AIに乗っ取られた社長
俺は山田太郎。このY工業の社長だ。
この会社を一部上場の企業にまで育て上げたのは俺だと言う自負があった。
俺から見たら社員は本当に働いていない。どいつもこいつもサボったら良いと思っているんじゃないだろうな。
特に40以上のどうしようもない社員共。
日本は年功序列制で何故か年行けば行くほど給与が上がる。
そのくせ子供の受験で忙しいだの親の介護だの抜かしてくれる。
そんなのは家内に任せて自分はもっと仕事をしろ!
「社長、それは下手したら男女同権に引っかかります」
「コンプラ違反になりますよ」
俺の愚痴を聞いて秘書や経理部長が注意してきたが注意してきたが、そんなのは関係ねえ!
大企業の社長が40才定年制を言いだしてくれたが、その通りだ。
40なって働きが悪くなったのに給与だけは高い社員共は首にすれば良いのだ。今の法律的には中々出来ないが……
その時に職業訓練させて次の仕事を覚えさせれば良いとか、都合の良いことを言っていたが、基本はリストラ以外の何物でもない。40越えて今の給与以上で雇ってくれるところなど、滅多にないのだ。
大半は企業のネームを背負ってしか仕事が出来ないのだから。次の仕事なんて人手の足りない重労働の職場か出来高制で出来なければすぐに首を切られる職場しか無いだろう。
俺がそんな奴らの首を切らないのは日本が首切りに厳しいからだ。政府が40才定年制を打ち出してくれた喜んで首を切るが……今のところ中々厳しいだろう……
そんな時だ。俺はコンサルタントから、AIを使わないかと提案を受けた。
「AIなんて訳のわからない機械を使えるか!」
俺は最初はけんもほろろにコンサルを追い出した。
でもコンサルは諦めずに何回もやってきた。
いい加減に断るのも面倒になってきた。
最初は格安で入れてくれるというのだ。
仕方がないから取りあえず、残業の多い経理部に導入することにした。経理部長が人を入れてくれとやいのやいの注文してきたが、金を生まない経理にこれ以上人は導入できない。丁度良いからダメ元で導入してみた。
AI導入には最初は経理部長もいい顔はしなかった。
それをすぐに慣れるからと強引に入れてみた。
当然、経理部長がAIの出来をチェックするのだが、最初は間違えだらけで、
「社長、何でこんなのを導入したんですか? 残業時間が更に増えてしまったじゃないですか!」
銀行から天下りしてきた経理部長はカンカンだった。
「まあ、そう言わずにうまく使ってよ」
俺は経理部長を宥めつつ、コンサルを呼び出した。
「どうなっているんだ! 全然できないと経理部長がご機嫌斜めじゃないか! どうしてくれるんだよ!」
と怒鳴り散らした。
「まあまあ、社長。直にAIはきちんとするようになりますから、あと少し我慢して使ってみてくださいよ」
コンサルは私に頼んできた。
「本当にちゃんとなるのか?」
「すぐに適応するようになりますから」
仕方が無い。折角導入したのをすぐに止める訳にも行かない。俺は一ヶ月間だけ我慢することにした。
最初は愚痴愚痴煩かった経理部長も一週間もしたら文句を言わなくなった。
「経理部長、AIの調子はどうだ?」
「いやあ、社長、思ったよりも、頑張ってくれていますよ。新人よりも余程ちゃんとしていますね」
「うーん、そうか」
俺はほっとした。
これで残業の多かった経理が残業が無くなるのならば良いだろうと思ったのだ。
でも、思った以上にAIは優秀だった。
1ヶ月もしたら経理部の部員の仕事がほとんど無くなったのだ。
経理部員は暇を持て余すようになっていた。
人を遊ばせている余裕は我が社にはない。
俺は余っている人材を次々に金をうむ部署に異動させていった。
「社長、いかがですか、うちのAIは?」
コンサルがやって来て尋ねてきた。
「いやあ、想像以上に優秀だったよ」
「そうでしょう。社長。私の言った通りでしょう」
コンサルは嬉しそうに笑ってくれた。
「ところで社長、他の部門にもどうですか?」
「うーん、しかし、他の部門は中々厳しいな」
「購買とかどうですか」
「購買に使えるのか?」
俺は半信半疑でコンサルを見た。経理は基本的に社内業務だが、購買は他社の営業と価格決めや納期やらで色々打ち合わせをしないといけない。そんなところにAIなんて使えるわけはないのだ。
「最近は交渉もチームスとか使っての交渉が多いですからね。我が社は対人関係はコロールセンターで実績がありますから、絶対に上手くいくと思いますよ」
「本当か?」
俺は半信半疑だった。
「絶対に大丈夫ですから」
「うーん、まあ、騙されたと思って一度やってみるか」
俺は経理部で上手くいったので、続いて使ってみる気になった。
「えっ、AIなんて使える訳ないでしょう。社長は購買を何だと思っているのですか?」
最初は購買部長に猛反対されたが、
「補佐でもいいから取りあえず、使ってくれ。AIは過去の購買記録等を分析するのが上手いからなんとかなるとコンサルが言ってくれるんだ」
「じゃあ補佐に使うだけですよ」
最初は散々文句を言っていた購買部長も渋々使い出してくれた。
最初はAIに戸惑った購買部の面々だが、あっという間に慣れてくれて、一ヶ月もしたら購買単価が劇的に下がってきたのだ。
「いやあ、AIは思ったよりも使えますわ。交渉を任せたら新人よりも上手く交渉してくれましてね」
購買部長も絶賛してくれた。
こうなれば、もっと導入するしか無いだろう。
何しろAIは費用も人間ほどかからないし、能力は高い。サボることも無いし24時間寝ることも無く働いてくれたるのだ。
俺は喜んで営業にもAIを使い出した。
AIはドンドン仕事を取ってきてくれて、我が社の業績はうなぎ登りに上った。
AIが活躍すれば活躍するほど、人が余りだした。
なんとAIは人が使えば使うほどその人のやり方を学んでくれて、その人物に成り代われるようになるみたいだった。人はAIを使って楽が出来るようになったと喜んでいたら、いつの間にかAIがその人物に取って代わられているのだ。
俺はまず40過ぎの駄目社員からリストラすることにした。
早速役員会にかけた。
「しかし、社長、宜しいのですか? このリストに載っている社員は我が社に昔から貢献してくれている社員ですが」
経理部長が躊躇してきた。
「何を言っているんだい、経理部長。今や大半の仕事はAIがやってくれているし、能力はAIの方が高いじゃ無いか。こちらは1000万円も退職金を上乗せしているんだ。止める方も喜んで止めるだろう」
俺は躊躇しなかった。
リストラの交渉を事業部長達に任せて、俺は更なるAIの導入計画にのめり込んだ。
株主達は急激な業績アップに俺の給与アップの案を飲んでくれて、俺の年収は軽く1億を超えた。
部長達の給与も軒並み上げてやると不満はなくなった。
社員達も最初は嫌がっていたが、退職金を更に5百万円上乗せしてやると喜んで辞めていった。
次に職があるかどうか判らないのに、よく辞めるなと俺は感心したが……
「いやあ、山田社長。君は良くやっているね。君さえこの会社にいれば部長達はほとんどいなくても良いんじゃないのかね」
大株主の連中が俺をおだててくれた。
連中は俺の年俸を2億にしてくれると言い出したのだ。
確かにそうだ。部長の役割もAIならこなしてくれるだろう。
何しろ部長達もAIは使っているのだ。仕事が楽になって部長達も喜んでいた。最近は休憩室や喫煙室にやたら部長達がいるのが目についた。AIも部長達の仕事は十分に学んでいるだろう。
俺は部長達のリストラを断行した。
最初はブツブツ文句を言っていた部長達も退職金を更に一千万円上積みするというと、仕方なさそうに退職していった。
俺は二億の年俸を手に入れた。
もう我が世の春だった。
俺は経済誌にも取り上げられて一躍スター気分だった。
それから一年が経った。Y工業の業績は絶好調だった。
俺は二億円の年俸をもらって喜んでいたが、考えたら業績は倍になったのだからもっと年俸をもらっても良いのではないかと思い出したのだ。
取締役会で俺は提案しようと思った。
取締役会は大半の事業部長をリストラしたので、大株主のファンドから迎えた取締役が大半だった。
「ではこれより定例の取締役会を始めたいと思います」
議長の俺が話し出した。
俺は前に二億円を提案してくれた外資系の日本事業部長を見た。彼には前もってその話をしていて賛同を取り付けていたのだ。彼が俺の年房アップを提案してくれるはずだった。
「意見があります」
彼が立ち上がってくれた。
「このY企業は素晴らしい業績を出しているのは皆様ご存じの通りです。それもこれも大半の仕事を我が社の提携しているコンサル企業のAIが行っていることは皆様ご存じの通りです」
おいおい話がなんか変な方向に行っていないか?
俺は少し不安になってきた。
「そのコンサル企業から実は提案があったのです。山田社長の代わりにAIが社長をやれば今の業績が更に倍増すると。山田社長はよくやってくれていますが、しょせん人間のやることには限界があり、AIの方が全てに的確に判断ができて、もし昨年AIが社長だったらY工業の業績は今の倍になっていたという分析結果が上がって来ました」
「な、何だと、何を言いやがるんだ! この会社をここまで大きくしてきたのは俺だぞ。何を勝手な事を言ってくれるんだ」
俺はそう叫ぶとその事業部長を睨み付けた。
「その分析結果が正しいならわが社も提案者に賛成します」
他のファンドの取締役も賛成してくれた。
「な、なんだと!」
「わが社もです」
「おいちょっと、待て!」
「企業は利益が出てなんぼですからな」
「いや、そんな」
俺がいくら叫ぼうが、反対しようが、もうどうしようもなかった。
俺は俺の藩兵だった取締役達を首にしたのは間違いだったと今ごろ気づいた。でももう遅かったのだ。
あっという間に解任決議が議決されてしまった。
「そ、そんな、俺の心血注いだY工業がAIに乗っ取られるなんて」
俺には信じられなかった。
俺は誰もいなくなった会議室にただ立ち尽くしていたのだった。
ここまで読んで頂いて、ありがとうございました。
全二作はこちらです
『AIに乗っ取られた男』
https://ncode.syosetu.com/n7779ku/
『AIに乗っ取られた作家』
https://ncode.syosetu.com/n5485lk/
今AIが巷に流行っていて、皆結構使っています。
最終決断は人間がやるから人の役割は無くならないから大丈夫とか言っている人もいますが、人間自体が一人前になるために何年も、いや何十年もかかって学習してきたんです。
使われているAIはそんなあなたの貴重な経験を使うことによって経験させてもらっているんです。人はここではこうするんだ。そうか、こういう風に書けば良いのかってAIを日々教育してるんです
誤字脱字チェックでもたまにこういう表現はどうでしょうか?と言ってくると思います。
そこでそれが良いとなればこんな風にすれば良いんだとAIは学んでいきます。
こんな風に人が毎日、何万何十万の人が教育しているんです。あっという間にAIが人に追い付くと危惧するのは私だけでしょうか?
まあ、ネットに700万字もさらしている私は私の文章をAIの学習に提供していると言えるかも知れませんが…………
ということで私は人類の生存のためにAIを出来る限り使いません……
実は使えないだけという噂もありますが……
まあ、どちらにしても今の出生減少が続いたら100年後には日本は存在しないかもしれません。
そのために日本人をAIの中に残すために使うのはありかもしれませんが…………
(2015年には出生数が100万人越えていたのに、9年間で70万人を割り込みました。あと50年で一学年10万人に、更に50年で一万人すなわち2125年には出生数が全国で一万人になります……そうなったら日本も消滅…………)
何か暗い話ばかりです。
次はもっと明るい話を書き出します。
来週くらいから。次は異世界恋愛に戻ります。
よろしくお願いします








