前沢だって女の子
前沢 詩は自分の部屋で桜色のヘアゴムを口で咥えながら足の爪きりをしている。
ある程度爪を切り落とすとそれをゴミ箱にまとめて捨てて咥えていたヘアゴムを口から取り手首に通して
長い後ろ髪をまとめて桜色のヘアゴムを留める。
髪の毛をまとめると彼女は自分のベッドに寝転び、今日の同級生たちの行動とかを分析し始める。
今日の争点は同級生の女子、沢 里佳子とその彼氏みたいな男子、久瀬 誠。
考えに考えている途中で前沢のケータイがバイブとともに鳴り始める。
「おやっ?康博ちゃんから電話って珍しいな」
その相手は、前沢と常に行動をともにしている牛乳飲み仲間の須藤であった。電話の向こうの彼の声は
どこかいつも調子が違っていたがまえざわはその違った調子に合わせる。
『いやっ、ちょっと聞きたいことがあって・・・な?』
「ん~ん??別に聞かれるようなことはした覚え、ありませんが??」
『沢を挑発してたじゃんか。なんだよ、おかしかったぞ?久瀬君もお前の言動止めてたしよ
言い過ぎだったぞ』
「ふーん、康博ちゃんからそう見えた訳ねェ?」
ちょっとだけ前髪を弄り始める。当然のごとく電話越しの須藤は前沢が何しているかは分からない。
「ホント・・・、バカばかり・・・」
『バカっておいッ』
「おやおや~?聞こえちまったか」
『どういう意味だよ?おかしいぞ?マジで』
「ハァ・・・・・・・・・・・・・・・」
前沢は額に手のひらを当てて須藤の言動に呆れ長いため息をつく。
誠と言い、里佳子と言い、百合奈と言い、須藤と言い・・・・。
「鈍ッ・・・・」
『なっ、なんて言った?』
「別に??」
話を誤魔化す。これ以上話をしても無駄だと思ったからだろう。
「用ないなら、もう切っちゃうよ?」
『あっ、なぁ前沢・・・・』
電話の向こうの須藤の恥ずかしそうな声に前沢は彼のちょっとだけ期待する。
「何かな???」
しかし、ここは前沢の力量。何かに期待したとしても平然としていられる。
『明日だけど・・・、また久瀬君呼んで勉強会しようかと』
「ふーん・・・・・。別にいいけどさぁ」
『おう、もう久瀬君にはメールしてるから明日の午後1時から』
「えっ?もうメールするような仲な訳なんだ」
『まぁな・・・、切るぞ』
一方的にケータイを切られると前沢はケータイを軽く投げてベッドに完全に寝転んで部屋を照らす
青白い光りを発する蛍光灯を見つめる。すると、またケータイが鳴り始めバイブが大きく揺れる。
「・・・・・・」
前沢は後ろ髪を指で掻き、ベッドから立ち上がりケータイを手にとって電話に出る。
「もしもーし?私眠いんですけど~」と大きい欠伸をして相手の返答を待つ。
『あっ、詩?里佳子だけど』
前沢はにやりと口元が緩んだ。これはちょっとだけ面白い展開になったなと思ったからだ。
「何だ里佳子さんかぁ。どうしたのかな?」
『今日の詩、一体どうしちゃったの?なんか変だったよ?』
「・・・・・・・・・ニブチン」
『なっ!???ニ・・・・ニブ・・・!』
「“ニブチン”言ったの、分かる??ニ・ブ・チ・ン♪」
『今日の詩はなんか私に対して何か挑戦的で・・・ちょっといらっと来た』
「それさぁ・・・、私は里佳子の為にやったつもりですけど??」
ケータイを横顔と方の間に挟み込み自分で作ったネイルを見つめる。今日だけで何回も見ている。
そして、息をそっと吹きかける。
『意味が・・・・分からないんだけど』
「分からないならいいんだけど」
『どういう意味だよ~、詩のイジワル』
「自分で分かる様になるまで私は何も言わないけどさぁ、強いて言えばさ」
『うんうん』
「もっと客観的に、かな??」
『ハァァァァ』
「切るよ?」
『あっ、ちょっ―』
と、前沢は里佳子からの電話を一方的に切り、電源も切り電気も消さずに眠り込んだ。