ブラコン?
現在の久瀬家のリビングは以下の説明の様な状況になっている。
リビングに設置されているソファに誠と里佳子が隣同士で座りその向かい合わせに私服姿(着替えた)の遊里が座っている。遊里は腕と足を組んでなにやらイラついた様な表情を浮かべている。
そんな彼女に、この状況の発端となった誠も里佳子も話しかけることなど出来ない。
「で、どうして誠は女の子家に連れ込んでいるのかな?誠から」
「イヤッ…、こいつ(里佳子)が家に上がらせてくれって言うから」
「本当?」
嘘はついていないぞ?むしろありのままを端的に分かり易く話したつもりだぞ?いやっ違う。
それ位しか伝えられることなんかあるはずが無い。家に上がらせてくれとしか言われてないのだから。
誠がそう所々どうでもいい事を織り交ぜながら思考していると、遊里の次の質問に答えるのは里佳子の番になっていた。相変わらず遊里の目は笑っていない。里佳子も何処かオドオドしている。
もし、この場にブラック里佳子が現れてくれるのなら何人でも来て欲しい。
「で、そのクラスメートの人。名前は?」
「沢 里佳子ですけど…」
「里佳子、落ち着け。相手はまず年下だ」
「誠は黙って。てか自分の部屋入ったら?私は里佳子さんと話しているんだから」
「おっ、おぅ」
負けた。実の妹に空気…、つまりは威圧感に負けた。いつもなら負けるはずのない遊里との口喧嘩に負けたのだ。里佳子の方に目をやると“行かないで”と言わんばかりの上目遣いをしている。止めてくれ。
上目遣いだけは反則技だから。あっー!上目遣い+涙目と来ている。これはもう…、耐えられない。
「んじゃー、言われた通り自室にこもる!」
「あぁ、誠ぉ…」
そう言ったのは里佳子。しかし誠の耳に彼女の声など全然聞こえていない。里佳子としては助け舟を出して近くにいて欲しかったのだろうが誠にとってはそれはこの状況から逃げ出す為に起爆剤になったのだ。
なってしまったのだ。
階段を一気に駆け上がる音を里佳子と遊里はリビングで聞いていた。次第に里佳子の頬が膨れる。
「誠のバカ…」
「プッ…。やっぱり里佳子さんもそう思う?」
遊里が突然笑い出す。さっきの威圧的な態度から一変して彼女は満面の笑みで笑っている。
「えっ?えっ??」
その変化しすぎた状況に里佳子もついて来ていない。ついて来れていない。
「えっと?あれ?」
「誠がいるとさ、話せないでしょ?色んな事さ」
「えっと…、えっ~????」
「まずは…、最近誠ね、よく笑う様になったんですよ。そしてよく話すわけですよ。良いダチが出来たって…。しかも凄い自慢げに言うから」
「へっー、でもそれって私以外にもいるんじゃ…?」
「それがそれが…、どうもその背後には女の香りがする訳ですよ?」
「はい???」
里佳子はこの時自分が目にしている友達の妹の驚異的な嗅覚(?)に驚いている。
いやっ、嗅覚は間違いでもその考察力は目を見張るものがある。
「誠の話を聞いている限りどうも男友達とは考えにくい…、だって友達の家に上がって『ドキドキした』何て言っていたから」
「はっ、はぁぁ…」
「そして、今のこの状況から察するにあなたがその“友達”ではないのかな?と踏んだわけです」
「えっと??」
「ぶっちゃけた話、里佳子さんって誠の…、その…」
遊里の顔が次第に赤くなり次第に声も小さくなっていく。
‐彼女さん…、なの?
「えっ!????」
遊里の恥ずかしくなるような質問に里佳子も便乗するかのように顔を真っ赤かにする。青森りんご並に。
そして里佳子は平静を取り戻して冷静に考え始める。
『誠が…、私の彼氏って…、全然考えたこと無かったけど今改めて考えてみると私は誠の事をどう考えているのかな?あっ!今考えると私結構色々と告白的なこと誠の前で言ったりやったりしているじゃん!』
再び、里佳子の顔が赤くなるとそれを見計らってか遊里が里佳子に優しげに話し始める。
「まぁ、兄である久瀬 誠は結構純情でその…、なんつーか子どもっぽい訳よ。だからさそんな子どもの“保護者”が妹である私の役目だったんだけど…」
するとポンッと里佳子の肩に手を乗せる。その姿を見て里佳子はちょっとだけ身構える。
「譲ります。譲ってみますね。里佳子さん」
「えっ??」
「誠の保護者になって下さい。里佳子さん」
「エッ…、うん…」
里佳子の肩から遊里が手を離すとソファから立ち上がって大きく背伸びをして欠伸もする。
「はぁ、スッキリしたッと」
「エッと…」
「遊里ですよ?私の名前」
「うん…、遊里ちゃん。妹の君から聞きたいことがあるんだけど」
「うん??」
「もしかして…、ブラコン??」
「なっ!???」
階段の陰に隠れて2人の会話を盗み聞いていた誠は軽く一安心する。
『仲良くなって良かったなぁ…それで…』
ブラコンだったのか?遊里のやつ。