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さっきの…、わざとでしょ?

午後のフリータイム。


フリータイムに差し掛かりそれぞれ知らない顔の同級生達がグループを作ってそれぞれ離散しリフトを乗り込み始める。誠も昼食とトイレを終えてゲレンデの看板付近で雪に突き刺しておいたスキー板とストックを抜き取りスキー板は右肩に担ぎストックは右手にまとめて運ぶ。

「おーいっ!」

手を振って誠を呼ぶ声がそこにあった。バスの車内で誠とグループを作って一緒に滑ろうといってきた福井百合奈、その人だ。彼女の後ろには里佳子と須藤がすでに準備万端とばかりにスキー板をはめ込みストックを両手に握っている。あれ?一人だけ見当たらないことに気付く。

「前沢は?」

「詩は、あったかい飲み物飲んでから来るって。場所は分かっていると思うよ」

「フーン…」

そう言うと百合奈から距離を取って里佳子の方に近付く。

「里佳子はどれくらい滑れるんだ?」

「それが全然なんだ…」

「ほっぺ赤いぞ」

「そりゃあ、私が滑った所風強かったしねぇ…。恥ずかしい話顔からこけちゃって軽く霜焼けかも」

「それ…、危ないんじゃ?」

「ごめーん。遅れて」



「それ行っくぞ!」

そう掛け声を上げたのは百合奈。その掛け声と同時に彼女は進行方向に向って顔を雪に埋めて盛大にこけた。途端に里佳子、前沢、須藤の笑い声が聞こえる。

「何だよお前!綺麗にこけて!」

「うるへぇ!!」

「あっ!」

“あっ!”と叫んだのは誠。百合奈がこけた場所から少し下くらいで誠も盛大にこけた。スキー板の右足の板が外れた位盛大にこけた。尻餅をついたらしい。お尻を痛そうに手のひらで擦っている。

「痛ぇ…」

「あれ?誠ってスキー上手いんじゃなかったの?」

「バーカ。プロだって失敗する時だってあるんだよ、里佳子」

「へぇ…」

「まぁまぁ、これで福井の事笑えなくなっちまったじゃないか…」

「そーだね。つまんないの」

残念がっている須藤と前沢の姿を見て呆れてしまった誠だが言葉にした所でこいつ等にはそう言うのは通用しないのは分かっていたので敢えて言葉を出すことは無かった。

「久瀬くーん。私達先に下で待っているから早く来てよね」

「あぁ。分かったよ」

「そいじゃあ」

そう前沢が言うと彼女はコースを蛇行しながら滑り始める。それに続いて須藤も下手そうな足取りで前沢の後を付いて行った。そろそろ立ち上がろうと左足にスキー板を履いたまま右足に履いていたスキー板を手にとってブーツの裏にいっぱい付いた雪をストックでブーツの脇から叩いて雪を完全に落としてスキー板にブーツをはめる。

「ハァ…、参ったなぁ」

「ねぇ、誠。私も先に行っておくね」

「えっ、ちょっと待ってくれよ。もうすぐだから」

「ううん。もう待ち切れないや。それじゃあ」

その時の里佳子の顔は何処かニヤニヤしていた気もするがその辺はあくまで気のせいと言う事にしよう。スキー板をはめた所で先にこけていた百合奈の存在を思い出してチラッと百合奈の方を見つめてみる。

「さて行くとするか」

「ちょっと待てぃぃぃ!」

誠の言葉に容赦なく突っ込む百合奈。ちなみに百合奈の体勢はうつ伏せになりスキー板の先端は両方ともゲレンデの雪に突き刺さっている状態。実に格好悪い。ましてやウェアにはクラスと名前が書かれたゼッケンが肩から掛けられているので通りかかる同じ学校の生徒や挙句は一般客、別の修学旅行生に笑われる始末。

「ふー…、仕方ないな…」

そう言うと折角はめたスキー板を外して2枚の板を肩にかけてそのあまりに格好の悪い百合奈に近付いてスキー板を肩から下ろしてそっと手を伸ばす。

「立てるか?」

「うっ、ぅん…」

百合奈の顔がちょっとだけ赤くなっている。霜焼けで赤くなっているのか、それとも気恥ずかしさで赤くなっているかは分からないが取り敢えず顔が赤いのは確かだった。

「うっ!お前重くないか?」

「失っ、しつれ―!うわぁ!!」

「うわぁ!」

“失礼な!”と百合奈が言いかけた所で百合奈が暴れてバランスを崩して百合奈と誠が同時に転んでしまい2人の体は×印みたいに重なる。誠は斜面に対してうつ伏せ、百合奈は誠の背中に対してうつ伏せになっている。もうこれでは冗談にならない。

「お前…、重い」

「失礼な!………ねぇ………」

“ねぇ”と声を掛けてきたのは誠の体の上に乗っかっている百合奈。うつ伏せになっているので百合奈の顔や表情は全然見えない。

「ん??」

取り敢えず、生返事だけで返してみる。

「さっきの…、わざとでしょ?」

「えっ?」

「転んだのわざとなんでしょ?違う??」

「………」

「ほら、やっぱりね。あんなこけ方どんなに上手くこけても分かる人には分かるんだよ?だって私は転ぶのがプロなんだから」

「それ…、自慢なのか?」

「恥ずかしかったんだ…。友達にこけた所笑われるの…。でもなんか頭がスッキリした。もう笑われても平気だから……」

すると百合奈は自力で立ち上がり誠はその立ち上がった際に出来た隙間から抜け出す。

「本当に、君は優しいな」

「うるせぇ…」

「ほらっ!早く滑らないと里佳子たち待ちくたびれていると思うよ?」

「………」



‐おうっ。



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