始まりと半分こ
俺とソイツとが関係を作ったのはとある駅のコインロッカーで出会いが大きい。
別に肉体関係というわけでない。だからと言って友達で踏みとどまるほどの距離感でもない。
けれど―、
強いて言うなら俺とソイツの関係は“夫婦”みたいな物だった。
「ロッカールーム」
まずは、この物語の主人公を紹介しておきたいと思う。
電車の中で非常識もケータイを弄り倒して時たま音楽をカシャカシャ鳴らしている。
彼の名前は、久瀬誠。現在は高校2年生。来年は受験生なのだが緊張感はゼロ。
学校では、友達は少なくクラスメートから不良扱い。しかし、そんな事は全く気にしていない。
むしろ、その生活の方が物静かで気に入っている。
「塚口、塚口駅です」
プシューっと電車の扉が両方に開くと慌てる事無くゆっくり立ち上がり出口へと向かう。
電車の発車メロディーのなり終わる頃に彼は電車を降りる。いつもの生活リズムだ。
同じ電車に乗っている高校生は誠のほかには彼のクラスメートの福井百合奈しかいつもいなかった。
誠の住んでいる所が学校から遠く仕方なしに早い目の電車に乗るしかなかったのだ。
一方、百合奈は生徒会と部活動の早朝練習の関係でこれまた早い目に家を出る。
そして、百合奈と誠の鉢合わせも彼の生活リズムの中の一つとなってしまっていた。
「おっはよ、久瀬君」
「・・・」
百合奈に挨拶されても返事せずそのままスタスタ歩いて階段のほうへ去っていく。
これも、誠の生活リズムの一つだった。
「ちょっ、ちょっと待ってよぉ」
百合奈が後ろから走ってついて来る。今日の百合奈はいつもと様子が違った。
いつもだったら、誠に無視されて終わりなのに今日は誠にピタッと引っ付いてそのまま離れない。
誠は無言の訴えを続ける。“引っ付くな”と。
そしたら百合奈の次の行動は、誠の腕をガシッとつかんで誠を引っ張り自分の顔に近づける。
「・・・」
誠の不機嫌且つ眠たげな顔は百合奈の顔に急接近した。
「やっほー♪」
嬉しくない。誠は百合奈の腕を振り払って改札口に方向転換をする。
そうしたら、突然百合奈が泣き出す。泣き出した百合奈の大声に驚いて振り返る。
振り返った時、誠の目線に届いたのは崩れ落ちた百合奈だった。
「フッー・・・」
初めて誠が声を出した。ため息だけど第一声には違いなかった。
頭をバリボリ掻きながらケータイを取り出して時間を確認する。
時間は、7時42分。学校にはまだ間に合うよな・・・。
誠はケータイをポケットに仕舞うと百合奈に近づく。そして、腰を下ろして百合奈に目線をあわせる。
「おいっ、福井」
「・・・」
「福井ぃ!」
「・・・たの・・・前」
百合奈の途切れ途切れの声に誠はゆっくり耳を傾ける。
「アァ?」
「下の名前がいいなぁ」
誠が聞き取った百合奈の言葉。イライラする誠。ヌワーッと悶える誠。
百合奈の理不尽な要求。学校の遅刻は避けたい。そして早く立ち去りたい。
「クッ・・・」
そう考えると妥協せざるを得なくなった。仕方ないとばかりに―
「ゆっ・・・百合奈・・・」
そういうと肝心の相手はむくっと顔を上げて嬉しそうな顔を誠に見せた。
「はーい♪誠くーん!」
すっと立ち上がって改札口に指をさした。
「さぁ!改札口へいざゆかん!」
「カッーーーー!」
誠はイライラを押さえて改札口に向かう。IC定期券をカバンから取り出そうとしたときに
前を歩いていた百合奈がある人物の存在に気付いた。
「ありゃー??里佳子ぉ??」
「ふぇ???」
「やっぱり、里佳子だっ」
「あっ、百合奈・・・と久瀬君?」
「・・・」
挨拶はなし。そのままスルーしようとすると百合奈すぐさま呼び止める。
「ちょっと、誠くん。里佳子に挨拶しなよ」
「・・・ヨォ///」
「うっ、うん・・・」
少々顔を赤らめて里佳子に挨拶をすると誠はさっと改札口に逃げ出してIC定期券をかざして駅を脱出。
そのまま誠は逃走した。
「あはは♪可愛いな。誠くん。ねぇ、里佳子?」
「あっ、うん。そうだねぇ・・・」
塚口駅を飛び出して行ってしまった誠の後姿を見送った百合奈と里佳子は
改札口を通り駅から脱出して2人で並んで歩いていた。
「ちょっと、寒いなぁ」
季節は10月の半ば。もう秋の色に染まった黄色いイチョウや赤い街路樹。
朝早いせいか、街路樹の周りの公道に自動車の姿は無く自由気ままに公道の上を
チェーンをまわして走る自転車暴走族の人間が幾人かいるだけだった。
冷たい風をほっぺに感じつつ里佳子と百合奈は歩道の上で積もっている
枯葉の山を時々崩しながら歩いていく。
「あぁ、寒い!」
百合奈は自分の通学カバンから手袋とマフラーを取り出した。
この日の最低気温は15度と天気予報では言っていた。
しかし、それは詐欺だと百合奈は頭の中でイライラを感じながら考えていた。
「天野キャスターの嘘つきー」
プハーっと白い息を威勢よく吹いた百合奈。その隣で頬を寒さで赤くした里佳子。
「?」
里佳子の真っ赤な頬を見て百合奈は自分の手袋をはずいて里佳子のほっぺに手を当てる。
「ひゃっ」
百合奈の突然の行動に少し驚いた里佳子。ムーっと考え込む百合奈。
その場で止まってしまった2人の女子の空間。
そして、百合奈の脳みそから導き出された答えが口を動かした。
「冷たい・・・ね」
「えっえっ??」
混乱し疑問符をたくさんつけている里佳子の顔を横目に見て
百合奈は手袋をはめ直してマフラーを首から半分外した。
そして、ほらっと言って半分のマフラーを差し出す。
「半分こ」
「あっ、うん・・・ありがと」
里佳子は恐る恐る百合奈の出したマフラーを手にとって自分の首に巻きだす。
マフラーを首に巻きつけた里佳子の姿を見た百合奈は言う。
「いい?里佳子」
「はい??」
「このマフラー半分こはねぇ、間違えればどっちかの首が絞まる危険な行為なんだよ?」
「えっ?それはつまり・・・」
「並列して走ろうかって事さ」
「はっ、走る???」
そう聞いた里佳子の眼前に百合奈は自分の手首に巻いているデジタル腕時計の
時間を見せ付ける。7時50分。
「まだ、マニアイソウナキガシマスガ?」
「生徒会は待ってくれないのさ♪」
そう言い放つと百合奈は自慢の脚力で里佳子を半ば引っ張りながら走り始める。
「ゆ・・・百合・・・奈ァァァ・・・」
「伝言は後で!」
ハァハァと息を切らしている百合奈と、ゲホゲホと咳をして歩道に座り込む里佳子。
「しっ、死ぬかと思った・・・」
「ごめん♪」
歩道に座り込んでいた里佳子は首に巻かれていたマフラーを外して百合奈に差し出す。
「はいっ、もう十分暖まったから」
里佳子は言い切ると百合奈は差し出されたマフラーを受け取った。
マフラーを受け取り百合奈は里佳子に手を伸ばして「立って」と言った。
百合奈の手を握って何とも頼りなさげに里佳子は立ち上がった。
「ホント、ゴメンね」
「もう良いって・・・」
里佳子は少し苦笑いを見せて百合奈も苦笑した。そして、また2人が歩道を並んで歩いていく。
「そういえばさ、里佳子ぉ」
「ん??」
「どうして、コインロッカーから出てきたの?」
「ふぇっ?あっあれは・・・」
「ん???」
「別にいいじゃんッ、人には知られたくない事がいっぱいあるんだしぃ」
「ふーん・・・」
「なっ、なに?その疑いに満ち満ちた目は・・・」
「ううん?別にぃ??」
「嘘だー!!!」
そう2人が言い合っている間に学校の校門は近づいていた―。
と言うわけで「ロッカールーム」第一話はお楽しみいただけたでしょうか?
駄文で申し訳ない次第ですがこれからも投稿いたしますので
どうか、温かい目で見守ってください。