いつか、里佳子取られるかもだよ??
「いやぁ!生き返るゥ!」
「暖房ガンガン効いてりゃソリャ誰だって生き返るだろうが」
「まぁ、久瀬君。そこは突っ込んだらアウトだぜ?」
ホットコーヒーを勢いよく飲み干した百合奈とその横でゆっくりとコーヒーをすする須藤と誠。
暖房の効いた温かいコーヒーショップの脚はまばら。閉店時間が近いからだと思う。
誠の隣で座っている百合奈は「暑い」と言うと着ていた上着を脱いで後ろの背もたれに引っ掛ける。
つられる様に須藤も着ていたコートを脱ぎ被っていたニット帽を外して机の上に置く。
「冬休み…、2人は予定なんかあるの?」
「俺は昼寝」
「俺は、色々と…」
「帰宅部は羨ましいねェ…。のんびり出来て。私ゃあハンド部忙しいちゅうのにィ」
暇人で帰宅部の2人の言動を見て呆れながら皮肉を込めて自分の部活の状況を言い背伸びをする。
欠伸をすると須藤が首を突っ込む。
「それは違うぞ…、福井。帰宅部こそ最高に忙しい部活だ」
「ほぅ…?」
「帰宅部は、家に帰るための部活だ。帰宅の途につく為歩き帰ったらPCやゲームをやる。一つの部活で二つの部活動内容を楽しめるのだよ」
須藤の自信満々の帰宅部理論。百合奈の目がどこか死んでいる。呆れにさらに呆れが上乗せされたのだ。
背伸びを止めると自分の持っていたコーヒーのカップをゴミ箱に捨てて須藤のとの会話を止めにして誠と話を切り替えた。須藤は無視されたことにショックを覚えたらしくそのまま黙り込んだ。
「誠君は、冬休み。具体的な御用は?」
「特になし。その日次第」
「つまらんのぅ。今日みたくカラオケに…」
「それは勘弁」
そう言い放つと百合奈が笑い始めて「コーヒー無くて正解!」と時々言葉を織り交ぜて笑いを止めない。
須藤と誠には混ぜ彼女が笑っているかは分からないらしい。それらしい表情を浮かべている。
やっと笑いを止めた百合奈の目にはうっすら涙が見える。
「あぁ…、めっちゃおかしいィ」
「そ…、そうかよ。悪かったな…」
百合奈と誠の間に妙な緊張感(みたいな物)が漂い始める。一緒に座っている須藤にもそれが飛び火し、
皆が皆黙り込んで余計に緊張感(みたいな物)に拍車が掛かる。
「俺…、トイレ行くッ!」
ついに須藤が緊張感に耐えられなくなってトイレへ急ぎ足で逃げようとした。
「おいっ、須藤ッ!」
誠が止めようと入るも彼の言葉が須藤の耳に届くことは無く彼はトイレに消えていった。
残された百合奈と誠の間に会話は全く無い。
「あの野郎…」
「ねぇ誠君。ちょっと聞きたいんだけど?」
不意に話しかけてきた百合奈に視線を移すと彼女の顔はどこかブルーに見えた。
「何だよ」
「君は、里佳子の事どう思っているの?」
「えっ?」
前沢と全く同じ質問だ。アイツも俺に全く同じ質問をしてきたじゃないか。
そして、曖昧な答えを前沢に答えた。だが、目の前にいるのは里佳子の親友。
俺は、本当は里佳子のことをどう思っているんだ?この気持ちは一体何なんだ?
アイツの事を考えると何でここまでアイツの事が気になるんだ?どうしてなんだ?
もしかして…俺はアイツの事が?いやっ、分からない。俺には全然分からない。
「ただいまぁ…」
気まずそうに須藤が百合奈と誠の元に戻ってくる。そると百合奈はさっきの見る影を落とし明るく振舞う。頬を膨らませて「プー」と言う可愛らしいが意味の分からない声を出す。
「もう、須藤君は臆病なんだから!そんなんじゃ詩に嫌われるぞ!」
「なっ!?何を言うんだ!福井!俺と前沢は別にそんなんじゃ!」
「ホントー???詩可愛いしスタイルいいしもっといいイケメン君に持って行かれるかもねぇ」
「ヌワッ!??」
「おいっ、2人とも大概に…」
「誠君も――」
誠は自分の家に向かって歩いていた。コーヒーショップから飛び出して早30分ほど。
百合奈に言われた言葉が彼の胸に突き刺さる。
“いつか、里佳子取られるかもだよ??”
…………。
「ただいま」
ここだけの裏話。
①当初、里佳子がコインロッカーに預けていたのは赤ん坊の予定でした。
しかし、赤ん坊より今の方が面白いかな?と思って万引きの商品と言う設定にし直しました。
②須藤と前沢は元々別の話で主人公にする予定でした。
しかし、その別の話と「ロッカールーム」の内容が被るのでその話は没にしました。それで、こちらを書いていく際作ったキャラクター使いたいなぁと思って
登場させました。
前沢「で、私がヒロインになる可能性はあるの?作者さん」
ワタナベ「ウッ、そりゃぁですね…」
前沢「詩ちゃん、こんなに可愛いんだし存在感だってあるし」
ワタナベ「…、次回お楽しみに!サラバ!」
前沢「あっ、こら待て!」