界へ強制送還される場合は3通りあるの。

1つは自らの神社が廃神社になった場合。

次に神通力を使った公私での犯罪、獣の呪い以外で人間に悪影響を与えた場合。

そしてもう1つは姿を人間に見られ、なおかつ神獣の存在が一般社会に流出してしまった場合。


……だから実際、神獣の存在が社会に流出して混乱をおこさない限りは姿を見られても強制送還にはならないわ。

まぁ実際、姿見られて神通力無くすと、だいたいはその神社が廃神社になっちゃうから、それで強制送還ってのはあるけど」


「なるほどねぇ」


姿を見られても社会で問題になるか、神獣の存在が認知されなければOKなのか。


「……まぁどっちにしても、白犬神社は廃神社に……」


またコマが自虐モードに入りそうだな。


うん。


よし。


「廃神社にはさせませんっ!」


副神様もどきの市沢くん登場!


「……え?」


コマ、きょとん。


「大丈夫だ、白犬神社は廃神社になんかさせない! 初めてあった日にもそれらしい事言っただろ僕?」


僕はバサッと立ち上がり、コマの前へ。


「大丈夫。犬の獣の呪いだろうが希望消失だろうが聖獣様が何だろうが、僕が絶対白犬神社は守ってやるよ!」


すると、コマは少し焦りだす。


「む、無理だよ。だってその考え自体がアンタの願いや希望になるわけで、まさに呪いの効力が……」


「だから獣の呪いなんか関係なくだ!」


僕はコマの言葉を遮った。


「とにかく、なんとしてでも、僕は白犬神社を守る! コマが地上にいたいなら、いさせてやるよ! 呪いなんかを軽く凌駕する力で守ってやるよ!」



正直、具体的な案はまだ浮かんではないけど。


けど、絶対何かあるハズだ。


呪いは掛けるものでもあり、解けるものでもある。


きっと何かがある!


そして白犬神社を守る方法も、きっとある!


「僕は絶対絶対、コマを守る! 絶対の絶対の絶対、もうコマにはツラい思いをさせないから!」


これが僕の……希望だ!


「…………」


僕の言葉に、しばらく黙り混むコマ。


「……アンタって、何の根拠もなしによくそんな事言えるね」


そしてその時、今まできょとんとしていたコマが少し、笑顔になった。


そして尻尾は少し振ふりふり。

犬が尻尾を振る時、それは嬉しかったり、甘えたりする時。


「……アンタって、意外に凄いよね」


「おい、意外って何だ意外って」


そして、コマは呟いた。


「……根拠もないのに、頼もし過ぎよ」


「え?」


「ん? あ、何でもないっ!」


何だ?


コマは咳払い。

そして。


「……アタシ、アンタを信じてもいいの?」


その瞳からは、涙は消えていた。


「当たり前だよ。信じてくれ、僕は絶対に白犬神社を……そしてコマを守るよ」


コマは最初、呪いの事で1番に僕の事を心配して、わざわざウチまで来てくれて、そして涙を流してくれた。


僕はその時、絶対神社もコマも守るって決めたんだ。


「……っ!」


そしてコマは……めちゃくちゃに顔を赤くしていた。


……え?


「……ありがと」


コマの今にも消えそうな声で、そう聞こえた。


「……ありがとね!」


その時のコマの顔は、まるで太陽のように眩しくて。


僕は一瞬どきっとしてしまった。


キャラ設定紹介のコーナー




ファイルNo.7


リィゼ


黒烏神社神獣

身長:145センチ

体重:49キロ(翼の重さ含む)

誕生日:5月11日

血液型:不明(神獣ですから)


黒烏神社の神獣。


自らの姿を見た直江を家族のように慕ったり、ケダモノになつきつつある超純潔無垢&天然娘。


兄が1人いる。


リィゼはね、市沢くんの次に書いてて楽しいキャラです。

市沢くん同様、何も考えずとも勝手に動いてくれます。


リィゼはちょいドジで甘えたがり、さらに無垢純潔で天然と、恐らく私神のキャラの中でもえらくキャラが濃い存在だと書いてて思いました。


多分これが男だったら、女性の皆さんの母性本能直撃なんじゃないのかな?






さてさて、次回からはストーリーが大きく進みます。


最近は物語の構成上、市沢くんのムフフは自重気味でしたが、そろそろ彼も我慢の限界がくるでしょう。


獣の呪いに抗い、いかにして神社を繁栄させるか。


そして、コマを守れるか。


次回新章突入です。

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