久瀬君とはどうなの?
修学旅行2日目。
誠と須藤は廊下の端に設置されている自販機でペットボトル飲料を買いに来ていた。
「あっ…、前…」
「むっ」
須藤が声を掛けようとしたのは前沢だ。“あっ…、前沢”と声を須藤が声を掛けようとしたのだがそれを聞いて彼女は頬を子どもみたいに膨らませて須藤の目をじっと見つめる。
「うっ…、詩」
「はい、それでよろしい。今後も頼むよ。康博」
前沢の下の名前「詩」を須藤が呼ぶと前沢の顔はさっきとは打って変わり明るくなって半ば上機嫌に彼女は須藤と誠の目の前から姿を消す。
「へっー……お前もやるにぇ?須藤??」
「うるさいな…」
冗談交じりで放たれた誠の言葉を須藤は下手くそに流すと自販機にコインを投入しジュースを選び始める。
「俺もつくづく尻に敷かれるタイプだなァ…」
「まぁ、頑張れ。俺だって似た奴がいるからよ」
「あぁ…、沢の事か」
「アイツ、案外前沢と似ているんだよ。性格が」
「ヘェ…。意外」
「意外だから俺も驚いてんだよ」
「フッ…、違いねぇ」
ジュースを選ぶと取り出し口から須藤は冷たい缶コーヒーを取り出してその場でキャップをあけて飲み始める。次は誠がコインを投入してジュースを何にするか悩み始める。
「なぁ、久瀬君。何で俺はアイツとあそこまで仲良いんだろうな?」
その場で座り込みをしている須藤の顔は見えない。見えるのは彼のつむじだけだ。時々コーヒーを口にしながら誠から答えが出るのを待っているようだ。
「さぁな…。その辺はお前の持ち前の明るさじゃないのか?」
「明るさ?」
「お前は俺と違って明るすぎるんだよ。うちの妹みたいにな…」
「妹いんの?」
「あぁ、中三だ。今年で受験生になる。俺と違って外向的でクソ明るいんだ、これが」
「……。明るさか」
ジュースが落ちる音が聞こえて取り出し口に手を伸ばす。ちなみに誠が選んだのは須藤と全く同じコーヒーである。須藤が座り込みをしている右隣に座り込む。
「案外美味いな。寒いのに冷たいコーヒーは」
「あぁ。逆に言えば冷たいやつしかなんだけどね。フッ」
「言えてる。温かい奴置いてもいいのに」
2人はしばらく自販機の近くに座り込んだまま冷たいコーヒーを飲み続けた。ちなみに、その間同じ目的で自販機に飲み物を買いに来た同級生達は座り込みをしている須藤と誠に対して恐怖心を覚えながら飲み物を買うのを諦める者が多かった。
修学旅行3日目。
「あっ、里佳子。ケータイ鳴ってない?」
「えっ?あっ本当だ」
「聞いたことのない曲だね?」
「お父さんだよ、ちょっと出て行く。静かなところで話したいんだ」
「あっ、いいよ?」
里佳子は百合奈と前沢に断ってケータイを手にとって泊まっている部屋を出て行き廊下で通話に答える。
「もしもし?お父さんどうしたの?」
『あっ、里佳子…。ちょっと言い辛いんだけど…』
‐えっ??
「あれ?意外と早かったね?どうしたの??」
「うっ、うぅん…。何でも無いから」
「まぁ良いけど?それにしても明日になれば修学旅行も終わりだね」
「うっ、うん。本当に早いねぇ…」
「あっー!時間よ止まれ!」
憂鬱そうにベッドに背中からダイブした前沢は両手を天井にかざして“時間よ止まれ!”を繰り返している。
「あっ、そーいえば詩…、須藤君と上手く行ったのぉ?」
「あー、それがあのヘタレ。中々私のファーストネーム読んでくれなくてねぇ」
「羨ましい限りだね…。私なんかフラれたのに」
「えへへ、私だってやる時はやるんだよ?そういえば里佳子」
「ん?」
‐久瀬君とはどうなの?
「ふぇっ!??」
「あっ、それ私も気になる。誠君となんか進展あった?」
「そっ…、それはぁ…もう寝る!!!」
布団を被りうずくまる里佳子であったがこれは修学旅行。高校生の修学旅行というのは昼より夜のほうが遥かに長いのである。
「眠らせないよ??」
「いにゃぁぁぁ」