修学旅行1日目
初日の札幌見学だがこういう場合、多少は観光し昼食を取りそのあとはゲームセンターに行ったりお土産屋に行くか、大抵はそれらどちらか二つに分かれるのが相場だ。班別行動と言う割には別の班と混ざったりバラバラに行動したりする。それが高校生の修学旅行の街並み見学の大抵の行動だ。誠の班は須藤、戸川、檜山の班だったわけだがそれはそれ誠を除く3人はゲームセンターに行きたがり誠の方は『どうにでもなれ』と投げやりな気持ちだった。
「うおぉ!さすが最新!飛び出すぜ!」
「檜山、協力プレイにするか?」
「そうだな…。そうしようか」
ちなみに集合場所は札幌テレビ塔前に午後3時。ゲームセンターに入ったのが2時10分。現在30分が過ぎて2時40分。どうも誠以外はゲームに夢中になっていて時間など気にも留めていないらしい。
「そろそろ、時間ヤバくね?」
「おっ、そうだな。そろそろ戻るか」
訂正する。時間の事は気には留めていたらしい。時間を合わせる為にゲームセンターで時間潰しをしていた様だ。
「行こうか、久瀬君」
「おぅ…。ちょっと急ぐぞ」
と、右手首に巻きつけている腕時計の針を見ながら4人はゲームセンターを脱出した。
「皆さーん!札幌見学どうでした?」
「短ーい!2時間じゃあ回れるもの回れないよー」
「北海道の女の子はレベル高かったぞぉ!美雪も!」
「あはは、ありがとねぇ」
こんな会話がバスの中で展開されている。年上の人をしかもさっき会ったばかりの人のファーストネームを呼び捨てにしてかなり失礼にも思えるが、実際の所こう言う会話が現役高校生と若い添乗員との間に交わせる会話と言うやつだ。添乗員の美雪さんの方ももう扱い慣れているのか淡々と答えたりたまに出る「美雪は俺の嫁!」と言う言葉には「いままで私は何人の嫁になったんだろ?」と冗談を冗談で返すなどかなりベテランの様だ。
「ではですね。これから約3時間かけて皆さんが止まるホテルに行きたいと思います。私はですね…。これから前を向かなければならないので皆さんとはこれから一切話せませーん」
「えっーー冷たいよ」
「そうだぜ!美雪ちゃん」
「ごめんねー♪」
語尾に音符を出して美雪さんは可愛がって断ってみるが益々男子達の“美雪コール”は暫く止む事は無かった…。
「うるせー…」
それから1時間後にトイレ休憩。その1時間後にトイレ休憩があるなど実に親切な休憩の取り方だった。誠は2回目のトイレ休憩でトイレを済ませると自分の席に座って結露が凍ったバスの窓から望まれる白銀の世界をボーっと見ていた。
「ねぇねぇ」
前の座席からひょっこと顔を出している女子が誠に話しかけてきた。聞き覚えのある声だし…コイツは…。
「ん?百合奈??」
「ほほぅ。遂に私のファーストネームを抵抗無く呼べるようになったかね。偉い偉い」
「何の様だよ?」
「んにゃ。明日のスキー。確か基本的には個人行動だったよね?」
「まぁコースさえ外れなけばな」
「そいじゃあ、里佳子や詩や須藤君と一緒に滑ろーよ!楽しいよ?きっと」
「お前は滑れるのか?」
「まぁ一応は…。言ってももう3年も滑ってないしなぁ」
「ほう。そいつは楽しみにしているよ」
「ソイツは…、失敗を?」
「それ以外の何がある?」
「やっぱりぃぃ!!」
「皆さん。もうすぐホテルに到着しますよ。着いたら先生の後に着いて行って下さい。私とはここでお別れになります。短い間でしたがありがとー」
「愛してるぜ!美雪!!」
「ありがとねー」
バスがスピードを落としホテルの前の駐車場に到着すると担任・藤枝が立ち上がってこれからの行動と諸注意を皆に聞こえる様に少し大きめの声で話す。
「これからホテルに入るんだが先に送っておいた大きい荷物がホテルの体育館で入館式をやるからクラス別に並ぶこと。あとそこに先に送っておいた荷物の受け渡しとスキー用ブーツのサイズ合わせがあるから荷物取ったらブーツのサイズ合わせをするように。ウェア類は部屋にオレンジ色の布袋があるからそこからセットを取り出してサイズが合っているか確かめろ。もし合っていなかったら晩飯の後にウェアを持って体育館に集合。一般の人も泊まっているからうるさくするなよ。以上」
「はーい」
「よしっ、行こうか里佳子」
「うん」
「須藤。早く出ろよ。俺が出られない」
「まぁ待ってくれよ。こっちだって人の流れ見ているんだから」
午後6時30分。
修学旅行1日目終了。