スキー学校開講
修学旅行2日目、午前9時30分。
「では皆さ~ん、おはようござまーす!」
「おはようございます」
スキーのゲレンデの下部で2年生全員がクラスごとに集合しその前には黄色いウェアを見たインストラクター達がスキー板はスノーボードを脇に置いて立っていた。スキー一日目は午前中はあらかじめ分けられたスキー・スノボード班に分かれて軽くゲレンデを滑って練習をし昼食後は5時までフリータイムの予定。百合奈が昨日一緒に滑ろうといっていたのはそのフリータイムの事だ。
「先生方からお話は聞いておられるとは思いますが午前中は皆さんの班の目の前にいるインストラクターの先生達が皆さんと一緒に滑り練習を行います。午後からはフリータイムと言う事なので立ち入り禁止区域には絶対に立ち入らないで下さい。木や鉄塔にぶつかったら命の保障は出来ません。ですので絶対に立ち入らないで下さい。立ち入り禁止区域はリフトの真下とゲレンデ両脇にある林です。その他は赤いゴム製のフェンスが張ってあるのでそれを基準にしてください。ゲレンデによっては他のルートと合流する場所があるので注意してください。それの目印は黄色い布で『減速』と書いてあるので覚えて置いてくださいね。分かりましたかー?」
「はーい」
「では、皆さんの目の前にいるインストラクターの方の指示に従ってください」
誠たちの班は西先生と言う若いインストラクターで点呼を確認すると早速リフトに乗り込むように指示をする。最初に滑るルートはもちろん初級コース。勾配自体はそうきつくは無いのだが距離が長いらしい。「皆さん。これから乗るリフトは4人乗りです。乗ったらすぐに安全バーを下ろしてください。降車駅で安全バーを上げてスキー板の先端も少しだけ上げてください」
「はーい」
「では行きましょう。僕と一緒に乗る人来て下さい」
「はーい」
リフトから見下ろす東京では味わえない白銀の世界。木には幻術的に雪がつきリフトの足元の雪は圧縮もされていないらしくふわふわと上に積もっていた。
「あれ?」
誠がふと右隣の林に目をやると林の間から何人かのスキーヤーの姿を確認した。
「あっ、また滑っていますね」
「言わなくていいんですか?」
「大丈夫。下で滅茶苦茶怒られますから」
西先生の言葉を聞いて誠以外の2人も一瞬だけ「ぷっ」と声を出して笑ってしまう。すると耳に機械音の声が入ってくる。どうやらもうすぐ終点の様だ。
『まもなく終点です。手前の安全バーを上げスキーの先端を上げてお待ちしてください』
「では、降りますよ」
リフトから降りると白い雪が太陽に反射してゴーグルをかけていても眩しく感じる。西先生は降車口から見て左側に向って逆ハの字を作って進んでいる。次々とひよこの様に同じ班のメンバーが付いて行く。誠もその後を付いて行った。
ゲレンデの端で西先生は斜面に対して垂直に立ち西先生の目の前で班のメンバーが横一列に先生と同じ様に立っていた。誠はちょっとだけ出遅れたので列の一番下端に滑り込んで横一列に並ぶ班の列に加わる。
「これで全員揃いましたね。それでは皆さん、僕の後に出来るだけ一列に並んで滑ってきてください。上のから順番に滑ってきてください。ある程度間隔が相手から次の人滑ってください。では行きます」
その掛け声を合図に次々と上から班のメンバーが滑っていく。
「お先に」
誠の1人前の知らない同級生が声を掛けて滑り出していく。誠も間隔を置いて一気に滑り始める。
「ぷはーっーー!!」
「おっ、どうした福井?凄い盛大にこけたな!」
「うるしぇー!!わたしゃあ何年も滑ってないんだ!!大体須藤君には言われたくない!」
「ふふっ、まァこれでこけてくれる仲間が出来たわけだ。安心安心」
「うっうわぁぁ」
「里佳子まで…」
「ほぅ。沢も滑れないのか」
「だってぇ…、スキーほとんど初めてなんだもん」
「へぇ…、意外だねぇ」
そこに里佳子たちの担当のインストラクターの先生が華麗な滑りで近付いてくる。
「君達、すぐに立てますか?」
「んにゃ…、板が突き刺さって…」
「ストックで板を外してください。沢さんと須藤君も」
「はいっ」
「は~い…」
その姿を違う班で近くで集合していた前沢は少々呆れ気味にこけた3人トリオの姿を一瞥する。
『何やってんだか…』
「前沢さん?聞いてる?」
「あっ、すみません!」
「凄いですよ、久瀬君。パラレルが使いこなせているじゃないですか」
「スキーは5歳くらいの頃からやっていたので…」
「へぇ、それは中々ですよ。他の皆さんも大健闘です。今は…、11時ちょうどですね。あと5本くらい滑ったらお昼にしましょう。その後はお待ちかねのフリータイムですよ。ではさっきの要領で僕の後に付いて来て下さいね。では行きまーす」
「はーい」