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俺は肉は好きだが、草食動物だ

‐俺は、恋なんて別にどうとでも思ってないからさ、相談相手間違えていると思うけど。

‐前沢は、違うのか???

‐まっ、前沢はあくまで牛乳の飲み仲間で!!

‐恋仲じゃないのか??

‐違うって!!!



放課後になった。夕日の光差し込む教室で日番の里佳子が黒板消しで黒板を消していた。

誠は、STが終わった後も教室の後片付けをしている里佳子の姿を見ていた。

「・・・・・・」

2人は黙ったままただ時間だけが過ぎ去っていく。

この日の里佳子の休み時間もとい、気軽に話せる体育の休憩時間は質問攻めで味方は全くいなかった。

一方、誠の方はこれはこれ、不良と勘違いされているので噂はされているが

あまりの怖さに誰も声を掛ける勇気ある人間はいなかった。

「ねぇ。ちょっと・・・」

里佳子が黒板を消しながら体を捻って誠の顔を見て苦しそうな表情を見せた。

本当の理由は分からなかったが誠の予想は体を捻って体勢的に苦しんでいるのだと感じる。

その苦しいに体制に耐えかねたのか体を元の体勢に戻して黒板消しを置いて誠の近づく。

「座っているんなら、せめて手伝ってよねぇ」

「・・・・・、なぁ」

「ん???」

「“里佳子”俺とお前がさどんな噂されているのか知ってるんか?」

確信を突く質問で里佳子を問いただす。目の前で自分に話しかけてきた里佳子はちょっと後ずさり

黒板に顔を向けて誠とは目を合わせない。

誠は苛つきを覚えて里佳子はさっき置いた黒板消しを手にとってキレイすぎる黒板をまた拭き出した。

チョークの粉が夕日に反射して黒い影が誠の目に入る。

「おいっ!」

返事のない里佳子の後姿に怒りを爆発させて誠は彼女の急ぎ足で近づいて黒板消しを持っている

手首を掴んで彼女の目を見つめる。

「あっ・・・」

掴んでいた手首を離して誠の顔は赤くなる。里佳子の方も顔が赤くなって気まずい沈黙が始まった。

一体、この2人の間に気まずい沈黙は何回あっただろうか。

「知ってるよ・・・」

「?????」

「そりゃさ、噂くらいすぐ耳に入るよ」

「なら――、」

「無駄だよ」

誠が『ならさ、なんで否定しないんだよ』と言いかけると里佳子がその言葉を途切れさせて邪魔をした。

何が、無駄なのか誠には理解できなかった。里佳子は続ける。

「噂なんて一種の病気だよ。感染する。止める事なんて出来ないよ」

「カッーー。なんで、そんな否定的なのかな!」

誠が久しぶりに頭をかきむしり髪の毛が何本か指の間に引っ掛かって抜け落ちた。

「その癖さ、なんとかしたら?」

「はぁ???」

「頭かく癖。イライラする時、誠絶対それやるもん。百合奈のときも」

「なんで、今アイツの話なんだよ?」

「誠、本当は百合奈の事あながち嫌ってなんでしょ??」

「なっ、何の話だよ?」

「誠、優しいもん。大体分かるよ。このクラスの皆誰も嫌ってないって」

「うるさいッ。もう帰る」


そう言い残して誠は里佳子を1人にして教室を出て行った。


長い長い廊下の端にある階段を降りようと誠が歩いていると後ろの方から足音が聞こえてくる。

駆け足の足音でまるで自分を追いかけているようであった。

足音の方にそっと目線を向けると誠のいやな予感は的中した。

「いっ!」

と、奇妙な声を上げると彼は階段を一気に下り始めて間違えればこけそうな速さで階段を下る。

階段を下っても下っても足音はどんどん近づいてきている・・・、気がした。

誠の心理状態は現在、子連れのチーターの母親に追いかけられている

群れから取り残されたシマウマの心理状態と同じと言っても過言じゃない。

前世は「シマウマ」じゃないか?と言うどうでもいい事も頭を横切り彼は走る。

一方その弱弱しいシマウマを追い掛け回している捕食動物のチーターは全く脚力は落ちなかった。

さすがにトラックで鍛えているだけの事はある。

だが、チーターだって長距離を走れる訳じゃないことくらい一般常識、

あるいはどこかの猫好きか動物オタクの中で走られている事実である。

だから、当然のごとくもうすぐチーターの足は失速してゆき―、

「ハァ・・・・・!」

バテて止まってしまう。


残念ながらチーターはシマウマを捕食することが出来ず階段の踊り場で、

息切れと足の筋肉の疲労で止まった。

「あぁ、もう・・・」

里佳子の頬は赤と言うよりはピンク色に近いと言った方がいい。汗をかいて蒸せていたのだ。

誠の姿はもう見えない。階段の間からギリギリまで身を乗り出しても見えなかった。

里佳子はまた疲労の溜まった足でまた階段を降りはじめてトムソンヤードをまた追いかけ始める。



シマウマは、捕食動物のチーターに追い掛け回されて息切れはピークに達していた。

捕食動物の気持ちが良く分かった瞬間だった。

誠は野菜と肉だったらどちらかと言えば肉の方が好き、

むしろ大好きだったがこの時だけは野菜が食べたい気分にまで陥っていた。

『帰ったら・・・、“野菜100%”を10本飲み干してやる・・・』

そうシマウマは心に誓って校門を出て行こうとしたらまた肉食動物が現れた。

「誠!」

「・・・・」

肉食のチーターに自分のファーストネームを呼ばれシマウマの口は尖がった。

口を尖がらせている彼を見て一瞬だけ肉食動物は後ずさったがそれはそれ“一瞬”なので

最後の力を振り絞って里佳子は誠に近づいて誠の顔を見上げる。

「へっへっ」

「・・・・・」


いつも1人だけで歩いている筈の長い通学路。横には誰もいない筈、なのだが―、


「お前は、ストーカーか??」

「何を言うのかね!」

なぜか隣には異常なテンションの里佳子がいる。いつもならおしとやかで物静かだった里佳子が

今現在では異様にテンションが上がり生き生きした笑顔で自分に話し掛けている。

「まぁ、さ・・・、」

「ムッ」

「・・・・“里佳子”・・・・」

「ん?何かな???」

女と言うのは実に不思議な生き物だなとさっきまで捕食される側だった誠は微妙な疑問が浮かぶ。

誠の妹の遊里にせよ、同級生の百合奈にせよ、今目の前にしている里佳子にせよ

何故まともに自分の話を取り合ってくれないのだろうか?男で恋愛経験ゼロの誠には理解できなかった。

「なんで、そんなにキャラが違うんだ?」

「む??きゃら??」

「俺のイメージでは、お前は物静かでおしとやかで優等生で」

「・・・・・・」

一体、百合奈や里佳子と出会ってから沈黙は何回経験しただろうか。

もう沈黙なんてうんざりだが、沈黙を破る言葉など見つかるわけも無い。

「みんな、私の事分かってないんだよ。百合奈も須藤君も他の女友達もクラスのみんなも」

「みんな?」

「でも誠は違うよ?本当の私を知っている。秘密を知っている。違う??」

「いや。もちろん知っている」

「でも、誠は私の事知っていても、私は誠の事知らないけどこれだけは知っているよ、誠」

「?????」

「誠は優しい人。とっても優しい人。それ以外にも多分・・・」

「多分???」

「もっと、教えてよ。誠の事さ。私の事ももっと教えるから」

「なんで???」

「だって、私たち秘密を共有しているんだから」




「むっーーーー」

福井百合奈は考え事をしていた。恋愛の話ではない、家族の問題でもない、同級生の誠の事だった。

百合奈の視線から彼を見るとこのところの誠は非常に社交的になっているような気がしていたからだ。

彼女の目標は“誠を社交的にする事”なのだがもしそれが達成したら一体これからどうすればいいのか

と言うことを考えていた。別に恋愛感情があるからそういうのを考えているのではない。

“寂しい”と言うことがぴったりだ。

今の今まで話しかけていた同級生と突然話さない仲になったらと考えると、

彼女はどうにもこうにもやるせない思いを心に抱えてしまう。


小学生のときは仲が良かったが中学生、高校生と進級していくつれに段々話さなくなる事くらい

誰にも経験があると思う。今の状況とは微妙に違うとは思うが百合奈の脳内ではそれがうごめいていた。


要するに百合奈の心情は、“誠ともっと仲良くしたい”と言うちょっとした我がままだった。


考え事に踏ん切りをつけると百合奈はケータイを手にとってデータに残されている写真を見つめる。

そこに写っているのは百合奈本人とそれからもう1人百合奈と同い年で背が遥かに高い男子。

「なんで、これ消さないんだろー・・・」

考え事に踏ん切りはついても、過去の過ちや未練に踏ん切りがつけられない事は誰にだってある事。

事実、今百合奈が見つめている写真も“未練”の塊である。


写真をずっと見つめていると百合奈のケータイに電話のバイブと音が鳴る。音楽ですぐに分かった。

電話の主は百合奈の親友の里佳子だった。

里佳子からの電話にすぐに百合奈は出て里佳子と会話を始める。

「もしもし?どうしたんだい、里佳子」

『すっー・・・』

「里佳子?何?今息を整えるような音が聞こえたけど―」

『実は、百合奈。相談にのって欲しいんだけど』

「えっ?いいけど??」



「誠?どうしたの?ま・こ・と!」

誠の妹の遊里はリビングのソファで兄のげっそりとした表情に何かを感じ取り事情を聞きだそうとしたが

兄・誠は何も話そうとはしなかった。遊里の足元には野菜ジュースがゴロゴロ転がっている。

「俺・・・、なにやってんだか・・・」

「誠???」

「ハァ・・・・・・」

「だから、何があったの!?」



「ふーん、そんな事があったのか」

『うん、“誠”の秘密教えてって言ったら誠“個人情報なんて教えてられるか!”って怒鳴って

ズカズカ行っちゃったんだよ』

「誠君、なにやってんだか・・・。てかもうファーストネームで呼び合う仲になったんだ。

里佳子も中々やるじゃん」

『そっ、そんなんじゃないよォ』

「でもまぁ、ソリャただの照れ隠しだと思うよ。誠君の性格上それ程鬼畜じゃないし」

『鬼畜って・・・』

「表現だって、表・現。誠君の事さ里佳子は一応は知ってるんでしょ?」

『・・・・・、うん“一応”』

「プッ!!!」

『笑うなぁぁぁ』



翌日。誠は誰にも相談できないまま学校に向かっていた。いつもと同じ通学路。

隣に誰かいる訳でもなく愛しているはずの“孤独”を味わっている。

だが、なぜかここの所“孤独”と言うものに彼は最近違和感を感じ始めていた。

1人が空虚なことだと言うことに気付き始めているのだがそれを認めたくない。

いままで、やってのけていた筈の1人がとてつもなく寂しくなってきていた。


いつもと何かが違っていた。



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