盗品たち
「オォ…」
この声は誠の声だ。そしてその意味は感嘆の意味。どうして感嘆しているかと言えば今までちょっとだけ
気になっていた女の子の部屋に自分が堂々と上がり込んでいるから。
いやっ、ちょっと間違い。
そりゃ、凄い抵抗があった。凄い葛藤があった。里佳子に入ってと言われても激しく体が抵抗するのだ。
男としてと言うより女子そのものに免疫がなかった(遊里はもちろん除く)誠にとって、
女子の家に上がりこむだけ飽き足らず更に奥に入り込み個人の部屋に入るなど言語道断。
だから、手持ちのミネラルウォーターのペットボトルはスッカラカン。トイレだって何回も借りている。
ペットボトルとトイレは来た瞬間からの話だが。
結局、彼女の部屋に入るまで20分は要した究極の時間の浪費。里佳子もちょっと呆れている。
「純情君だったんだ。誠って」
「うっさい!!」
「可愛い」
「………」
里佳子にそう言われると誠の顔は一気に赤くなったものの満更でもないと思った瞬間でもあった。
しばらく、里佳子のからかいを受け流していたがその後。つまりからかいを終えた後の彼女の顔は
実に爽やかな笑顔を浮かべて黙り込んでいた。
「ホント…、誠といると退屈しないよ」
「????」
「さてと、問題のやつは…」
と、爽やかな笑顔を消すと立ち上がり彼女の部屋の隅にあるクローゼットに距離を縮める。
里佳子の歩いていった方向を目線で追いかける。
「よっと」
クローゼットを勢いよく開けると中から“なにか”が雪崩れた。
雪崩れた“それ”を誠は一つ手にとって言葉を失う。ビニールに包まれたままの漫画本。
そう、里佳子の万引きのキャリアの一つである大量の漫画本。ビニールは全て売られている当時のまま。
要するに全ての物に手は付けていないということだ。
「にしても凄い量だな。漫画だけでどれだけあるんだよ」
「ざっと…、60冊ほどは」
「まぁ、中には内容が被っているやつも多いみたいだけど」
と同じ漫画本の第1巻を見せ付けてその場に置く。
そう。誠がテスト休暇を利用して里佳子の家に来たのは里佳子がこれまで盗んできた品物をどうするかと言う相談だったのだ。これでは犯罪者そのものではないかと後悔の念はあるものの仕方がない。
里佳子との約束。そして教室で皆に盛大に宣言してしまった以上もはや後戻りは出来ない。
「あっ!」
「誠???」
『前沢の野郎ぅ。これが目的であんな挑発を。俺を試しやがったんだ』
俺が里佳子にとってふさわしい奴か…。
「どうかしたの?何か約束事とか?」
「いやっ、なんでもない。さっ。早く片付けようか」
「うんっ」
集計結果。
小説本、12冊
漫画本、64冊(そのうち被りは8冊)
お菓子類、14個。(そのうち賞味期限切れ3個)
鉛筆などの筆記用具、9つ。
合計、90
「いやっ、こりゃ尋常じゃないぞ?あっコイツにいたっては賞味期限7ヶ月前だ」
「うぇえええ!?マジ!??」
「ほれっ」
と里佳子にそれを投げて渡して里佳子もその日付を見て「うぉ!??」と声を上げて
それをゴミ箱へポイッ。よっぽどショックだったのだろう。自分の部屋に腐ったお菓子が…。
常人なら誰しも嫌うその状況。当然誠もその1人。
「さて。菓子は食って誤魔化せるとして問題はやっぱ本だよな」
「うん…」
「中古本として売ったとしても被りを売ったとしたら怪しまれるだろうし」
「うん…」
「しかも、こんなキレイなやつ。イヤッそれは扱い次第ってやつか。大手だと一回限りだろうし」
「……」
里佳子の表情が徐々に思わしくなってきた。とてつもなく落ち込んでいるのだ。
「なぁ、里佳子」
「?????」
「菓子。食おうぜ???」
と、誠が手にしたのは里佳子が盗んだお菓子であった。すると、彼女の表情は柔らかくなり
「うんっ」と大きく返事を返した。