第4話「守銭奴ガンナーと算盤猫」
「あーあ。派手にやられてるわね。帝国の船でも何分もつか」
酒場の窓から見える夜空。
アーヴォーン帝国の飛空艇が、神日本帝都の飛空艇の一斉射撃をモロに受けている。
あれじゃあ何分もつことか。
……正直、今の私にはどうでもいいことだ。
それよりもだ。
「――それで? この依頼料、一桁足りないんじゃない?」
私はカウンターで足を組み、目の前の脂ぎった依頼主を冷たく見下ろした。
依頼内容はこの男の畑を荒らすエグネター(クリーチャー)の殲滅。
これまでの情報から察するに、今回のエグネターは一体一体の力は大したことないが、数が多い。
その場合、報酬額は一体につき幾らとした方が儲けがある。
殲滅代を一式で安請け合いする気は毛頭ない。
「へへへ……。クレープさん、そうはいうがよ、あのバケモノ共のせいで、親から受け継いだ畑がもう荒れちまって。作物も育たねぇし、売れやしない。売れなきゃろくに飯も食えねぇ。ここはなんとか、一式でサービスしてくれよ」
『お嬢、こいつ嘘ついてるで。さっき、懐にえらい重そうな金貨の袋を隠してんのが見えたわ』
私の足下で、だらしない体型をした猫型ロボットのヘルが、眼鏡の奥の目を光らせて算盤を弾く。
この赤いエキゾチックショートヘア、顔はブサ可愛いが、金の匂いには私より敏感なんだから。
男の顔がみるみる引き攣る。
私は、アンダーフレームのインテリ眼鏡を指で押し上げ、大きく溜息をついた。
「…………だそうよ。私、嘘つきには追加料金を請求することにしてるの。払う? それとも――ここで死んで、経費削減に協力してくれるってワケ?」
嘘は最初から見抜いていた。
飯代もない人間がこんなどっぷりと太っているワケがない。
それに、私はこの酒場に来た時からも感じていた。
店内の客が客でないことをね。
獲物を見る目つき、銃を扱う人間に見られる手や指の筋量。
革の衣服に染み付く薬莢の匂い、独特の空気感。
コイツらは最初から私にエグネター退治の依頼をする気なんてさらさらない。
で、この人数で私をどうにかできるって?
馬鹿にしないで欲しいわ。
ウケる……。
私が緋色の双銃のグリップに指をかけるのと同時に、周囲の用心棒たちが一斉に立ち上がり、銃の口を向けてきた。
1、2、3、4……。
総勢15人か。
はぁ、めんどくさい。これじゃあ弾代だけで赤字じゃない。
「エロい女に、キモイ猫一匹だ。ビビるこたぁネェぜ。殺っちまえ!」
バカね。数さえいれば勝てると思っている。
私は座ったまま、背後から迫る男の顎をヒールで蹴り上げた。
「ぐがぁあ!」
そのまま立ち上がり、瞬きを一度する。
――脳内に敵の配置を焼き付ける。
――弾道を計算。無駄な動きは1ミリもいらないわ。
私は独楽のように回転しながら、抜いた銃身で隣の男のテンプルを殴打した。
そのまま懐に潜り込み、喉元へ銃口を押し当てる。
……ダンッ!
「――。……ヘル、弾代。今の男の財布から回収しておいて」
『ガッテンや、お嬢! 弾一発につき金貨三枚で計算しとくで!』
ヘルは二足歩行に切り替えると、背中に携えていたそろばんを両手で握り締め、息絶える男を何度も殴り続けた。
『誰がキモイ猫や! もっぺんいうてみぃ! 誰がキモイ猫や! もっぺんいうてみぃや、イケメンの猫型ロボットやろがぃ!』
……イケメンではない。
一発一発のそろばんのダメージなんて皆無に等しいだろうけど、アレやらないと気がすまないようね。
飛び散る空の薬莢。それをヘルが空中でキャッチし、そろばんを弾く音が響く。
私は舞うように、それでいて事務的に、次々と「不採算要素(敵)」を排除していった。
銃口を押し当て、引き金を引き、時には銃そのもので骨を砕く。
「……ふぅ。時給換算したら最悪ね」
全ての巨漢たちが床に沈んだ頃、私はようやくウィスキーのグラスに口を付けた。
泣きながら金袋を差し出す依頼主を、ヘルが小太りの体で踏みつける。
『往生しいや』
「最初から、嵌められたのを知っていて、どうして、テーブルについた?」
「アンタ達みたいなのを消して、治安をよくしないと。金が稼げないじゃない」
私はそういうと、溶けかけの氷を勢い良く噛み砕いた。
酒場の外に出ると、夜空には近くアーヴォーン帝国の飛空船が炎を上げていた。
追尾していた飛空艇の姿はない。
墜ちたか?
煙の出処を目で追うと、側壁に穴が空いている。
随分と強引な入り方をするのね。
あれに突っ込むバカがいるなら、一度、その面を拝んでみたいわ。
「あ~あ。どこかに空から、勝手に転がり込んでくるような『大金』でも落ちてないかしら」
新ヒロインのクレープはいかがでしたか? 彼女が言っていた『あのバカ』の話しはこのあと21時から特別追加配信致します!




