お見合い
「歩さんは結婚相手に何を求めますか?」
ホテルのラウンジでのお見合いを終え、孝一と椎木歩は屋上庭園を散策していた。
まだ二十四才。うっすらピンクの上気した肌、サラサラとしたブラウンの長い髪、つぶらな瞳。黄色のワンピースを着た小柄で愛らしい姿が、孝一にポピーの可憐さを思わせた。
だからこそ、孝一はそんな女の隣を歩く自分の姿をみじめに感じた。
すれ違う若いカップルや自分より年下の子連れ夫婦を目にし、やっと年の離れた女に申し込みを続けてきた自らの愚かしさが分かった。
「……」
椎木歩は黙っていた。何かを質問しても、すぐには答えない。
自分からお見合いを申し込んできておいて、こんな中年男の相手をするのが嫌なのか?
疑心にまみれる孝一をよそに、歩は言った。
「……安心させてほしい、と、思っています」
「……安心?」
「ええ。変わらずに傍にいてくれるんだっていう、安心がほしい」
「まだ若いんだし、傍にいてくれる相手ならいくらでもいるでしょう?」
「ええ、それは、います」
いるんだ。歩の答えに孝一は少し哀しい気がした。
「でも、そういうのは、自由で、楽しいけど、ずっとは続かないでしょう?」
「だからこんなオジサンにお見合いを……でも、やっぱりそんなの間違いじゃないですか。あなたみたいにキレイな人、私なんかには不似合いですよ」
「……」
また黙り込んでしまった。つまりは、そういうことか。
目の前の女に、若く美しい女に、一人の中年男として諦めのついた孝一に、歩は言った。
「間違いじゃなかった」
「えっ?」
「上尾さんといると、ホッとする」
孝一は隣にいる女の顔を見た。他には何も目に入らなかった。そんな純粋な気持ちになれたのは、思い出せないぐらい久しぶりのことだった。