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妙なスピーチ
「恋人にするのにふさわしい相手は、ベッドでの時間を共にできる相手です」
緊張をほぐすために酒を飲み過ぎたのか、仲人を頼んだ上司の頬は赤らんでいた。
なんでこんな奴にスピーチを頼んだのか。失笑を漏らす会場の反応に孝一は後悔しきりで、隣にいる歩の様子をうかがうことさえできなかった。
「では結婚するのにふさわしい相手は?」
内心頭を抱える孝一をよそに、上司はヘラヘラとスピーチを続けた。
「ベランダでの時間を共にできる相手です。ベランダは家の中でありながら外の世界に通じています。穏やかな陽射しが差し込むこともあるでしょう。でもひとたび暗雲が立ちこめれば、風が吹き、雨に濡れ、雷だって落ちてくるかもしれない。穏やかな時間も、苦しい時間も、共に過ごせる二人であってください」
その時の孝一は、ただ妙なスピーチだと思った。