今年のサンタは…。
「………」
誠は黙り込んでいた。彼は基本的に沈黙とかは苦手な人間なのだが、この場合黙り込む以外することが彼には出来ない。しかも電車の中と言う状況も相まってその光景を誰も不思議には思っていなかった。
ここまで学校が遠くなると同じ学校の連中は誰もいない。自分と…、もう1人を除いては…。
「………」
実に不思議な光景が展開されている。いつもならいつもなら1人で座っている筈の各駅停車の電車のロングシートの隣に自分の女友達の沢里佳子がぎゅうぎゅうに詰めて座っているのだ。別に満員ではない。
むしろ、スペースは空かすかで言い過ぎるとロングシートでゴロンと寝る事だって出来る位空いていたのだ。人が言う程いないのは平日の午後しかも真昼だからだろう。
大人たちはそれぞれの職場に働きに出るか家でゴロゴロ寝転がっていたりしているのだろう。
「ねぇ…、何か喋ろうよ?ね?」
「おぅ…」
ここの所、誠の顔が赤くなるのが日常茶飯事になっている。今までそんなことはこれっぽちも無かった。
これは里佳子とよく会話をする様になったのが一番の原因だ。
彼女と関わるようになってから彼には自然とクラスメートと溶け込める能力が身についた。
もちろん、まだ一度も話したことの無いクラスメートだって何人もいるが少なからず須藤や前沢。果ては百合奈とまでもいつの間にか仲良くなっていた。それまでは鬱陶しいと思っていた百合奈が今では結構良い仲になって来ているのだ。
「ヘックションっ」
「アレ?風邪ですか?福井先輩」
「誰か、私の噂でもしてるのかねぇ?」
「何か、誠の家に行くんだって思うと私ドキドキしちゃうなぁ」
「そっ、そうか?」
「うん。ねぇ誠も同じ感じだった?」
「えっ?」
突然質問を振られて一瞬だけ戸惑う。同じ感じだった?瞬間的にはその意味は分からなかったがすぐに質問の意味を理解する。ドキドキしたか、だ。里佳子の家に行った時に…。
「そりゃあ…まぁするだろ」
「やっぱり?」
「当たり前だろッ。女子の家に行く事すら初めてだったって言うのに…」
「“って言うのに”?どういう意味かな?それは?」
「えっ?」
「私に何か特別な意味でも持っているの?」
「アッ…、カァァ…」
誠1人でその場で悶える。意識せずに言ったつもりが食い付けられて質問されている。困っている。
どう答えればいいのか困っている。どれが正しい答えなのか困っている。兎に角困っているのだ。
「ホラッ…、もうすぐ着くぞ…駅に」
そう言うとすぐに立ち上がって扉の前でピタッと止まって扉が両方に開くとそそくさと出て行く。
その後を里佳子が「ちょっと待ってよ~」と言いながら必死に追いかける。誠はそれを無視。
改札口を出ると里佳子も買っておいた切符を通し誠を捕まえる。
「ハァ…、息切れたァ…」
「お前のせいだろ?自業自得」
「何を言うのかね!?気になることを聞いて何が」
「行くぞ。昼飯が食えなくなる。食う気力が無くなる」
「だから、待っててばぁ~」
そんなことがあって里佳子はその質問をせずに別の話で1人だけで盛り上がっていた。
自分達の陸上部の顧問の愚痴、大会の苦労、友達、家族…その他色々と話をしては盛り上がっていた。
彼女の笑顔は非常に輝いていた。彼女と関わり合うまで見たことのなかった眩しい笑顔。
ちょっとした役得だ。
里佳子から周りの景色に目を移すともう家の近くまで近付いていた。所々生えている木はすっかり枯れて
冬支度を済ませている気がほとんどだ。中には枯れ葉が残っている木もあったが長くは持たない。
住宅街に入りたまにサンタクロースの電飾を飾っている家もあった。
考えてみればもうすぐクリスマスだ。クリスマスのサンタクロースの存在をいつまで信じていたっけ?
今年は、どんなプレゼントだろって期待したっけ?来年も来るかなっていつまで信じていただろう?
「ねぇ、後どれくらいで誠の家につくの?」
「………」
今年のサンタは…。
もうすぐだよ。
投稿が遅くなってすみません…。