第十二幕 黒い翼とケダモノと
夕闇に染まる噴水の水。
公園の街灯がポツポツとつき始める。
空気は昼間と違い、幾分湿気を帯びた。
影は長く、その影からは夕闇の虚しさが漂いはじめていた。
そして、紅く色づく夕焼けの空には、烏が一匹飛んでいた。
「はっ、はっははははははは裸羽ッ!?」
僕は今、新しい熟語を生み出した。
裸の背中から羽が生えてる人の事を、裸羽と言います。
ぜひ市沢マークの国語辞典に掲載を!
「あっ……うっ……」
夕方の公園の噴水で出会った、裸の少女。
ちなみに背中からは漆黒の翼。
……なんか、驚く以前になんかデジャヴ。
何だろう、この動物的な神様デジャヴ。
まだ確証はないけど。
ちなみに、黒羽の彼女はと言うと……
「うぅっ……ぅ……」
両手で前を隠しながら、なんか泣き出していた。
……え、泣き出して?
「うっ……ぅ……」
彼女は顔を真っ赤に染め、腰が抜けたかのようにその場に座り込み、静かに涙を流していたのだ。
「うわっ、ちょ、ご、ゴメンッ!!」
この時点で僕、我に返る。
急いで後ろへ振り返り、視線を反らす。
「あーちょ、まっ、な、泣かないでっ! 僕何も見てないからっ!」
僕は誰もいない後ろへ視線を向けつつ、言葉は前にいる彼女へ。
……とか言いつつも、しかしながら僕はその……見てしまった訳で。
やめろトランセルっ!
かたくなるをするなっ!
「っ……ひっく……」
未だに聞こえる彼女の泣き声。
ってかさ、なんでこんな公園で裸の女の子がいるの(翼付き)っ!?
もしかして変態さんなのっ!?
だとしたら見られて泣くか普通?
快楽じゃないの?
なんでなの?
なんで僕、変態さんの気持ちが分かるの?
なんで分かっちゃったの僕?
嫌だよ変態っ!!
「と、とにかくさ、服あるなら着て欲しいんだけど……」
僕のトランセルがかたくなるを連続使用中。
防御力が……。
「っ……ふくっ……」
その時、彼女が何か言い出した。
「何? どうしたのっ!?」
とにかくこの状況ヤバいっ!!
「ふくっ……そ…のっ……ないっ……ひっく」
……嗚咽混じりに聞こえた、最悪なワード。
え?
「え、服がないっ!?」
……裸族?
ってか、
「はぁあああっ!?」
何故だ!?
何故服がない?
何故この状況でトランセルかたくなる!?
「ちょ……と、とにかくコレをっ!」
僕は理性と鼻血とトランセルの暴走をぐっとこらえつつ、着ていた制服のブレザーを彼女に渡す。
彼女は泣きながらも左手を伸ばし、ブレザーを掴んだ。
しかし……
「……っ、は、羽が邪魔でっ……着れないっ……ひっく」
くぁあああっ!!
僕のトランセルがバタフリーに進化しそう。
ってか羽!?
「ってかさ、聞いていいのか駄目なのかアレだけど、何故キミの背中には黒い翼が!?」
もう僕ヤバい。
「ひっく……わ、私……その……」
僕の問いに応える彼女の声は、だんだんと小さくなっていく。
「そのっ、信じてっ、くれないかもっ、知れないけどっ」
嗚咽のせいで声が聞き取りにくい。
しかし……まぁその部分ははっきりと聞こえた。
「わっ私、か……神様っなのっ……」
「…………」
僕は何のリアクションも取る事が出来なかった。
その時!
「なぁ達知、木原。お前達は部活に入っているのか?」
「さ、さぁね」
「それは神のみぞ知る話さ」
「うーむ? 結局入っているのか?」
……公園の入口方向。
そっちの方から聞こえた、3人の男性の声。
僕、ちょっとフリーズ。
市沢和也脳内音声検索サイトによると、今の声は98%の確率で……
「もしかして今の声……」
そして徐々に近づいてくる声。
「そもそもお前達は軟弱過ぎるのだ。もっと筋肉をだな……」
「うわ出た大内の筋肉愛好論」
「この話、長いんだよな……」
もうはっきりと聞こえた。
この声、達知太智(18禁書目録)と木原徹と大内(筋肉バカ)だ……。
確か大内とタイガーと禁書は、幼稚園小学校共に同じらしい。
つまりは幼なじみ?
すなわち、帰る方向が一緒。
だから、たまにだけど一緒に下校する事があると、昔タイガーが……って、
「あ、このままだとヤバくね!?」
僕は恐る恐る振り返った。
「っ……うっ?」
そこには、まだ泣いてる裸羽の女の子……いかん、あんまり直視したらいけない。
「…………」
僕は考えた。
一般人に裸羽は見せちゃダメだよね。
多分だけど、この子は……神獣だと思う。
僕に今見られて神力どうこうもあるけど、それ以前に……
「裸の女の子……そしてタイガーと禁書は佐薙中エロス四天王……」
うん、何するか分かったもんじゃない!
まぁ僕も四天王の1人だけど……。
「筋肉はいいぞ! ここぞと言うときに絶対裏切らない!」
「二次元はいいぞ。ここぞと言うときに絶対裏切らない」
「ロリはいいぞ! ここぞと言うときに従順なアレになる!」
んな事考えてたら、3人の姿が目視出来る辺りにまで接近していた。
ってかヤバい!
「うわっ、やばっ、ど、どうするか……」
テンパる僕。
「……ひっく」
そして未だに泣いてる女の子。
相変わらず裸。
もう僕のバタフリーは全てを凌駕している。
「このままタイガー達に見つかるのもマズイし、かと言って他に何か……」
僕は公園のあちこちに視線を動かす。
とにかく、この娘を何とかタイガーの毒牙から守らないと……
ってかそもそも神獣だとしたらより一層ヤバい訳で。
せめてどこか、隠れられそうな場所は……
「……っあ!」
その時、不意に裸羽少女が上を向いた。
「え?」
何事かと釣られて僕も上を向いた。
そしたら……
バサッ!
「……っ!?」
単刀直入に言うとだ。
空からシルクのぱんつが降ってきた。
……装着者と共に。
タッ!!
すなわち、今空から女の子降ってきた。
え?
ちなみに彼女、ウチ(佐薙中)の制服を着ている。
すなわちスカート。
シルク見えちゃった。
ってか、
「は?」
もう僕今日は思考回路がオーバーヒート。
「……凪沙?」
空から降ってきた女の子は、黒髪ポニーテールで身長は某ショタコンより少し小さい。
そんなダイナミック登場を果たした女の子に、裸羽の少女が声を掛けた。
「……大丈夫か、リィゼ?」
シルクドガールは優しそうな手つきで、裸羽の女の子の頭を撫でる。
「凪沙……凪沙っ……」
裸羽少女は迷子がお母さんと再会した時のように、不安解消の涙を流し始めた。
……で、だ。
「…………」
ギロリ。
ダイナミック登場シルクドガールが、めっちゃこっちを睨んでくる。
「……あ、あのぉ?」
「…………」
「確かだけどさ、君は隣のクラスのクラス委員長さんの……」
「…………」
「な、直江さんかい?」
「……ケダモノ」
多分そうだ。
たまに真田とお昼食べたり下校したりしている所を何度か見た事がある。
ってか去年は確か同じクラスだったような。
「……え、何? これは一体、どういう?」
空から突然知ってる人が降ってきて。
よく分からない裸羽の頭を撫で、
裸羽は安心した様子で、
僕、もう今日はダメだ。
「……もう大内達は近い。リィゼ、ケダモノ、こっちへ」
僕がもう現状について考えるのを止めて、今日の帰宅後のムフフ活動について考えていた時、不意に直江が俺を手招き。
ってかケダモノ俺?
「……は?」
「いいからこっちへ来い」
冷淡な口調の直江。
裸羽少女……直江曰くリィゼは素直に直江の指示に従い、後についていく。
「あとリィゼ、お前また服忘れただろ」
「……う、うん」
「全く……ほら、服持ってきたから、着ろ」
「ありがとう!」
……直江の持っている服。
白いワンピース。
しかし、そのワンピースの後ろ、何か2ヶ所切れ込みが……。
「……あ」
その時、直江が気付く。
「……悪いリィゼ、ぱんつ忘れた」
「ぶほっ!」
僕は今、変態を自認した。
他人の会話盗み聞きして、めちゃくちゃ吹いちゃった。
あーあ、僕の人徳。
「…………」
あー……直江の視線が痛い。
無言痛い。
「ん……しょ、うん。大丈夫!」
一方のリィゼはワンピースを着用。
背中の切れ込みから翼を出して。
白いワンピースに黒い翼は不思議と絵になる。
……しかし。
あのワンピースの下、あれ多分ノーパンなんだよな……。
「……死ねケダモノ」
「……まだ僕何も言ってないんだけど」
「……鼻血」
「……はいすみません」
案の定すぐ近くにあった草木の茂み。
僕と直江とリィゼはそこに隠れ、タイガー達が通過するのを待つ。
空はもう夕焼け。
「……時にケダモノ」
「な、何?」
突然、茂みからタイガー達を確認している直江が切り出してきた。
僕は出来るだけ平常を煽りながら応える。
「お前、リィゼに何もしてないだろうな?」
「……残念、僕は人間相手にしかムフフはしないよ」
その僕の言葉に、直江の眉がピクッと動く。
「お前……」
直江は何かに気付いたみたい。
だから、僕も言う。
「リィゼだっけ? ……この子、神獣だよね?」
背中からの黒い翼
自らを神様と名乗る
これは初めてコマと出会った時と同じ感覚。
……一方そのリィゼは隣で「なんかスースーする」と言って、座りながら足を閉じたり開いたり。
青少年には刺激が強い。
バタフリーはもう殿堂入りしました。
「……お前、神獣を知っているのか?」
直江は相変わらずの無表情で、けど言葉には抑揚を付けて聞いてきた。
「まぁ……ね」
曖昧な答えしか出ない僕。
だってねぇ。
「……そうか」
すると直江は、しばらく黙り込んだ後、語り出した。
「ケダモノ、お前は黒烏神社を知ってるか?」
「黒烏……あ、ああ。確か隣町の……」
隣町にある黒烏神社。
詳しい事は知らないけど、まぁ学問系の神様があーだこーだの神社って事は知ってる。
だから毎年受験シーズンには地元の学生達がよくお参りに行くのだ。
「黒烏神社には2匹の神獣が主として存在し、リィゼはその1匹……いや1羽なんだ」
「……細かいね」
「黙れケダモノ」
すると直江は立ち上がる。
「……大内達は行ったな。よし、そろそろ帰るぞリィゼ」
気付くと確かにもうタイガー達の姿が見えない。
いつの間に……
「……私は、クロウとリィゼから神力を奪ってしまった。だから、私が代わりに」
その時、何やら直江が呟いたが、声が小さくてよく聞こえない。
「……ケダモノ、今日見た事は他言無用だ。いいな?」
「え、あ、ああ……分かってるよ」
ってか言う気ないし。
言っても誰も信じてくれないだろうし。
そしたら俺、痛い子扱いされちゃうし。
「……ならいい。行くぞリィゼ」
「うん……何かスースーしすぎちゃって、ムズムズする……ひゃっ」
……最後の最後で、僕のコクーンがかたくなるを連発していた。
暇だからやる、キャラクター設定紹介。
基本裏話やキャラプロフィール重視でいきます。
ファイルNo.1
市沢和也
佐薙中学校3年3組、出席番号3番。
身長:167センチ
体重:53キロ
誕生日:1月9日
血液型:B型
一応今作の主人公ですね。
思春期真っ盛りのピンク色少年。
好きなモノがムフフとか、正直で何よりです。
市沢君、初期ではただのエロボーイでロリは守備範囲外とか言ってますが、最近だとお姉さん好きだけど基本オールラウンドって設定になってきました。
つまり、彼も成長しているのです(何が?)
タイガーとは中学からの知り合い。
よく女の子ビデオの貸し借りなんかをしてます。
初期のプロットだと、私神はこのタイガーの悩みを解決していくお話になる予定でした。
市沢が出会うコマも、初めは犬ではなく狐の予定でしたし。
しかし、何故だか狛犬って設定に変更。
こっちの方が神社っぽいっていう謎の考えが当時働いたんです。
まぁぶっちゃけ狛犬の方が神社っぽいって今でも思っていますが。
で、タイガーがもっと世の中にエロスを普及したいとか言い出して。
市沢君とコマがタイガーに自重を促すべく、リアルでタイガーに恋でもさせればエロス自重するんじゃね? みたいな考えに至る訳で。
市沢コマの恋のキューピッドが影ながらタイガーに恋愛をさせる。
そんな話になる予定でしたが、つまらなそうなので却下。
タイガーの恋なんてつまらない。
で、生まれたのが真面目なのに本性はショタコンっていうギャップ委員長真田。
真面目な恋愛より、こっちの悩みを解決していく方がコメディーっぽくて面白いと判断。
で、今に至る。
今思うと恐ろしいタイガー恋愛物語。
もうこれ市沢君の裏話じゃないね。
そろそろ切り上げだね。
ではまた次回!