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鈍感男

昼休みが後7分ほどで終わるくらい。普通ならこの貴重な7分を大切にしたい所だが

その貴重な7分を黙って過ごそうとしてクラスが1つだけあった。

そのクラスは2分か3分前に起こった事件の衝撃度があまりも大きすぎて喋れないからだった。

事件の犯人、沢 里佳子はどこかに消えてしまいもう一人の事件の元凶である久瀬 誠は

実にうるさくて鬱陶しい同級生、福井百合奈に連れらて階段を上っていた。

連れらて来たのは時たま須藤と昼飯を楽しんでいた屋上だった。

コンクリートの殺風景な野原が誠の目の前に広がった。コンクリートの目地の他には柵しか見えない。

誠の前を歩く百合奈のショートヘアは風に吹かれてシャンプーの甘い香りが彼の花を突く。

「いやっ、ビックリしたな」

百合奈に突然話しかけ誠は答えを見出せられないでいた。(先程の事件もあったが)

彼女は話を続ける。勝手に彼女の話が一人歩きしない様に見守る事にする。

「里佳子のガチギレは」

「ハァ?」

屋上に来て(半ば強引に連れて来られて)誠の第一声は疑問符込みの計3文字。

しかも、何ともやる気のない言葉。ちょっと百合奈は肩を落とした。

もうちょっとロマンある言葉を期待したのか、一瞬だけ百合奈の言葉は止まったが、

これでは昼休みがもったいないと思ったせいかまた話が再開する。

「まさか、あそこまでキレるなんて百合奈さんは全く予想できなかったよ」

「でその百合奈さんはこの俺、久瀬 誠君に何か様でもあるのか?」

「別に、ただ話がしたかっただけさ、同級生君」

「ハァ?」

百合奈の肩がさっき以上にガクッと落ちた。実に内容のない疑問符込み3文字。

相手が女の子だと言うこと百合奈さんの同級生、久瀬 誠君は一体どれだけ理解しているのだろう?

鈍いと言えば鈍い。目つきとか顔つきとかのレベルの話じゃない、性質の問題でのレベルの鈍さ。

百合奈は額に掌をあてて頭の上からチリチリの渦巻きを上げる。悩み事ではなく考え事。

何故に男と言う生物(特に恋愛漫画の主人公とか)はここまで鈍いのだろう、と。

百合奈は気を取り直して自分の話したい相手、つまり誠に目を向ける。

「とりあえず、話をさせてもらうよ!誠君」

「おっ、おぅ・・・」

「単刀直入に言いますと“里佳子を泣かせないで欲しい”と言うことさ」

「ハァ?」

今日、このコンクリート製の屋上の上で3回は言われた“ハァ?”。

百合奈の頭がちょっと憂鬱になりかける。

「里佳子の心は繊細で緻密なお人形さんみたいでその精細な物を一つ傷つける様な事があったら

あの子は今日みたいにブチギレて誰も信用できなくなる、そんな子なんだよ?分かるかい?」

「いやっ、これでも一応わきまえているつもりではあるが・・・、繊細には見えんかったぞ。あのキレ方」

(里佳子が万引き常習犯だと言うことも含めて)

「繊細を一歩越えたらああなるのが里佳子と言う生物なんだよ」

その途端に昼休みの終わりを告げる最初の予鈴が鳴る。

「あっ、あれ??」

「誠君、遅刻だぞ?」

「てめぇ!!!待てコラ!!」

百合奈はいつの間にやら階段を急ぎ足で駆け下り始めていた。説教じみた百合奈の話。

そして、唯一(多分)知っている里佳子の秘密。

「“繊細”ねェ・・・」

あの日、あの本屋で目撃してしまった大胆すぎる里佳子の手馴れた万引きテクニック。

アレで繊細と言うのもどうかと思うが親友の百合奈が言うから確かと言えば確かなの・・・、だろうか?


誠が教室にたどり着くとすでに百合奈は自分の席に着席していた。さっきキレた里佳子も。

里佳子の眉間にさすがにシワまではよっていないものの危険なオーラを教室中を包んでいた。

里佳子の前後左右の席の生徒の体はガクガクブルブルを通り越して冷え切っていた。

緊張しすぎて体が冷えてしまったのだ。遅れて教室に入ってきた誠は頬に汗を垂らして呆れ顔を決める。

教室はまだ沈黙を破ろうとはしなかった。間違えれば里佳子の血管の切れる音が聞こえそうな位静かに。

「授ぎょ――――」

授業を始めようと教室に入ってきた教師もその恐ろしい静けさに圧倒され“授業始めるぞ”と言いかけた

言葉をついつい詰まらせてしまう。

「ごっ、号令」


起立!気をつけ!礼!


誠の口は半開きのままで授業はそのまま進んでいった。

珍しいことに、この授業の時の誠のノートは真っ白だった。里佳子もペンを動かそうとはしなかった。

もう分かっているとは思うが六時間目もこんな感じで進んでいった。



里佳子の帰りを誠は運動場のトラックのよく見える2階で待ち伏せていた。彼女の走る姿は美しかった、

さらさら流れる黒くて長い髪の毛。長い腕と足。西日に照らされる端正な顔立ち。

さすが、自分を追い掛け回したチーターなだけはある。

走り終わると寒いのにも関わらず彼女は自分の水筒に手を伸ばして美味しそうに中身の水を飲む。

もう一体、ここで彼女を待ち続けているだろう。少なからず生徒が学校に残るような時間ではなかった。


「ありがとうございました」


テスト前だからか、陸上部は予想の何番も早く終わるのを誠は確認した。そして、行動開始。

立ち上がり生徒がいつも出入りして校門へ向かう。



「あっ」

部活が終わり家へと帰ろうと里佳子はカバン片手に校門を出ようとした。

あっ、と声を上げたのはその校門に予想だにしない人物が立っていたからだった。同級生・久瀬 誠。

白い息を口から吐き出して寒そうにマフラーを弄っている。

「あっ」

こちらの“あっ”は誠の方。里佳子の存在に気がついて声を出したのだ。

彼女は黙り込み誠がそっと近づく。


「ちょっと、いいか?」



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