女の泣いた顔なんて見たか無いから…
近頃、更新が遅れてすみません。何せ学校が忙しいもので・・・。
「へぇー…、結構大きい家なんだね」
「なあに、親が無理して建てた家だよ。理想が高いんだから。俺の親」
「親…、親ねぇ…」
里佳子がそう小さく呟くとちょっと寂しげに俯く。その様子を見て何か話しかけなければいけないのか?と色々と試行錯誤する。
「なぁ…」
「ん?何??」
必死に考え抜いた言葉の先頭の“なぁ”を彼女に話し掛けた時ふっと顔を上げて明るそうに里佳子は振舞う。その顔を見た途端に話し辛くなった。そんなに明るい顔を見せられたら話し辛いじゃないか。
「な…、なんでもねぇ」
「そう??話した気だけど?」
「もういいだろ」
それだけを言うと自分の住み慣れた家の玄関に近付いてポケットに仕舞っていた鍵を取り出して次々鍵を開ける。
『そういえば今日は遊里も終業式だったよな…』
鍵を開けると玄関扉を開けて里佳子を招き入れる。ほらっとばかりに手で招く。
「私は、犬じゃないよっだ」
歩きながらぼやいた声は聞かなかった事にしよう。学校であれほど追いかけて置いてなにが“犬じゃないよ”だ。犬は凄くマシだ。犬なんぞチーター(学校での里佳子)にすぐ食い殺されるぞ。
「ただいま」
そう言ったはいい物のそれを返してくれる家族は誰もいない。両親はいつもの様に仕事。遊里は多分…、部活(ソフトテニス部)か友だちと何処かで油でも売っているのだろう。まぁ都合がいい。あいつに見つかったらどう責められるか溜まったもんじゃない。絶対こう言うと思う。
“誠が彼女を連れ込んだ!”。100%そう言われる。そういう性格だから。
「お邪魔しまーす」
遠慮がちに玄関からひょっことウサギみたいに顔を出す里佳子。どうも家に入る勇気が無いみたいだ。
「入れよ、厄介な家族はいないから」
「あっ、は~い」
いつもならタメ口な彼女も今回ばかりは他人の家の敷居を跨ぐ事あって丁寧語になっている。
実に礼儀が良い。百合奈や前沢だったら多分ズカズカ入ってくる……。
いやっ前沢はまだ礼儀があるから省こうとしよう。彼女の牛乳飲み仲間の須藤の方がズカズカ入ってくるだろう。実質人の領域に勝手に入ってくる奴だし。
「へっくしょん!」
「ありゃ、康博ちゃん。鼻風邪?」
「誰か、俺の噂でもしてんじゃねぇの?」
「うわぁ、リビング結構キレイ。インテリアも好みだなぁ」
見慣れない光景だ。絶対見慣れない光景だ。同級生の女子が見慣れたはずのリビングでインテリアを褒めているのだ。実にミスマッチ。誠はいままで学校の同級生を家に誘ったことなんか一度も無い。
ましてや相手は女子だ。しかも、高校入学当時からちょっと気になっていたから余計にだ。
「このインテリアって、誰がやっているの?お父さんとか?」
「いやっ、俺の妹の遊里だよ。遊里の奴やけにセンスあるから両親が公認しているんだ」
「へぇ兄妹いるんだ、羨ましいな。私一人っ子だから」
「兄貴ってのも中々の苦労人だぞ?いろんな期待背負い込まなきゃいけないからな」
「フーン…、そういうもの?」
「そういうもんだよ。世界中の長男、長女の苦労は凄まじいのさ」
「私も一応長女なんだけど…ね?」
そう言うと里佳子がちょっぴり笑う。それにつられて誠もホンのちょっとではあるが口元が緩む。
すると、また里佳子が笑う。大声を張り上げて。
「ど、どうしたんだ?」
「らっ、らっれ~、誠の笑う顔初めて見て…可笑しくてェ…、あ~…息できにゃーいッ」
「お前…、なぁ?」
「えっ?なにかな?」
ポケットからそっとハンカチを取り出して里佳子にそっと手渡してそれをぎゅっと握らせる。
「涙拭け。そのっ…、女の泣いた顔なんか見たか無いから…」
「ブッ!!!!」
さっき、涙目になりながら笑っていた里佳子が今度は大きく噴き出した。そして更に泣き笑い。
「な…、なんだ?」
「台詞…、小恥ずかしいすぎ!」
チキショー。揚げ足を取られてしまった。チキショー。
「……、あの~……」
そう声を掛けたのは誠でも里佳子でもない。そのどちらでもない人物は実に気まずそうな表情を浮かべながら頬をポリポリ指でかいている。肩からテニスラケットの入ったバッグを提げて…。
「あっ」
‐おかえり、遊里…。
‐ただいま…。