半分こ
陸上部の練習を終えて里佳子は校門を出ようとしたら同級生の男子に捕まり今は2人並んで歩いている。
寒くて乾いた冬の空気の風が吹き、里佳子は白い息を吐き出し寒そうにする。
その姿を見た同級生の男子は自分の首に巻いているマフラーを外して手に取って里佳子に差し出す。
「いらない」と彼女は断った(百合奈とやったマフラー半分こ絞殺未遂事件がトラウマなので)
男子にとっては断られた理由が分からずにそれを再び自分の首に巻き始める。
何も言わない男子にイラつきを少しだけ覚えて里佳子は昼休みほどではないが大分刺々しい声で
同級生の男子の真意を問いただそうとする。
「何か用?用があるなら言いなよ、久瀬君」
そう、その同級生とはある意味で昼休みブチギレの乱の元凶である久瀬 誠であった。
「いやっ、その呼び方が気に入らないからよ」
「あーっ、気にしなくていいですよ?」と急に敬語になり左手は左右に振れる。
ところが、気にしなくていいと言われて気にしない人間はそうはいない。誠だってその1人だ。
「気にするよ」
「えぇ?それはドウシテカナ?」
里佳子の顔が大きく歪んでどこか皮肉がこもった笑顔と声が漏れる。
一瞬だけ横を並ぶ彼はその変化の大きさに目を細めたがそれは事実。これも優等生里佳子と同じ里佳子。
「呼び方の変わり方といい、昼休みのブチギレといい・・・」
「・・・・・・・、みんな驚いていたね。私のブチギレ」
「そりゃ、驚くだろ」
「でもね、アレが本当の私なんだよ?久瀬君」
「えっ???」
「皆知らないだけなんだよ、本当の私。腹黒くて嫉妬深くてクドイ本当の私の事をさ。本当は優等生じゃないんだよ、ただの“偽善者”なんだよ」
「おいっ、何言って・・・・」
それ以上言葉は出て来なかった、あまりにも気まずい空気に変わり果ててしまったからだった。
一体どこでこんな空気になったのだろう?この時だけは周りの寒い風も忘れて緊張感で体が熱くなる。
誠の嫌いな沈黙も、気まずい空気もこの時だけはどうにもならなかった。
そんな沈黙を破ったのはそれの張本人、里佳子だった。
「見たでしょ?私の万引きテク。今まで見つからなかったんだけどな。久瀬君が初めてだよ」
「・・・・・・・、見つけて悪かったな」
「ううん、むしろ感謝している」
“感謝”
予想だにしない言葉が飛びしてきて誠は戸惑い黙り込む。
里佳子の発言を見守ることしか出来ない。
あの日、あの本屋で目撃してしまった里佳子の万引きする姿。
信じ難い光景だったが悲しいことにこれもまた事実。また過去の話だから変えることは出来ない。
「偽善者の私が本当の私を止めようとするけど中々止められないんだよ。
盗ったら盗ったで偽善者の私が出てきて自分のやった事に後悔する、いつもこうだったんだよ。
それを君は止めてくれたんだよ?分かる?久瀬君」
「まぁ、分からん事はないが・・・・」
「調子に乗って“誠”なんて呼んじゃってバカだよ、里佳子さんは・・・」
里佳子の息は真っ白だった、そう憂鬱になりそうな空気の中で邪魔するようにつめたい風が吹き付ける。
里佳子は立ち止まり、両手を胸の前で組んでその場駆け足をし始める。
「寒ッ!!!!!!!」
冷たい風のせいで彼女は涙目になり頬は真っ赤。足元はもっと寒そうだった。
すると、里佳子の目の前にマフラーを持った手が伸びてきて手の主に顔を上げる。
「やっぱ、寒いんだろ?」
「寒くないって!いいって!マフラーはもう・・・ヒャッ」
ヒャッは驚いた里佳子の可愛らしい声。誠の手のひらが里佳子のプニプニの頬に引っ付いたのだ。
余計に里佳子の顔が赤くなる。数十秒経った後に誠の手のひらが里佳子の頬から離れる。
「冷たいじゃないか」
片手に持っているマフラーを誠は里佳子に優しく首に巻き始める。
巻かれている側の里佳子は何も言えずにただ誠にマフラーを巻かれるだけ。
全てを巻き終えると誠は早歩きで里佳子の前を歩き始める。里佳子はその姿を見て必死に追い始める。
「えっ、ちょっと待ってよ」
「待たない」
と言いつつ誠の足は止まり里佳子がやっと追いついた。
「お前の悩みは俺の悩みだ、お前が笑うなら俺だって一生懸命笑ってやる、前にお前が言っただろ?
“秘密の共有”って。本当をお前を俺は知ってるんだよッ。だから、お前を困らせるような奴が出たら
俺が決着つけてやる。腕に自信は無いが俺がお前を守ってやる。そうだろ?」
“里佳子”
ちょっとだけ彼女は黙って誠から巻かれたマフラーを弄り始める。
「何小恥ずかしい事言ってんだ・・・、俺・・・」小声で呟くが里佳子には届いていない。
「うん・・・・、そうだね・・・・。ねェ誠」
「?????」
誠から巻かれたマフラーの端っこを手に取った―、
「半分こ、しない??」
さぁ、関係修復に成功いたしました!