初詣
正月一日。
昨日(正確には今日)の夜に妹の遊里とお参りに行ったことが災いしたのか。今朝は酷く寝不足だ。
朝日が窓のカーテンの間をすり抜けて誠の顔に直接刺さる。眩しくまぶたを強く閉じても明るい。
試しに目をこすって見る。目やにが取れる感触はあったもののそれで眩しさがどうなった訳ではない。
仕方無しに起き上がってカーテンを勢いよく開放しきる。窓には結露で出来た水玉が出来ており一部は
凍っていた。正月早々この寒さは厳しい。室内の結露が凍るほどの寒さは想像したくもないし出来ない。こういう日には一日中家にこもるのが一番だが遊里にどやされる可能性が高いのでこもるのは止めよう。なら、どうしようか?ここはベターに初詣でもしゃれ込むべきだろうか?
しかし、1人で初詣は寂しい気もする。誰かを誘うか?それとも、やはりここは以前みたいに1人で行くか実に悩み所だ。1年生の時だったら構わず1人で行くことを選択しただろうが今では1人で行く事に疑問を持つと言う変わり様に彼自身は気付いていない。
「里佳子…、ちょっと気まずいか…」
色々と試行錯誤をしていると誠のケータイのバイブが細かく振動する。メールではなく電話の様だ。
相手は一体誰だろうか?着信相手の表示を確認する。
“福井百合奈”
「あいつかよ…」
仕方ないここは一つ電話に出てやろう。出ないとまたカラオケの二の舞になることは見え見えだ。
決定キーを押して応対する。
「もしもし?」
………。
………。
「でっ!?」
「なにかな?」
「誰が悲しゅうてお前なんかと初詣をしなきゃならんのだ?」
「いいじゃん。誠君と最近話してなかったし」
「カラオケ以来か?」
「うん。私の自慢の声、聞いてもらえたかね?」
「あぁ、あの低周波騒音」
「せめて、高周波といって欲しかった…」
「悪い…、半分冗談だ」
「半分本気!??」
現在の状況、鬱陶しい同級生且つ騒音メーカの福井百合奈と初詣に赴いている。それ以外の友人はいない。彼女の話によると里佳子は親子水入らず(帰国したらしい)、須藤は補習の宿題、前沢は正月旅行で不幸にも誠だけがフリーだったと言うわけだ。
そして、現在百合奈と屋台が並ぶ道を通り抜けて人が群れている神社の境内にいると言うことだ。
遊里とお参りに行ったことを思い出す。
「デジャヴ」
「何か言った?」
「別に?さぁ、賽銭箱だ。願い事願い事」
鈴をからから鳴らす音が耳に入り昨日と同じ容量で合掌する。隣で合掌している百合奈の顔は…真剣だ。
賽銭箱を横から抜けるとおみくじを売っている巫女さんを百合奈がロックオンする。間違いなく…。
「200円になります」
「はーい」
誠は基本占いなどは信じない人間だったので買いはしなかったが百合奈は予想通り購入した。
購入するなりその中身を間髪いれず確認する。
「どうだ?」
「す…、末吉…」
「おお、それはまた微妙なやつを取ったもんだ」
「あぅぅぅ~」
萎えている。百合奈の顔が物凄く萎えている。目が細目になり今にも泣き出しそうな顔付きをしている。黙読を終えると彼女の顔は余計に萎える。
「リアル萎えてる顔は初めて見た」
「それ…、褒め言葉でいいの?」
「自由だろ?安心しろ。何か奢ってやるから」
「…、本当?」
「今日は気分がいい」
「じゃあ…」
そう言うとさっきの巫女さんの方向に目を向ける。
「もう一回…」
「それ以外だ。おみくじは一回だろうが…」