第6話「手の平ローリング作戦とたった10秒の限界突破」
あれ? 全然強くなった感じがしない。
やっぱり、そんなに直ぐエネルギー? 的なのが回復しないってことか……。
「どうした? 反撃するんじゃないのか?」
「反撃だと? 俺はそんなことはしないさ」
「なんだと?」
「いっただろ。俺はみんなを救うってよ。お前を倒すとか興味ないって」
俺の言葉を聞いてピク・ミンは鼻で笑った。
「ゴミを救って何になる?」
「だからゴミゴミいうなって」
なんとか時間稼ぎができないか……。
体力が回復するまで、1分1秒でいい。
もう一度、超感覚とあの湧き上がるような力を発揮するには、とにかく時間が必要だ。
「冴葉遼。お前は俺が直々に捕獲して、真っ先にカプセルにぶち込んでやる」
「冴葉遼?」
母さんと父さんが同時に首を傾げた。
あ、いや、違うんだよ。ここは空気を読んでくれ。
と無言の願いを投げかけたけど、それをキャッチしてくれたのは……母さんだけみたいだ。
「何をいってるんだタルト。冴葉遼はハンターズシティの主役だろ」
「なんだと? コイツは冴葉遼ではないのか?」
「そうそう。この子は俺の自慢の息子の朱賀多留斗だ!」
あー全部いっちゃった。
と……父さん。尊敬する程に真面目なんだよな……。
でもそれは今じゃないんだ。
横で母さんが天を仰いでいる。
「一度ならず二度までも。この我を愚弄するとは。許せん!」
フルフェイス越しにでも、その中の表情が怒りに歪んでいるのが分かる。
振り上げた拳が俺への直線軌道を捉えた。
また直撃をくらう……。
目の前が暗くなる。
そして包まれる。
母さん、そして父さんが俺を庇ってくれた。
鈍く重い衝撃音が鳴り、父さんと母さんが弾き飛ぶ。
そのまま側壁に激突した。
「母さん! 父さん!」
「お前が戦わない限り。誰かがこうなるのだ朱賀多留斗」
「違う。戦うことだけが正解じゃない」
ほう。と、ピク・ミンが言った。
「暴力なんかじゃ何にも解決しないんだ」
「だが、戦わなければ、誰も守れない。そうは思わんか? 家族がああなっても、お前は平気でいられるのか?」
「タルトッ」
母さんが苦痛に顔を歪めながら立ち上がった。
あんな辛そうな姿は初めて見た。
「タルト……。戦いなさい。世の中には話し合いでは解決できない相手もいるの。戦わないことだけが正義じゃない」
「母さん……」
俺は耳を疑った。
母さんが俺に戦えというなんて。
きっと、俺達の未来はこの瞬間で決まるのだと、そう思っているんだろう。
今、戦わなければ俺達はインフラのエネルギー源になる運命は変えられない。
運命を変える為には、立ち上がって戦うしかない。
――やるか……。
だけど、攻撃ができないエッグ。
攻撃したらどうなる?
そもそも攻撃できないって何なんだ?
一度、試してみるしかない。
もしかしたら、攻撃ができるかも。
俺はゆっくりとファイティングポーズを取った。といってもアクション映画の見様見真似だ。
「ヤル気になったか朱賀多留斗。そうだ、そうでなくては面白くない。お前のスキルとやらを見せてみろ」
まずは……。
「フラッシュ!!」
即興でスキルの技名を決めた。シャイン! はなんかちょっと違うしな。
俺の全身から強烈な光が噴出。
思わずピク・ミンが顔を伏せた。
今だ!
俺は一気に距離を詰め、渾身の右ストレートを放った……?
なんだコレ……拳が……止まった。
ピク・ミンの顔面を捉える寸前、不可視の分厚いゴム壁に激突したような衝撃が拳を押し返した。
「ぐっ……!?」
殴り抜けるはずの力が、そのまま反作用として俺の腕の骨に逆流してくる。
磁石の同極同士を無理やり押し当てた時のような、吐き気を催す拒絶感。
首を傾げたいのは俺の方だよピク・ミン。
そう思った次の瞬間、俺の左頬に強烈な衝撃が走った。
勿論ピク・ミンは何もしていない。のに、なんで?
「何を遊んでいる」
「べ、別に遊んでなんていないさ。ちょっと待ってろ」
「ふん、5秒だけ待ってやろう」
まだ使えないのか?
もう一度、ダメ元で試すしかない。
デタラメに気合を入れ、感覚のスイッチを模索する。
くそ、あの耳鳴りや心臓の鼓動が起きない。
ダメだ……。
「もうその辺でいいじゃないか。うちの息子がアンタに何をしたんだ」
父さん!?
「お前の息子は、我の船に穴を開けた。そして、侵入して我を愚弄した。しかも嘘までついてな」
「タルト……それは本当か?」
「まぁ、あながち間違ってはいない」
「そうかタルト……。なら、お前が悪い。謝りなさい」
「え?」
流石の手の平の返し方にピク・ミンも動揺の色を見せる。
「隙有り!」
母さんの言葉が響いた。
ピク・ミンの背後から鉄パイプで後頭部をカットしたのだ。
でも、そんなんじゃ効かないよ……。
悠然と背筋を伸ばす様をみて、父さんが項垂れた。
「まさか、俺の手の平ローリング作戦が不発だと。計算では完璧だったはずだ」
「何が完璧に成功する、よ! アンタの作戦を信じた私がバカみたい!」
「もう良い。ここまでだ。ゴミ屑が!」
弓なりに開いた胸。
ギリギリまでしなった腕を一気に振りかぶる。
鈍い風切り音が聞こえた。
こんなのまともに直撃したら、母さんも父さんもタダじゃ済まない。
下手すりゃ死ぬぞ。
嫌だ!
俺が絶対に守って見せる!
キィィィィィィン……と、耳の奥で神経の焼き切れるような高音が響き、周囲の雑音が消えた。
視界はモノクロに反転し、ピク・ミンの拳だけが、まるで泥沼の中を突き進むように鈍く見える。
バシンッ!!
思考より先に動いた俺の手が、その拳をガッチリと掴み止めていた。
俺がさっきまで立っていた場所から、ここまでの床に微細なスパークの跡が残る。
ここしかない……やるぞ。
吐く息が白い。
髪が逆立つ。
体が熱いっ。
全身が唸る!
ブゥーーーーン……。
ギリギリで発動しやがって。
でも、この状態、残り体力から考えて、もってあと10秒も維持できない。
一気に終わらせる。
俺の……渾身の……一撃を!!
9秒……。
軸足を捻るとパンチングメタルの床が渦を巻くように変形。
7秒……。
ピク・ミンのスローモーションにも見える蹴りを半身で躱す。
後方から放たれた兵士の弾丸を跳躍して避ける。
5秒……。
吊り下げられた照明器具を蹴り、天井に着地。
4つの弾丸が俺に届くよりも先に、床に降りて兵士の股の下を高速で掻い潜る。
3秒……。
俺が巻き起こした風圧に吹き飛ぶ兵士達。
音速を超える拳が空気との摩擦を起こし、スパークが発生。
1秒……。
これだけの力なら、磁力のような反発でも強引に押し込めるに違いない。
更に6発の弾丸を避けながら、一気に距離を詰める。
受けてみろよ、タダじゃ済まないぜ!
踏み込んだ床が凹む。
空気が軋む!
0……。
次の瞬間、俺は幾層もの壁を貫いていた。
痛みの反応がまだ追いつかない。
その前に意識が飛びそうだ……。
何が起きたのかは理解している。
やっぱり、全力の攻撃ダメージがもろに跳ね返ったんだ。
双子のいっていた『攻撃が出来ない』ってこういうことだったのか。
しようとしても絶対的にできない。
ノーネームエッグの使い方としては間違っているんだ。
やっぱり、この力は戦闘向きじゃない……。
最後の一枚で体が止まった。
防風が顔を殴る。
そしてようやく痛みが追いついた。
防風?
うわ、これって外じゃん。
視界全てに広がる夜空。
上にも下にも星空だ。
って見とれてる場合じゃないが……だめだ全然力が入らない。
何かに足を掴まれた。
アンタだろ?
ピク・ミンに壁から引き抜かれ、凄まじい力で放り投げられた。
さっき開いた穴を器用に通り過ぎ、再び転生者達が隔離されていた場所に戻る。
ガシガシと歩くピク・ミンは、俺の首根っこを床に押し付けると、部下の兵士から手渡された黒いデバイスを、俺の首に押し当てた。
「がはッ!」
ピク・ミンは鼻息荒げに、興奮した様子でデバイスのモニターを見つめた。
「今の力は何だ? お前、どんなスキルを手に入れた? なぜあそこまでの力を持っている」
続く電子音が終わりを告げた。
「なんだと……スキル名……不明。レアリティランクC。最下位だと?」
デバイスの故障と思ったのか、3度程振ってから再び俺の首に押し当てた。
「スキル名、不明。Cランク。そんなはずあるか、さっきの力、オーバーロードはCランクの水準を遥かに上回っていた。俺の見立てではSSランクに相当するはず」
「な、何をいってる? 意味分かんねぇって」
なんなに高速で動けて、すんごい力を発揮してるのにCランクなのか?
だったら他のみんなはどれだけ凄いんだ?
それとも、ピク・ミンの狼狽え方を見てると、俺は普通じゃないのか?
あの双子、ノーネームエッグについてもう少し説明しておいて欲しかったぞ。
「一度、帝都の研究所に持ち帰り、調べるしかないようだ」
その時、船が大きく揺れた。
続いて爆発音が響く。
周囲の転生者達も悲鳴をあげパニックを起こす。
警報音と共にスピーカーから男の声が聞こえた。
『各員に次ぐ。神日本帝都の飛空艇が接近。被弾5箇所。各員は直ちに持ち場に戻り迎撃せよ! 繰り返す……』
神日本帝都……俺達が送られた最初の街か。
どっちが勝っても俺達にとっては最悪だ。
それよりも今は、この船が墜とされると厄介だ。
ピク・ミンが近くの兵士へ指示を出す。
「朱賀多留斗を隔離区画Cへ。我々は神日本帝都を迎撃に向かう」
「承知しました!」
またも爆発が発生。
今度は近い、煙が部屋中で荒れ狂う。
うつ伏せの状態で身動きも取れず、状況が収まるのを待つしかなかったが、視界がクリアになった途端に、心臓が引きつった。
大きく空いた側壁。
船体が大きく傾き、数人の転生者達が外に放たれた。
母さんと父さんが空いた穴の縁を掴み、堪えている。
手を離せば外に飛ばされてしまうだろう。
さっき、俺は外を見た。
何も無かった。
あの夜空に放たれてしまったらどうなるのか?
想像するだけで恐ろしすぎる。
何よりも、ミツキを取り戻す前に2人を失うワケにはいかない。
「母さん! 父さん!」
と叫ぶが、騒音が大きすぎて俺の声は届かない。
体が動けば、助けられるかも知れない。
超感覚が発動さえすれば、いとも簡単だろう。
だけど、もう、体が動かないんだ……。
悔しくて涙が溢れる。
そして……母さんと父さんの手は――縁から離れた。
二人共、俺の目を真っ直ぐ見つめながら遠ざかる。
その目は、ミツキを頼むといっていた。
いつも『浮遊世界のキーエッグ』をお読みいただき、ありがとうございます。
本日は、本作をより面白い物語として完成させるための、前向きな「リブート(再構築)」について大切なお知らせがあります。
執筆を続ける中で、物語の核となる「クレープ」や「タルト」といったキャラクターたちの魅力を、今の構成では十分に引き出しきれていないと感じるようになりました。
このまま完結させることもできますが、僕の中に「もっと彼らを輝かせたい、読者の皆様に最高の興奮を届けたい」という強い想いがあります。
そこで、一度本編の更新を休止し、来年の春休みを目標に【クレープを主人公に据えた新構成】へと全面リニューアルすることを決意いたしました。
ただし、完全に沈黙するわけではありません。
春の本編再始動に向けて、まずはこの世界の案内人である「クレープとヘル」の活躍を描く短編・中編シリーズをスピンオフとして随時投稿していく予定です。
本編の物語、そしてタルトやキーエッグに繋がる伏線も、この短編群の中で少しずつ明かされていきます。
「エタる」ことはありません。よりワイルドで、より妖艶なクレープと共に、必ずパワーアップして戻ってきます。
新しく生まれ変わる物語を、どうか楽しみにお待ちいただければ幸いです。
もし、今後も僕のキーエッグ、そしてクレープやタルトのパワーアップした姿に期待して頂けましたら、フォローやブクマをよろしくお願いいたします。




