終業式
自分のベッドの上で誠は物思いにふけ百合奈に言われた言葉が心に引っ掛かり里佳子の事を考えていた。
時間は既に12時45分。
里佳子を取られる…、か。そんなこと今まで一度も考えたことなんて無かった。
考えてみればあいつと出会ってまだ1ヶ月くらいしか経ってなかったんだよな…。でも一度だって忘れた事なんてない。それ位、俺の中であいつの存在感は強いのだろうか?
“私の名前は里佳子だよ?誠”
勝手に下の名前で呼ばれ(しかも呼び捨て)俺もその空気に圧倒され一度は破断になり掛けたもののちゃんと修復した。それは何故だろうか?俺の元から彼女が離れるのが嫌だったから?
「む?メールか?」
真っ暗な彼の部屋で1つ、発光しながら音を鳴らすケータイ。手に取って差出人を確認する。
そこに表示されていた名前は“沢 里佳子”。里佳子からのメールだった。
― 夜分遅くにごめんなさい。起こしたらゴメンなさい。
「ご丁寧に…」
ご丁寧なことにその一文からメールは始まっていた。そして寝ていたらと言う想定の文章まで。
これぞ、里佳子クオリティ。前沢や百合奈や須藤なんかでは出来ないことだ。さて下を読んでみるか。
― 明日から冬休みだね。クリスマスだって近いしどこか一緒にデートとかしませんか?
「デート…」
それが夜遅くにメールを送る内容にそぐう内容なのだろうか?疑問を浮かべつつ更に下にスクロールを続ける。前の文章に呆れても尚、スクロールを続けるのは彼女の事が気になるからなのか?
― もしよかったら終業式に日にでも誠のお家に遊びに行ってもいいですか?
「ナッ…」
―勝手かも知れませんが何卒ご協力の程を…。 沢 里佳子
「あの野郎…、しかも明日の話…いやっ、今日の話か」
デジタル時計が示す時間は1時17分。今日行われる終業式の開始時刻は確か午前9時。今から約8時間後。
その後はお約束の通知簿の返却と宿題の説明。後は冬休みの過ごし方。小学生じゃあるまいに。
それらを終えた後に里佳子は俺の家を訪問していいかと尋ねている…、喜ぶべきことなのか?
多分喜ぶべき事なのだろうと思う。取られるなら先に取ってやろうじゃないか。
何でこんなにむきになる?何で里佳子に対して俺はこんなに躍起になるんだ?
―別に構わないけど…、男の家だって言うこと忘れるなよな。 久瀬 誠
―うん。 沢 里佳子
「それじゃ、通知簿の返却をする。出席番号順に取りに来い」
そう言われるとクラスメート達が次々と教卓の前で担任の藤枝から通知簿を貰っては唸ったりしている。
誠も通知簿を受け取るとすぐに席に戻って成績を確認する。クラス順位2位。案の定1位はアイツだろう。
「やっぱ、里佳子が1位か。敵わないな。だって2年順位だって1位だもん」
前に里佳子にキレられた陽菜と唯が里佳子の通知簿の成績を見て彼女の事を褒めちぎっている。
「そんなァ。褒めすぎだよ」
「逆に褒めるしかできないよ。あっそういえば里佳子って大学?就職?」
「!!…、うん決めかねている所…」
里佳子?どうしたんだ?そんなに悲しそうな顔を浮かべて…。大学か就職か悩んでいるのか?
「うひゃあぁぁぁ!お袋に叱られるぜ!!!!」
「うわぁぁ…、康博ちゃん赤点3つもあるよ?どーすんの?」
須藤、お前は徹底的に数学を叩きなおす必要があるな。よし今度しっかり教えてやる。足し算から。
百合奈の方は…。心配無さそうだな。
「それじゃ、冬休み。風邪やインフルエンザなんかにならない様に。号令!」
「起立、気をつけ、礼。ありがとうございました」
「やっほう、やっと解放される!」
「なぁ、帰りにカラオケ行かね?」
「バァカ。まずゲーセンだよ。新台投入されたらしいしな」
「マジか。ならそっちが最優先だな」
あちこちでこれからの行動を立てて帰っていくクラスメート達。誠の予定は当然…。
「行こか?誠」
「おぅ…」