第二幕 超理不尽なクラス委員長のお願い
ちょっと個人的な話なんだけどさ。
人の足の事を言うときに、素足って言うのは何か普通じゃん?
で、裸足って言うと何か野蛮なイメージあるじゃん?
でさ、生足って言うと何かエロいよね?
なんか「生」って字が妙にエロスだよね〜。
うんエロス。
……まぁ、つまり何が言いたいのかと言うとだねワトソン君。
言い方次第ではさ、お説教とか、エロスにならないかなぁ(遠い目)。
「市沢っ! なんでお前はいつもいつも遅刻ばっかりしてんだ!」
このやっちゃんもエロスにならぬものかね……
まぁ、なったとしても軽くお断りだが。
奇しくも前回同様、学校に遅刻し校門前でやっちゃんの説教を喰らっている僕は市沢和也。
ムフフに生きる中学3年生さハニー。
「市沢、なんで今日も遅刻したんだっ!」
やっちゃんキレ気味。
「いや、あの今日は神様やってて遅れました」
僕、ものは試しに事実を話してみる。
「神様だぁ〜!?」
うわ、モーレツに信じてねぇなこのハゲ。
僕、市沢和也は人間兼神様である。
正確には人間兼神様もどきである。
あの日、僕は自称神様の犬耳ぺちゃぱいと出会った。
そう、神様の夜以下略を貪り食おうとしていた所を僕は見てしまい、神様の力を失った神様。
そして、彼女の流した涙を信じた僕は今、その神社の副神様もどきとして絶賛肉体労働中なのである。
今朝は3丁目の鈴野さんの願いを叶えていたので遅刻したんです(庭の害虫駆除)。
……疲れた。
神様は願いを叶える所を人に見られてはいけない(らしい)ので、鈴野さんの起床する前の時間に庭に忍び込んで、コマとずっと害虫駆除してたんですよチクショー。
「いいか市沢、遅刻の理由をそんな空想のせいにしちゃいけないぜ」
「信じてよやっちゃん、ガチで俺神様なんですよ」
「……おい市沢、やっちゃんって何だコラ!」
「あ、やべ、口滑った。今のは内緒だやっちゃん」
「市沢ッ!!」
「だぁっ、またしてもリアルジャック・バウアーごっこの幕が上がっちゃった!!」
さあ、いまからジャック市沢は頑張る事になりそうだ!
「はぁ…はぁ…あ……し、しんどい……」
結局僕は逃げ切る事に成功。
これでやっちゃんとは32戦24勝。
まぁまぁの戦歴だな。
で、今汗だくになりながら教室へ。
「暑い……汗が……やっちゃんめ……」
愚痴を言いつつ自分の席へ着席。
すると……
「おい、今日のエロ市沢、何か汗だくだぞ?」
「まさか……朝から強姦とか?」
「うわ……だったらヤバいな」
「どうする? ポリスメン呼ぶ?」
……おやおや?
クラスのみんなが何やら小声で話をしつつ、僕から離れていくよ?
清純少年市沢和也とは僕の事!
そんな時……
「ちょっと市沢ッ!」
みんなが離れていく中、僕に特攻隊の如く突っ込んでくる女子が1人。
ショートな黒髪、女子としては平均的な身長、一切の着崩しのないブレザー制服。
そしてこちらもまぁまぁサイズの双丘。
至って真面目な雰囲気の女子。
……誰?
「ちょ、委員長! 市沢に近付くとエロが移りますよ!」
「委員長、はやく逃げて! 襲われますよ危ない!」
「市沢ッ! 委員長に手を出したらアンタをぶっ殺す!」
わー、クラスの連中が騒ぎ出した。
「みんな大丈夫。私がクラス委員長として、このバカに一言言ってあげるから!」
特攻女子―――ああ、ウチのクラスの委員長さんなのか。
知らなかった。
そして委員長さん、俺の机に手のひらバシーン。
「あのさ市沢、アンタがそうやって汗だくだと、みんなが迷惑するんだけど!」
「うわ、なんか早速理不尽な意見きた!!」
汗だくが迷惑だなんて……体育の時とかどうすんの僕!?
「それから息をはぁはぁするな! 息吸うな、息吐くな!」
「わお、遠回しに死を願われとる!!」
「いっそのことこのクラスからいなくなれ変態っ!!」
「……なんでだ。まだ僕今日、変態行為一切してないのに……」
理不尽。
「……ってな事があったんだ。助けてコマえもん!!」
「……私、猫じゃなくて犬なんだけど」
放課後、白犬神社の境内。
例のゾクゾクする石ベンチに腰掛けているのは、ぺちゃぱい神様のコマ。
犬耳尻尾はマニアの間で需要高し。
「ってか、アンタが変態なのがいけないんでしょ?」
「変態言うな、変態紳士と呼べ!」
全く……
「それより、今日もお願いが来てたわ!」
「ああ……」
コマに促され、僕は賽銭箱の中とお供え物チェック。
……賽銭0
……お供え物、バナナのみ。
「…………」
「今日はね、カトウって人が世界征服を……」
「バナナで!?」
世界征服したけりゃ1億円くらい賽銭しろやカトウ!!
ってかカトウって人、前にも確か……
「……にしても」
毎回賽銭チェックしててつくづく思う。
この神社、本当に参拝客少ないな。
町の外れという神社の立地条件を差し引いたとしても、かなり少ない。
だって昨日は鈴野さんからのお供え物のみ。
一昨日に至ってはお供え物0。
お供え物や賽銭で命を保っているコマにとって、これはかなりキツイのでは?
「どうする? カトウって人の願いを叶えてみる?」
「叶えられる力が僕達にあったらな」
生憎人力では無理だ。
コマの神力も弱っているし。
本当にこの神社を繁栄させる事、僕に出来るのかなぁ?
「……でもまぁ、もし超可愛いキャピキャピナースのお姉さんが参拝に来たら……僕のやる気はアップするのにな〜」
お注射かい?
もしくはマッサージ?
ウヘへ!!
「……アンタ、本当に変態なのね」
白い目でこっち見んなぺちゃぱい。
そもそも、鋼の精神うんぬんの僕の願いはどこに……
その時
コツコツ
「……ん?」
「……足音?」
突然辺りに響いた、階段を昇るような足音。
あ、ちなみにこの神社、目の前には数段の階段があるんです。
……ってか
「参拝客じゃね?」
「……あ!」
足音は見事に階段の方から。
「ヤバい、とにかく一旦隠れなきゃ……」
「コマ、とりあえずこっちに!」
僕は慌ててるコマの尻尾を掴み、強引に引っ張りながら神社の境内にある大木の裏へ。
「あ、コマ暴れるな!」
「暴れてない! ってか暴れないから尻尾から手を離して!」
「尻尾? あ、ごめん! 掴みやすそうな場所がここしかなくて……」
「もう……尻尾は狛犬の神にとって凄くデリケートな場所なんだからっ!!」
「デリケート……あ、もしかして感じた?」
「変態ッ!!」
ドカッ!!
「痛ッ!! グーで頭殴るなぺちゃぱい!」
「ぺちゃぱい言うなっ!」
ドカッボカッグチャッ!
「あー痛い痛い!! 目はやめてぇ!!」
「……っ!!」
ドカッボカッグチャッ!
「ぎぃやあああぁぁぁ!!」
暴力反対っ!!
その時。
「神様、どうかお願いします!」
賽銭箱の方から聞こえた、女性の声。
僕は未だに鬼神化中のコマを押さえつけながら、大木から顔を少しだけ出す。
「あ、ちょ、頭押さえるな変態!」
シカトシュート。
にしても、あれは女性の声だった……もしかしてナースさんかっ!?
しかし、そこにいたのは……
「どうか……ウチのクラスにいる変態(市沢)が、何等かの理由で死にますように……」
賽銭箱の前で手を合わせ、願いを語る少女。
市沢和也ブラックリストであの少女を検索、検索時間0.1298秒、検索結果を脳内に表示します。
……佐薙中学校3年1組クラス委員長、真田穹音と判別。
そうです、今朝新たにブラックリスト入りを果たした、あの特攻理不尽委員長!!
「ってか、願いが僕の死ッ!?」
ゴオオオォォォ!!
その時、背後から凄まじい殺気。
僕、恐る恐る振り返る。
そこには……
「願いを叶える、それが神様の役目!」
どこからか持ってきたであろう、巨大な石のハンマーを構えたコマ。
「ちょぉっ!! まっ、ばかっ、たんまっ!」
やべぇ!!
これ僕死ぬっ!!
「アンタも一応神様もどきなら、殉職は本望のハズ!」
「え、これが神様の殉職なの!?」
ってかまだ死にたくねぇ!!
「くらえ、1tハンマー!!」
「1tッ!?」
ぎゃあああぁぁぁ!!
逃げないと死ぬ!
けどこの大木の陰から出ると委員長に見つかる!!
でも逃げないと死ぬ!
でもまだ僕は死ねない!
ベッドの下のエロ本処理してからでないと死ねない!!
けど……多分委員長に見つかっても、なんか色々とまずくて死ぬ!
つまり……
「僕は死ぬしか選択肢がないのかっ!?」
「かくごっ!!」
ぎゃあああぁぁぁ!!
何だかんだで僕が走馬灯を実感していた時、委員長はまだ賽銭箱の前で手を合わせてお願い中。
そして……
「神様、どうかあの変態(市沢)に死を。 そしてもう1つ……」
その時、委員長は突然辺りをキョロキョロ見渡して、回りに人がいない事を確認し……
「ど、どうか私の……こ、この……せ、性癖が治りますように……」
僕は走馬灯の中のムフフ時代の自分を見て爽快感を共感しつつも、しっかりと現代のその委員長の言葉を聞いていた。
委員長の願い。
それは僕の死……ごほんごほん。
あー、これはナッシングな方向として。
委員長の性癖?
これは……何?