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次は名前で呼んでよね?これ宿題!

グダっちまった…。凄い後悔してます;;

フリータイムが過ぎるのはあっと言う間の事だった。ちなみにフリータイム中に百合奈がこけた回数は10回以上、里佳子もそれと同じくらい、須藤は…、論外。前沢の方は非常に手馴れているらしく一回もこける事は無かった。誠の方もアレを除いては一回もこける事は無かった。5時30分前にゲレンデ内で放送が流れて誠達のグループは宿泊先のホテルのロッカーにスキー板類を収めて自室に戻っていった。



「そーいえば、風呂どうする?ここの風呂露天風呂凄いらしいぜ」

「そうか…。じゃあ須藤たちで行ったらどうだ?俺はパス」

「えっ?でも戸川と檜山はゲーセンだし…この時間帯だと風呂行っている奴なんていないぜ?」

「そんじゃあ…」

その時部屋のドアの向こうで“トントン”とノックする音が聞こえてきた。

「誰だろう?」

「須藤、出たら?」

「何で俺が?」

「お前がドアに近いから」

「………、はいはい」

誠に上手い事言いくるめられ須藤は面倒くさそうな顔をしながら茶色いカラーリングされたドアを開ける。ノックをした主は―、

「やっほー、康博ちゃん」

「前沢か…。お前も風呂か」

「うん。一緒に風呂行かない?アッもちろん混浴なんて無いけどね」

「当たり前だ。なぁ…、他のやつ等は?沢とか」

「あぁ、里佳子と百合奈はちょっと昼寝。スキーが疲れたって」

「そりゃあ、あんなにこければな」

「プッ…、逆に康博ちゃんは元気ねぇ…」

「うるせぇ!!くっ、久瀬君」

「ん??」

「一緒に風呂行こうぜ!」

「おっ…、おぅ…」

須藤のあまりにも威圧的な顔と態度と言葉に誠は彼に珍しく根負けしてしまった。と言っても風呂に行く用意はしていなかったので須藤と前沢の2人を先に行く様に言った。2人が先に風呂に行くと誠もホテル備え付けのタオルとあらかじめ用意していた着替えと洗濯物を入れる為のビニール袋を手に持って部屋を出て行った。

「あいつら、もう行っちまったかな?」

そういえば、須藤は前沢の事が好きで前沢も須藤の事が好きだったよな?

「………」

男と書かれた青色の暖簾と女と書かれた赤い暖簾の前に着いた所で、誠は風呂に入湯するのを躊躇う。風呂の前の小上がりに座って須藤と前沢が出て来るのを待つ事にした。

「邪魔しちゃあ悪いもんな…。おっビン牛乳か。飲もうっと」


露天風呂。


露天風呂の高い壁を隔てて前沢と須藤が話し合っている。他に入湯している人は見当たらない。同級生や一般人も全くいない。須藤の言った通り時間帯が時間帯な為に人がいないのだ。

「なぁ、前沢?聞こえるか?」

「うん。よーく聞こえる。こっちも人居ないみたい…」

「そうか…」

「ねぇ、いつだったかな?」

「何が?」

「私と康博ちゃんがちゃんと話したのって」

「あぁ、お前が転校してきてその何ヶ月かあとの修学旅行が最初だったかな?」

「懐かしいなぁ。もう2年以上前の話か。そういえば初めて話したのもこんな状況だったっけ?」

「そう言えばそうだったよな…。お前が北海道から転校してきてまだ訛りが多くて全然ダチが出来ていない頃に俺が」

「そう。正直ビックリしたよ。だっていきなり“前沢ぁ!いるかぁ?”だもん。こっちだってあせるよ」

「確かめる為に言ったんだよ。覚えてるか?お前に言った事?」

「忘れられる訳が無いじゃん。“お前牛乳好きかー!?”だもん。『牛乳好き?ッて何?』って思ったよ。だってそんな質問されて忘れられないでしょ?」

「まぁ…、俺はバカだったって事かな?」

「今でも…、フフフ」

突然前沢がくすくす笑い始める。その小さい笑い声を須藤は聞き逃すことはなった。

「何だよ?」

「なんかさぁ。私達ってこのまま“牛乳飲み仲間”でいいのかな?ってね」

「はぁ??」

「だってさぁ。恋…、なんでもない」

「変な奴…。俺そろそろ上がるわ。何かのぼせちまった」

「えっ?もう??」

「お前はどーする?」

「もうちょっと入っとく」

「んじゃあ俺、さっきの牛乳売り場で待っとくわ」

「はーい」



露天風呂を出て行く音が前沢の耳に入ってくる。それを聞いて自分が言った発言を恥ずかしがる。顔の下半分をお湯につけて鼻から息を吐く。

「何やってんだ…。私は…」


‐だってさぁ。恋人未満って感じじゃない?


何でそんな事が言えないんだ?“恋人”って言う単語すら恥ずかしがって言えない自分が恥ずかしい。人の恋愛相談に乗っていて自分の恋に対しては全然進展なし。

「…………」


‐前沢ぁ!いるかぁ?

「…………」

‐お前、牛乳好きかー!?

「…………」

‐俺学校牛乳好きなんだ、今度帰ったら一緒に飲もうぜ。

「…………」



「よーし!」

勢いよくお風呂から上がる。ザバーッと大きな水の音が辺りに響く。ちょっと勇気を振り出そう…。

あの時、須藤康博が私に声を掛けてきてくれたみたいに…。



「須藤、ほれっ」

「久瀬君。まさかずっと待ってた?」

「あぁ。お前と前沢の間を邪魔しちゃ悪いと思ってな」

「何を…」

須藤は誠から受け取った牛乳瓶のフタを開けて中身の3分の1程度を飲むと右手にそれを握ったまま黙り込む。その顔を見ると何処か真剣に考え事をしている顔であった。

「なぁ、須藤。お前は前沢とはどういう関係なんだ?本当に今のままでいいと思っているのか?」

「えっ?」

「そのままの意味だよ」

「んっー、………」

須藤が再び考え事を始めると途端に女湯の暖簾が一気にめくり上がり中から前沢が走りながら―、

「あっ、おいっ前沢!」

小上がりに座っている須藤の握っていた牛乳瓶を強奪する。もちろん中身はこぼれない様にして―。

すると、今度は須藤の飲んでいた牛乳瓶の牛乳を一気に飲み下し誠と須藤はその姿を唖然としながら見る事しか出来なかった。呆気に取られた須藤と誠を尻目に前沢はその牛乳を一滴残さず飲み干した。

「プハーッ!」

「前…、沢さん??」

「間接キッス!」

と言うと彼女は牛乳瓶を返却用のかごに置いてニカーっと不敵な笑みを浮かべると須藤に人差し指をさして更に続ける。

「次は本物奪っちゃうからね?」


‐康博♪


「えっ?」

「次は名前で呼んでよね?これ宿題!」

そう言い残すと前沢は廊下を走って行きいつの間にかその姿は無くなっていた。

「うわぁぁ~」

「すっ、須藤!?」

須藤はいきなり脱力しその場で寝転がってしまう。

「悪い…。ちょっとのぼせちまった…」

「須藤…」


‐牛乳奢ってやる。

‐ありがとよ…。久瀬君…。



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