てっぺんまで
修学旅行4日目(最終日)
「え~っと…、これは何かの縁なのでしょうか?」
「可愛いぞ美雪!」
「恋しかったよ!」
普通、修学旅行のバスの添乗員と言うのは初日と最終日とでは違う人が割り当てられるのが多いのだが何かの縁だろうか?誠の乗っているバスの添乗員は初日と同じ沢渡美雪さんになったのだ。
「皆さん、スキー・スノボそれぞれやられたと思いますが…、どうでした?」
「美雪みたいな白い雪の上を滑ったよ!」
「寒かった!」
「美雪のためなら命張れる!」
「あははは、まともなの2つ目くらいかなぁ?では気を引き締めて!これからですね函館の方に向いたいと思いますが何かイメージとかありますか?」
「百万ドルの夜景!」
「はーい、そうですね。夜まで居られないのが残念ですが」
「美雪!」
「違いまーす、私は長万部で~す」
美雪さんと楽しそうなトークが炸裂している中誠はやはり面倒くさそうにスルーし続けて窓から見える真っ白な雪が積もった開けた平地を望んでいた。寒くなって前を向くと美雪さんと同級生達は楽しそうにトークを続けている。隣の席には須藤が座っているが眠っている。朝が早かった分眠かったんだろう。隣の列の席には窓側から里佳子と前沢が座っている。百合奈は誠のすぐ前の席で男子に混じってトークしている。取り敢えずこのバスに乗っている女子の中で百合奈のテンションが一番高い。さすが騒音メーカー。里佳子と距離が大分離れているので表情こそよく読み取る事は出来なかったが修学旅行を楽しんでいる顔にはとてもじゃないが見えなかった。別のことを真剣に考えている様な目をしていた。
「美雪さんって何歳なんですか?」
「!???」
美雪さんに質問したのは百合奈、“!???”は美雪さんではなく誠。一瞬その質問に唖然としたがすぐに気を取り戻して百合奈の座っている席の後ろを膝で蹴って後ろを向かせる。
「なっ何?」
「お前失礼なのが分からないのか?」
「いいんじゃね?“秘密”が常套文句なんだし」
それだけ言うと百合奈は再び前を向いて「いくつですか?」の質問を答える有り様。対する美雪さんはといえば困った表情を浮かべている。そりゃそうだ。函館の話題になっていて、いきなりそんな質問されるとは思いもよらなかったのだろうから。
「えっと…、20代!!!」
「正確に…」
「20代!!それ以上はいえない!!」
この後百合奈はこのバスのほとんどの男子に“美雪泣かせ”の恥ずかしい称号を手に入れたのであった。
「ではもうすぐ函館市に到着します」
バスが駐車場に到着したのはそれから5分ほどしてからの事であった。バスが止まったのは函館山、日本三大夜景で100万ドルの夜景で知られる函館を望む展望台のある函館山の麓だ。バスから降りるとロープウェイが稼動しているのが目に留まる。ロープウェイのゴンドラの行く方向を追うと途中で見えなくなって行った。
「こっちに集合」
藤枝の合図でロープウェイを見つめるのを止めて、列に並ぶ事にする―。
活動時間は3時間。15分前には集合を始め5分前には完全集合と言う流れをそれぞれの先生から聞き初日の札幌見学を思わせる解散の仕方をした。
「久瀬君、どこに行く?」
「そうだなぁ。パンフ見てもどこも遠いし…、この辺ぶらつくか」
「そうするしかない様だけど…、せめてあのロープウェイ乗りたくないかい?」
「俺は構わんが…、前沢はいいのか?」
「あっ…」
「行ってやれ。1人でも平気だ」
「わっ悪いね…」
すぐに彼は誠の元から離れて前沢の元へ走り始めた。取り残された誠はあちこちを見渡して行き先をどうするか悩む。
『さてどうするか?』
「ねぇ、誠」
「おっ?おう里佳子か?」
「ねぇ…。これからさ」
「これから??」
‐軽くデートでもしませんか?
「いいけど…」
「良かった~、断られたらどうしようって心配しちゃった」
「けど、どこに?」
そう誠に聞かれるとすぐさま彼女はまっすぐ頭上を指差してニコッと可愛らしい笑顔を浮かべる。
「てっぺんまで」