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テスト事件と学食事件

2学期の期末テストは、11月の30日から12月6日からの予定だったのが、

1日ずつずれて12月1日から12月7日に変更になった。

理由は、3年生の1日目のテスト(化学)の担当教師が盲腸になり入院したからだそうだ。

つまり、それまで作っていた段階にあった問題用紙がお流れになって、

他の教師が急遽作ることになり、それに合わせてテスト自体が1日ずれることになったのだ。

赤点マスターや公式の暗記が苦手等の生徒からしてみればこれほどラッキーな事はない。

現に、誠のクラスメートの須藤や前沢。その他の“おバカ連合会”の方々。

誰もが、この“緊急事態”を喜んで飛び上がる生徒さえ垣間見えた。

誠や、優等生組として名高い里佳子にとってみればあまり心揺さぶられる話ではなかったが。

藤枝が、生徒たちにとって幸福の知らせを言い放った後、

「そんじゃ、その間テス勉ッ」

と、クラスメート全員に聞こえる様に大声で言った。

「よっしゃー!」「なんかやる気が出てきたぜ!!」

「静かにしろっ!」


わいわい騒ぐクラスメートの女子生徒やら男子生徒たち。当然のごとく誠はその輪には入らなかった。

そして、机をガタガタ音を立ててみんな班を作ってそれぞれ勉強と意見交換会を開始し始めた。

誠も、1人で机の脇にかけてあるカバンから苦手な方に当たる世界史を取り出してノートも広げた。

真っ白なノートは授業ノートではなくあらかじめ用意していた“自主勉強ノート”だ。

誠の世界史の教科書は太文字とその他の重要語句等に蛍光ペンでアンダーラインを引いていた。

彼はそのアンダーラインの文字をノートに写してその意味を書き出す作業を始めた。

すると、1人の男子生徒が誠に近づいてきた。

「えっとぉ、久瀬君??」

誠は黙って声の主の顔を確認する。

「よぉッ・・・」

その顔の主は、先ほど再提出のノートで悶え苦しんでいた須藤であった。

須藤は苦しそうな笑顔を顔に浮かばせていた。蛇ににらまれた蛙である。

もちろん、蛇は誠で、蛙は須藤の事である。

「なに?」

須藤と初めて交わした誠の言葉は“なに?”の記号含めての3文字だけであった。

誠のちょっと低い目の声に少し須藤はおののいている。

須藤は、おののいたまま黙り込み、誠は須藤の目をじっとにらみつけている。

「何もないなら帰ってよ」

「あっ、そそ。そうじゃないんだよッ。久瀬君っ!」

「だったらさぁ、用件まとめてからまた来てよ。須藤 康博君よ?」

「あっ、うん・・・。分かりました・・・。また出直します・・・」

須藤の言葉の最後の方はいつの間にやら敬語に成り果てていた。

とぼとぼ、背中を向けて自分の“グループ”に戻る須藤。それを目で送る誠。

可哀相なくらい須藤は完敗し、誠の圧勝であった。

そして、須藤のグループで誠についてのグループ会談が開催された。

テスト勉強は一体どうしたのだろうか??


『どうだったよ?須藤』

『もうマジ怖かったぜぇ、背筋が凍ったつうかなんつうか』

『やっぱ、目が怖いよなァ、誰いるか?久瀬君に対抗できるギラギラは』

『いる訳ねぇだろ。分かんだろ??だから赤点マスターから脱出出来ねぇんだよ?』

『関係ないだろ!??』

『あっ、休み時間だ』


ちょうど、1時間目のチャイムが鳴り終わった瞬間だった。



午前中の授業があっという間に過ぎ去り昼休みになった。

「一緒に弁当食べよー」「うん、いいよ」

「あっ、終わったら大富豪しようぜ??」「ドベは、チョコバーだぜ??」

「バーカ、次の授業トランプハンターの池永だぜ??」「そんじゃ、2本が限界かな?」

それぞれが、自分の領域に入っていたが、その領域を開放するのがこの昼休みだ。

弁当を向かい合わせで食べたり、友人同士でトランプしたり開放の仕方は人それぞれだった。

「百合奈、一緒に食べよ」「おぅ、里佳子。いいねぇ、食べよう食べようッ!」

隣の席の騒音メーカーの百合奈は里佳子と「いただきます」と一言言って弁当を食べ始めた。

そのタイミングを狙って誠は自分の席から立ち上がって教室からそっと姿を消した。

「うまいのー、ほら里佳子。肉巻やぞ~??」「貰っちゃおうか??」

「何を言うのさね!?私の好物だぜ!??」「だからだよぉ~???」


「・・・」


誠が向かった先は学生食堂だ。


誠の教室から学食まで距離はそう遠くない。歩いて3分もあれば十分な距離だ。

遠くないのに、歩いて3分ほどなのに学食に着いた頃にはほとんど満員状態。

だから、関取に苦労する場面も少なくない。集団行動している連中ならなおさらの事だ。

いや、1人でも十分難しいのだが不良がそこにいると言う理由だけでみんな席を譲ってくれる。

誠がまさにその良い例だ。不良と勘違いされてはいるもののみんなの目から見れば不良だ。

不良の誠が学食にいる時点でみんなこぞって一瞬だけ立ち上がって席を譲ろうとする。

毎度毎度の学食の光景だ。

恐らく今回も同じような光景がこの学食で発生すると思う。


あらかじめ、券売機で買っておいた安いカレーライスの券を調理台で調理をしている

調理師に券を渡して出来上がりを待つ。その間にコップに水を入れて箸を取って―。

「カレー」と言う呼び声が聞こえて器を手に取りお盆に載せていつもの特等席に向かう。

そして、今回もやっぱり行く過程で全員が一瞬だけ席を譲ろうと立ち上がって誠が通り過ぎると

また席に座りなおして自分の話の領域に戻る。

立って座るみんなの行為は、まるで体育大会でよく見かけるウェーブの様だった。

通称“学食大会ウェーブ”。


誠の学食の特等席は窓際のやっぱり端っこ。人間誰しも端っこがなぜか落ち着く。

誠もその人間のうちの1人である。

みんなもその窓際の端っこが彼の特等席だと言うことを知っているので、

あえて学食常連者たちはその席を空けて座る。

今日もいつもどおり・・・。

「やっほー!」

「・・・」

もう分かると思う。例のごとく例の女である。

自分を下の名前で呼ぶ様に強要し、苗字に都道府県の名前が入っている―、

「おやおや?お忘れかな??この私を??」

「福井百合奈・・・」

「大正解ッ!」

なぜか、先ほど里佳子と教室で弁当を食べていた百合奈が

自分の目の前に自分の特等席を占領している。

どういう事だよ?百合奈より遥か前に自分は教室を出て行ったはずなのに・・・。

「そこ・・・、退いてくれないか?」

「どうしてだい?席なら余るほどあるでしょ?」

「・・・」

誠を黙り込ませる程に説得力のある反論。百合奈は徹底的にその席を退こうとしない。

特等席の隣は空いている。自分の特等席を退こうとしない彼女。

仕方あるまい。誠は隣の席に座ることにした。

そうすると―、

百合奈はさっと左足を伸ばしてその左足をイスの上に乗せた。

「おいっ、人の食事を邪魔する気かよ?福―」

「はぁーん??」

“福井”と苗字で呼ぼうとしたら百合奈はもう片方の足を伸ばして両足でイスを占領した。

これは、嫉妬深い女子の犯行なのか?それともただの虐めか?

「これは、虐めか?俺のクラスメートの女子Y・F」

「いやぁ、ちょっとした弄りだよ。私のクラスメートの男子M・K君」

「人を空腹に陥れて楽しいのか?Y・F」

「うにゃー、“陥れる”は酷い言い様だなぁ。M・K」

イニシャルトークで会話する誠と百合奈。一向に話が進展しない。

せっかく、買っておいたカレーライスが冷める。冷めたカレーなんて美味しいはずがない。

しかし、その隣は自分のことを知らない1年生の女子集団。

さすがに、後輩に“不良”と言うみっともない脅しは掛けたくない。

別の席を探すか、例のごとく妥協案を行使するのか。誠は悩む。

昼休みは、もう10分近くしかない。カレーの白米は冷め始めている。

「ゆ・・・、百合奈・・・。退いてくれ・・・ませ・・・ん・・・か?」

プルプル震える声で“百合奈”と名前で呼び退いてくれないかと誠は頼んだ。

ぴょっこと犬の耳を頭から飛び出した百合奈は両足を退けて特等席からも立ち上がる。

「はいっ、どうぞ♪」

「カッーーーーーーー・・・!」

理性を失いそうになるもグッと抑えて先ほどまで百合奈の尻が占領していた生暖かいイスに座った。

立ち上がった百合奈はその隣の席に座ってジッと誠の方を見つめる。

「ジーーーーーーーー・・・」

ご丁寧なことに擬音を口に発して“貴方を見ています”サインを発していた。

カレーを急いで口に運ぶ誠は彼女の熱視線を無視し続ける。

「のゥー、誠君にょー?」

舌足らずな口調で百合奈は声を掛ける。誠は当然無視。

百合奈はそのまま話を続ける。

「なにゆえ、この私が“一匹狼”のキミにこうやって話をし続けるか分かるかいのぅ?」

「・・・」

口をモゴモゴ動かすも徹底的に無視を行使。更に彼女は続ける。

「私は“誘導”しておるのだよ??」

「ハァ???」

手元のカレーを全て食べ終えてスプーンを置いて彼女の発した二字熟語“誘導”が

気になり“ハァ???”と言う言葉で聞き返した。

「キミが“社交的人材”になる為にさ」

「ハァァ??」

「現にチミは、こうやって私と会話を交えているではないか。そうでしょ??」

「アッ・・・」

誠は百合奈の発言で気が付いた。知らず知らずの内に彼は彼女の策略にハマり

百合奈と会話を広げていたのだ。

「お前、その頭の良さをもっと学問に生かさん?」

「目標は、高くと言うだろぉ?私のハードルは60点が限界なのさね」

「・・・・・・・」

誠は席から立ち上がり皿を載せたお盆を手に取って片付け用の食器棚に足を運ぶ。

百合奈もその後をついて行く。

「付いて来んなよ」

「だって、キミとクラス一緒だもん。付いて行っているんじゃなくて、道が一緒だもん」

「・・・、勝手にしろ」

そう、彼女を冷たくあしらい、彼は食器を食器棚に置いて学食を離れて自分の教室に戻って行った。



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