第5話「ステルスゲーム的なヤツ」
ここはどこだ?
真っ暗で何も見えないぞ。
あ、そうだ!
俺は光るだけのスキルを発動した。
全身が眩い光を発してLEDライトのランタンみたいに周囲を照らす。
「これ、意外と便利かも」
そして俺はようやく明るくなった船内を見回した。
ロッカールーム?
俺の勘が正しければ、この縦長のボックスを開けると……って鍵が掛かってんな。
ダイヤル式のロック錠が付いているタイプだ。
ふと風を感じ振り返ると、俺が突き破った壁――。
鋼鉄製だと思うけど、よくアレに穴が開いたもんだな。
怪力なんでレベルじゃない。
今は落ち着いている耳鳴りと、超感覚と呼ぶべき力。
そして、心臓の鼓動の高鳴りと共に全身に漲った途轍もない力。
あれもノーネームエッグの力なのか?
まだよく分からないけど、自由自在に扱えるようになりたい。
家族のみんなを助ける為には、きっと必要になる力だと思う。
と、気を取り直し俺は鍵が掛かっていないロッカーを探す。
恐らく、あの兵士達の隊服があるはずだ。
こういう場合、隊服を着て潜入ってのがセオリーだろ。
この前に観た映画でもそんなシーンがあった。
俺は染み付いた汗の臭いと、息が詰まる程の狭さの中、ロッカールームを練り歩いた。
その時、ロッカールームの照明がパッと点いた。
誰か来た! 俺は全身の光を消して物陰に隠れた。
そっと覗き込むと2人の兵士が見える。
黒いフルフェイスメットを被り顔は見えない。
どうにかしてあの隊服をゲットできないだろうか?
「おい! なんだこれは?」
「壁に大きな穴が……」
マズイ!
「侵入者か?」
「どうだろうな。神日本帝都の反撃を受けた可能性もある」
神日本帝都? もしかしてさっきの街のことか。
やっぱりあそこは日本だったのか? といっても、日本に似た帝都だろうな。
すると、1人と兵士が腰から黒いデバイスを取り、開いた穴に近づけた。
ピッピと電子音が鳴り、暫くすると兵士の様子が変わる。
「ほら見ろ。エッグ粒子だ」
「なんだと? つまり、転生者がこの穴を開けた……」
振り返り「この部屋にまだ潜んでいる可能性がある」と警戒を強めた。
あのデバイスで転生者の位置が掴めるのか?
面倒だな。こんなところで掴まるわけにはいかないんだよ。
メカニック構造のライフル銃を携えた兵士が近づいてくる。
俺は物陰に身を潜めて、息を殺しながら体を小さくした。
不安で心臓がバクバクいってるぞ。
足音が近づいてくる。
恐らく、音的に距離は2メートル程。
その距離がジワジワと縮まってゆく。
もうロッカーの裏側にまで迫っている。
キーーーーーーン……。
来た! この感覚だ。
瞬時に俺の体を中心として、感覚の波紋が広がる。
肉眼では見えていないロッカールームの全貌が、頭の中に浮かぶ。
2つの足音。
兵士の息遣い。
いつでも引き金を引けるよう、指先にこめる力を感じた。
俺は兵士の足音に合わせて一歩ずつ下がる。
大胆に動けば気付かれるだろう。
最小限の動きで一定の距離を保ちながら、俺はロッカーの死角を常にキープし続けた。
ステルスゲーム的なヤツだ。ゲームと違って見つかったらアウトだけど。
そうして俺はロッカールームを出た。
長い通路。
前も後ろもT字路になっている。
蛍光パネルの壁や天井、そして床が、眩しすぎないレベルで通路を照らす。
感覚の波紋は、T字路の先を歩く人間を捉えた。
足音が小さい。体重が軽いんだろう。
そして空中に漂う臭いの粒は、甘い花のようだ。
恐らく女性。
ここでじっとしていたらロッカールーム内の兵士に見つかる。
俺は女性がいるのとは逆のT字路へ向かった。
角を曲がるとまた長い通路だ。
こうなると迷路だな。
超感覚のおかげで周囲の状況は掴めるけど、船内全てというわけにはいかない。
「どっちにみんないるんだろ」
人の気配を避けるように通路を突き進む。
次第に呼吸が荒くなり、額に汗が滲みだしてきた。
ん? どうした?
なんだか、体が……。
感覚が鈍りはじめ、波紋が狭まるのを感じた。
誰か来る!
咄嗟に近くの部屋に逃げ込んだ。
そこでプツリと超感覚が途絶える。
そして全身が鉛のように重く感じた。
これってもしかして……エネルギー的なモノを使い果たしたんじゃ?
「おい!」
誰かに声を掛けられて、俺は思わず返事を返してしまった。
振り返ると、5つの銃口が俺を睨みつけていた。
思わず両手を挙げる。
「何者だ? 転生者か?」
「んーっ。出前亭でぇーす……たらこスパを頼まれた方ぁ?」
言ってしまった。大好きなアニメの『ハンターズシティ』
昨日配信された実写版ドラマの中で、ピンチに陥った遼ちゃんが放った苦し紛れの台詞だ。
メット越しにキョトンとはしてるようだけど、銃口は下がらない。
やっぱりドラマのような展開にはならないみたいだ。
そのまま俺は乱暴に床を引きずられ、重厚な鋼鉄の扉の向こう側へと放り込まれた。
「いでぇ!」
冷たいグレーチングの床を転がった俺は、ゆっくりと立ち上がった。
「ちょっとは親切にしろよな」
気付くと数え切れない程の兵士達に囲まれている。
ぞっとして後ずさりをしてしまった。
転生者達の姿はない。
異様な光景の中、男のガラガラ声が聞こえた。
「貴様か。俺の船の壁に穴を開けやがったネズミは」
兵士達が素早く左右に別れると、恭しく体を90度曲げてお辞儀をする。
1本の道の先に一回り体の大きな兵士が立っていた。
なんだか分からないけど、威圧感が凄い。
そして周りの大勢いる兵士達よりも隊服が豪華だ。
胸や肩にプレートアーマーが追加されていて、フルフェイスメットも刺々しい造形をしている。
一目見て、それが親玉であることがわかった。
「なんのことだ? てか、みんなはどうした?」
「それを知ってどうするというのだ? まさかここから助け出そうなんていうんじゃないだろうなぁ?」
「助けるさ」
これは完全に虚勢だ。
全員を助け出せる自信もなければビジョンもない。
ただ、家族を含めて1人でも多くの転生者を救い出したかった。
「ハッははは。コイツゃ面白い冗談をいうヤツだ。お前、名前は?」
名前だと?
それこそ知ってどうするつもりなんだ。
知られて特なんてない。ここは……。
「冴葉だ。冴葉遼」
うおー。言ってしまった。
俺、タルトなのに。冴葉遼って名乗ってしまった。
でも、これは致し方ない。ごめん、冴葉遼。
「冴葉遼……なんとも弱そうな名前だな」
「弱そうだって? だったらアンタの名前は何なんだよ?」
「我はアーヴォーン帝国第四空軍隊隊長の、ガンボ=ピク・ミンだ」
「ぷっ!」
「お前……今、笑ったか?」
「いや、全然……」
笑うだろ! ピク・ミンって可愛すぎるって!
こんな状況で笑ってる場合じゃないけどさ。
「絶対笑った」
「だから笑ってないって……ぷっぷぷぷ」
引っこ抜かれて育つのか? そしてついていくのか?
しまった。もう抑えられない。
「貴様! 我を愚弄する気か!!」
その巨体から放たれた拳は、俺の体をパチンコ球のように弾き飛ばした。
ギリギリでクロスガードで致命傷を防ぐことができたが、腕が悲鳴をあげる。
「ぐはぁっ!」
どれだけ飛んだ?
背中を壁に強打し、跳ね返ったところへ追撃の一打が突き刺さる。
「がはぁっ」
壁を突き破りまたも床を転がった。
衝撃で内臓が驚き、息ができない!!
「タルト!」「タルトぉ!」
父さんと母さんの声だ!
転生者達をかき分けて駆け寄ってくれるが、ダメだ、巻き込まれる。
「父さん、母さん。離れてくれっ」
「どうしたのタルト?」
「アイツ、マジでやばい」
開いた穴を潜って現れたピク・ミン。
その巨体を前に母さんと父さんが言葉を失う。
「ここがどこだか分かるか? 冴葉遼」
「知るワケないだろ」
「この区画に選別された転生者達はゴミだ」
「ゴミ?」
「使い物にならん程に弱く、価値のないエッグスキルのゴミ箱だ」
「私達がゴミだっていうの?」
母さんが前に出る。
続いて父さんも俺の前に立った。
「ミツキは? なぜミツキだけが別の場所に連れて行かれたんだ?」
俺は耳を疑い愕然とした。
ミツキはここにいないのか?
一体、どこに連れて行かれたんだ。
「別の区画にはお前らのようなゴミとは違って、利用価値のあるスキルを持った者達だけが集まっている」
「おい、俺達をゴミゴミいうなよ。尊い命をもった人間だぜ」
「悪いが、我々の目にお前達転生者は人間として写ってはいない。ゴミはゴミなのだ」
「ふざけるな。俺達は人間だ!」
「ふん。だが、お前達ゴミにもゴミなりの利用価値はある。そのエッグと共に体内を満たすエッグ粒子。それが帝国で暮らす人々の資源となる。糧となるのだ」
「俺達はインフラのエネルギー源になるってか?」
「良い例えだな」
「インフラのエネルギー源なんかにされてたまるかよ」
コイツと戦わないといけないのか?
でも、攻撃してどうなるわけでもない。
そもそも、俺のノーネームエッグは攻撃ができないと双子がいっていた。
それって本当なのか?
できることなら言葉で、会話して、平和的に解決したい。いや、そうするべきだ。
とはいえ、なんどもさっきの攻撃を受けるわけにもいかない。
もう一度、超感覚と身体能力アップ。
あのダブルアップをするしかない。
「はぁぁぁぁあああ」
とにかく気合だ。
この状況を切り抜いて、みんなを救うんだ!
あしたも20時配信予定です!
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