9 なみの春休み1日目★1
次の日の朝、ミカが目を覚ますと、すでになみは起きていて、
「おはよう、ミカ。」
と、朝から元気一杯で、ミカに向かって声を掛けた。
「うにゃ…おはよう。」
それに比べて、ミカの方はまだ少し眠そうだ。
なみは、すでに寝間着から着替えていて、今は大きめの紺のトレーナーに、白のショートスカートというスタイルだ。ミカは、改めて部屋を見渡した。やっぱり夢じゃなかったんだ。今日は、とりあえず台所に行って朝食を済ますと、すぐになみの部屋に戻って、作戦会議を実施することにした。なみは、昨日中に、友達みんなに対し、とても大事な用件ができたので春休みの間は、多分一緒に遊びに行けない、ごめんなさいのラインを送付済であった。なみの友達達も、なみの人柄をよく知っているので、少し心配するかもしれないが、特に疑問も持たず、なみの言うことを素直に信じてくれるだろう。でも、幼馴染のほたるにだけは、いつかミカのことを紹介しておかなきゃ、と思った。そして、本日の予定なのだが、どうやら決定したようだ。午後になったら、外に出て、何か手掛かりでも見つからないか、とりあえず宝石市内を歩き回ってみよう、ということになった。それまでは、昨日と同じように、ノートパソコンを開いて伝説の五色の魔法子猫達の情報がないか探すことにした。ノートパソコンの方はミカが担当し、なみは、スマホで魔法子猫達の情報が何かないか、とにかく一生懸命ググっていた。それと、例の五色の魔法少女のことについても、テレビ局に問い合わせしておかなくっちゃ。ミカはノートパソコンのキーボードを尻尾でパシパシと操作しながら、パソコンの画面の横に、例の透明のスクリーンを映し出すと、器用に二台の機器を尻尾と、恐らく魔法も使って操作している。透明なスクリーンの方には、何かがインストールされているみたいで、スクリーン上に表示された目盛りがどんどん一杯になってきている。
「うん、うまくいった。」
ミカは、ほっと一息すると、なみに向かって、
「このパソコン上にある必要なソフトと情報は、全部私のコンピュータに同期したので、もうこのパソコンは必要ないよ。」
「あら、そうなの。」
なみは、こういうことに一々驚いても仕方がないと思ったので、以後は普通に対応することにした。
「うん、それにこのパソコンだと効率がすごく悪いので、私のコンピュータで検索してみるね。」
ミカは、透明のスクリーンをなみにも見えるよう50cm程のサイズに拡大した。そして、言語を日本語に設定をし直すと、なみも画面の内容がわかるようになった。
「ちょっと伝説の五色の魔法子猫達の情報、検索してみるね。」
ミカは、スクリーンをパチパチとタッチすると、様々なカテゴリー別に検索結果がスクリーン上には表示された。
魔法子猫の情報5,219,645件、伝説の魔法子猫の情報2,056,943件。情報の重複を調整した結果だと、魔法子猫の情報6,257件、伝説の魔法子猫の情報312件。そしてそれをTRUE(本当)、FALSE(間違い)で振り分けると、魔法子猫の情報TRUE0件、FALSE6,257件、伝説の魔法子猫の情報TRUE0件、FALSE312件と表示された。
「うーん、やっぱりサーバー上のデータを全て集約して見た限りだと、魔法子猫の情報は、すべて民間伝承か、絵本なんかの作り話だね。」
「なるほど。」
なみは、もはや感心するほかなかった。
「ある程度予想していた結果だったけど、こうやって数値として示されてみると、やっぱり少しショックだね。」
ミカは、スクリーンを見ながら、深くため息をついた。
「うーん、そうだね。」
それとミカのことは、絶対に外部に漏らしたらいけない、と強く思った。
……………
しばらくの間、二人はスクリーンを見たまま、黙っていたが、
「あっ、そうだ! だったら、ついでに伝説の魔法少女達の情報も調べてみたら?」
なみは急に思いついたので、ミカに提案してみた。
「そうだね。一応そちらの方も調べてみようか。」
ミカはそう言うと、伝説の魔法少女について検索してみた。
すると、魔法少女の情報202,654,973件、伝説の魔法少女の情報32,158,521件。情報の重複を調整した結果だと、魔法少女の情報8,167,353件、伝説の魔法少女の情報516,884件。そしてそれをTRUE、FALSEで振り分けると、魔法少女の情報TRUE29件、FALSE8,167,324件、伝説の魔法少女の情報TRUE29件、FALSE516,855件と表示された。
「えっ? 何これ?」
なみは、予想もしていなかった数値にビックリした。
「あれ? 魔法少女はいるの?」
ミカも不思議になって、
「そしたら、伝説の五色の魔法少女だとどうなんだろう?」
ミカは、伝説の五色の魔法少女で検索してみた。すると、伝説の五色の魔法少女の情報10,572,913件、情報の重複を調整すると、伝説の五色の魔法少女の情報30,591件。TRUE29件、FALSE30,562件と表示された。
「えっ? どういう事?」
なみは、目の前のスクリーンに表示されている検索結果が信じられなかった。
「ちょっと、その29件が何なのか見てみるね。」
ミカはそう言うと、スクリーンに映っているTRUE29件と表示されている画面を尻尾でパチンとタッチした。
すると、スクリーンに表示されたのは、アニメ「伝説の五色の魔法少女シリーズ」の第1シリーズから最新の29シリーズまでが、順番にきれいに並んであった。
「えっ? まさか?」
なみは、あまりにも信じることが不可能な情報が、スクリーン上に表示されているため、悪いと思ったが、ミカのコンピュータの方を疑ってみる他なかった。
「あれ? どういう事? 伝説の五色の魔法少女ってアニメなんだよね?」
ミカも、検索結果に動揺しながら、なみに確認した。
「もちろん、あれはアニメよ。全然現実の話なんかじゃない。だって、私も子供の頃、毎週日曜日の夜、ワクワクしながら、伝説の五色の魔法少女を観てたのよ。」
なみは、そうきっぱりと言い切った。
伝説の五色の魔法少女のアニメが現実の話のはずがない。もし五色の魔法少女が本当にいるんだとしたら、少し素敵な気もするけど、でも、そんな話が本当にあったのだとしたら、それ以上に悲惨な話だ。あれはアニメの世界だから面白いのであって、実際に毎年、どこかの星が、何者かによって滅亡の危機に陥っているなんて。最終的には、魔法少女達によってその星が救われるんだけど、でも、そんな世界線が絶対あっていいはずがない。
なみの言う通り、「伝説の五色の魔法少女シリーズ」は、毎回日本の架空の街が舞台となっており、ある日どこかの星からやってきた異星人が、滅亡の危機に瀕した自分達の星を救ってくれるという伝説の魔法少女達を探すために地球にやってきて、そして伝説の五色の魔法少女達を見つけると、毎週のように現れる敵勢力と対決し、最後に、その星を侵略している敵勢力のボスを倒して、その星の危機を救うまでが、デフォルトのストーリー展開となっている。
「うーん、このコンピュータの正解率は99.9999999%なんで、間違えるなんてことは、まずないはずなんだけど。…でも、一体どういうことなんだろう?」
ミカも、意外な結果に首を傾げていた。
「そうね。伝説の五色の魔法少女のことは、後でテレビ局の方にも確認してみるし、魔法子猫の情報と一緒に、魔法少女の情報も調べることにしよう。」
なみは、ミカにそう言いながらも、どうやら魔法子猫のことよりは、魔法少女のことを調べていった方が、真実に近づけるような気がした。
「ちょっと休憩しようか。」
なみはこの予想もしていなかった事態に対し、少し頭を整理する時間がほしかった。
「うん、そうだね。」
ミカは、目の前の大きなスクリーンを閉じると、なみの方を振り返った。
「ちょっと飲み物でも持ってくるね。」
なみはそう言うと、台所の方に麦茶を取りにいった。階段を降りながら、
「それにしても大変なことになりそうだ。全然情報がないよりはいいことなんだけど。私達、一体これからどうなっちゃうんだろう?」
なみは、そう独り言を言いながら、台所に行って麦茶を二つコップに汲み終えると、部屋に戻ってきた。部屋に戻ると、ミカは、おりこうそうに、行儀よく床に座ってなみの帰りを待っていた。
「おかえり、なみ。実は、話忘れていたことがあったんだけど…」
「え? なーに?」
「実は、このリボンのことなんだけど。」
ミカはそう言って、胸を張って首元に付けた水色のリボンを強調すると、
「このリボン、ただのリボンじゃなくて、実は伝説の五色の魔法子猫達を発見するレーダーになっていて、魔法子猫を発見すると、リボンについた五色の丸い石のどれかが光るようになってるんだ。」
「へえ、そうなんだ。」
なみはそう言うと、ミカの近くまで寄って首元のリボンをじっくり観察した。
「うん。本来は魔法子猫を発見した時に光るはずなんだけど…でも、さっき調べた感じだと、もしかしたら魔法少女の可能性もあるかもと思って…」
「うん。」
「それで、何色でもいいから、なみが魔法子猫だったらすごくいいのにな、と思ったんだけど…やっぱり光らないね。」
ミカは、本当にがっかりしたように肩を落とした。
「そうだね。もし、私が魔法少女だったら、ミカの星を救うことができるかもしれないし、ミカともずっと一緒にいられるかもしれないのにね。…それにしても、そのリボンどうやったら光るのかな? 何か方法とかあるの?」
なみは、本当に地球上に魔法少女がいるんだったら、自分が魔法少女になってミカの星を救いたい。でも、そんな都合のいいことなんてないよね、と思いながら、リボンをしばらくの間、じーっと見つめていた。そして、やっぱり全く反応しないのを確認すると、ふーっと少しため息をついた。
そして、しばしの間、二人は麦茶を飲みながら雑談をしていると、
「あっ、そうだ。そろそろテレビ局の方に電話してみようか?」
なみは、アニメを放送しているテレビ局の電話番号を調べて、代表番号に電話してみたが、アニメについて何か知りたいことがあれば、アニメのホームページにある問合せフォームから問合せして下さいの一点張りで、何度も真剣にお願いしたが、向こうは、まるで聞く耳を持ってくれなかった。
やっぱりそうだよね。昨日までの私だったら、テレビ局の受付の人と全く同じような反応をするだろう。小さい子供だったらまだしも、私みたいに高校生にもなって、ある程度物事の分別もわかるようになってきているはずの年頃の女の子が、真剣に魔法少女って本当にいるんですか? なんて聞いてたら、絶対に変な人だって思われるだろう。
「うーん、仕方ない。そしたらテレビ局の人に言われた通り、アニメのホームページにある問合せフォームから聞いてみることにしよう。」
なみはそう言うと、ノートパソコンを開き、アニメのホームページにアクセスすると、具体的な内容はかなり伏せて、でも、それとなく本質はついた内容にして、問合せフォームに送信した。
「よし、とにかくメールは送った。これで午前の調査は終わりにしようか? それに、パソコンばかり見てて、結構疲れたよね? 昼食を食べたら、午後からは気晴らしに、外に出て調査しようか?」
なみはノートパソコンを閉じると、イスをくるっと180度回転させ、ベッドの上で少し眠そうなミカの方を向いて、そう提案した。
「うにゃ…うん、そうしよう。」
ミカは、はっと目が覚めると、笑顔でそう返答した。