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魔法少女っているよね ☆初期版*  作者: ににん(ni-ning)
第5章 子犬の魔法少女と子猫の魔法少女と
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70 (5-3) ひばりの新たな一日(2)

 駅を降りて、それから学校に向かっていつもの坂道を登る段になって、おもむろにひばりはメグを地面に降ろした。


「ねえ、ここから学校まではメグも歩いてよね。」

「…………。」

「ねえ、メグったら。聞いてるんでしょ。わかった?」

「…………。は~~。ひばりよ、私が学校まで歩いていっても別に構わんが。だがその場合だと私の歩みに合わせてもらう事になるぞ。果たしてそれで学校に間に合うのか?」

「うぐっ。」

「…………。」

「チクショー!」

 そう言って、ひばりは再びメグを両手で抱えると、学校までの坂道を必死に駆け登るのであった。


 それから、なんとか登校時間に間に合って、2年D組の教室に入ったひばりは、ゼーゼーと疲れた様子で自分の席に座ると、机の前にそっとメグを置いた。


「えっ?」

 すると、教室の中が少しざわつき始めた。なんであの娘は、学校に当たり前の様に飼い犬を持ち込んできたんだ? クラスメイト達は、机の上に飼い犬を置きながら、悪気なく自分の席に座って、よほど疲れてるのだろうか、ハーハー息を切らせながら、なんとか呼吸を落ち着かせようと、ぶすっとした表情でじっと前を向いたままのひばりの事を不審な様子で観察しながら、支子さん一体どうしたのかしら? 何かあったのかしら? とかボソボソとそんな事を噂し合っていた。だが、多少事情を知っているつかさだけは、教室の中で唯一平然としていた。そして、プル、ミア、ルーシーの三人が、微妙な顔でお互い顔を見合わせてうなずくと、意を決したかのように、クラスメイト達の視線にまるで気づかない痛々しいひばりの所へと、ゆっくりと近寄った。


「ねえ……ひばり。」

「あっ、プル。おはよう。」

「おはよう。……じゃなくて。ひばり、犬飼ったの?」

「えっ? あっ、この犬? うん、この子メグって言うんだ。」

「へー、メグって言うんだ。ひばり、昨日猫飼いたいとか言ってたからさ。私、ひばりが飼うんだったら猫だと思ったよ。」

「まあね。私も実は犬より猫の方がよかったんだけどね。」

「じゃあ、なんで犬飼う事にしたんだよ......って、そんな事じゃなくて。お前、なんで学校に犬を連れてきてるんだよ。」

「えっ?」

「そうだよ、ひばり。なんで学校に犬を連れてきたの?」

「えっ? なんでって?――えーっと、なんでなんだろう?」

「おーい、お前らー、早く席につけー。」

 その時、担任の桜井先生が教室に入ってきた。


 プル達三人は、ひばりをこのまま放置してしまう事に少し後ろめたさを感じたが、仕方なく自分の席に戻るしかなかった。そして、それから朝のホームルームが始まった。


 今の所、桜井先生はひばりの犬の事に気がついていないようだったが、恐らくそれも時間の問題だった。クラスメイト達は、ひばりの事を気の毒に思って、桜井先生に気づかれるまで、せめてもの間、そっとしておいてあげようと、気をつかってくれているようだった。一方、当人であるひばりは、今さらながら、一体なぜ私は学校にメグを連れてきてしまったんだろうか?と自問自答しつつ、先生に気づかれるその時が来るのをじっと待ち構えていた。


「支子。」

「はい……。」

 そして桜井先生は、クラスの出席をとって、ひばりの番が来た時に普通に気づいた。桜井先生は、メグの事を最初、犬のぬいぐるみか何かと思ったが、よく見ると、それはポメラニアンの子犬だった。桜井先生は、ひばりの行動の意味がまるで理解できなかったが、桜井先生的には、我が家のかわいい子犬を自慢したいがために、ひばりが挑戦的にわざと机の上に置いているかのように見えた。


「支子。」

「はい……。」

「お前、犬を飼ったのか?」

「はい……。」

「ほー。で、なんて名前なんだ?」

「えっ……メグって言います。」

「ほー。――いや、別に名前なんかどうでもよくって。支子よ。お前な、学校に飼い犬を持ってきていいか、いちいちそんな事を学校で教えないといけない事か? だいたいな……」


 そう言って、桜井先生がひばりの席を見た時、偶然ひばりの机の上に乗っているメグと視線が合った。メグは、桜井先生を冷たい視線で捉えていた。


「あっ……。いえ、ごめんなさい。」

 桜井先生は、その時メグの視線が、なぜか常日頃、自分に対してだけ厳しいと感じている教頭先生に睨まれているかのような、そんな錯覚をきたした。


「えっ?」

 その時、桜井先生がなぜか急に謝罪し始めたため、教室がざわつき始めた。


「あっ、いや……えっ?」

 桜井先生は、しどろもどろになってしまった。実は桜井先生は、教頭先生の前だと極度の緊張とパニック状態に陥ってしまうため、頭が真っ白になってしまい、その時は、とにかく謝っとけばいいやと、謝る以外の手段を持ち合わせていなかったのだ。


 それでも桜井先生は、教師としての責務として、なんとかホームルームを継続しようと心がけた。


 だが、桜井先生がいくらがんばろうと思っても、教頭先生以上の上位存在であり、実は全ての想像物の最上位に位置し、何者よりも冷たい視線のレーザービームを放つ事ができるメグの視線に、あくまでも一般人である彼が、その場限りの対処で耐えうる事など到底不可能だった。最終的に桜井先生は、「教室にペットを持ち込んだらダメなんだからね。」と、なぜか半泣きになりながら、逃げるように教室を出て行ってしまった。


 とりあえず、なんとか無事?ホームルームが終わったようなので、今度はプル達三人に加えてつかさもひばりの元に集まってきた。


「ねえ、ひばり。メグの事なんだけどさ。事情はどうあれ、やっぱり学校には連れてこない方がいいよ。」

「うん、そうだね。私、なんで学校にメグを連れてきたんだろう? ――あっ、つかさ。思い出した。ちょっと聞いてくれる?」

「えっ、何?」


 そして、つかさがひばりに耳を寄せると、ひばりは今朝メグから言われていた事をつかさに伝えた。


「あっ、そうなんだ。OK。わかった。じゃあ、そうするよ。」

 つかさは、メグの方を見てニコッと微笑むと、そのまま自分の席へと戻っていった。


「おい。とりあえずその犬の事、なんとかしねーといけねーな。」

「そうだね。桜井先生はなぜかごめんなさいって言って教室を出て行ってくれたけど、これから他の先生の授業が始まるからね。」

「うん。他の先生だと絶対同じようにはいかないだろうし。先生に見つからないように、授業中はどこか他の場所に隠しておいたら?」

「うーーん。」


 ひばりは少し考えこんだ後、授業中はメグを自分のカバンの中に入れておく事にした。しかし、メグの方がひばりのカバンの中に入るのをいやがった。メグの方は、先ほどの桜井先生のように、他の先生の時も、同様の手段で乗り切る事にしようと思っているらしい。


「あのさー。あんた、この世界のなんちゃらを変えるのを自分で禁止してるとかなんとかって今朝自慢げに言ってなかったっけ?」

 ひばりにそうつっこまれ、メグはしぶしぶと自分からひばりのカバンの中に入った。


 ひばりは、カバンを教室の後ろにある自分の棚に仕舞うと、それからはいつも通り平穏に午前の授業が過ぎて行った。クラスメイトも、ひばりの犬の事について何も言わなかったので、特に何の問題も起こらなかった。


 そしてお昼休みになると、プル達三人が再びひばりの席に集まってきた。


「ねえ、ひばり。お昼ご飯どうする?」

「いつもみたく教室で食べっか?」

「うん。実はさー、メグの事で三人にだけ話したい事があってさー。」

「へー、そうなんだ。じゃあ、今日はどっか他のとこに行って食べよっか?」


 それから、四人は空いている教室がないか校内を歩き回ったが、どうやら科学教室が空いてるようだったので、教室の中に入った。すると、外からは気づかなかったが、教室の片隅で、科学教室の備品を使って何か調理をしている白衣姿の女の子の姿が見えた。


「あれ? 誰かいる。」

 ひばりは、教室に自分達以外にも人がいたので、別の教室を探そうと一旦外に出ようとした。


「あれ? 君達も昼食かい? だったら、僕の事など別に気にせず、遠慮なくこの教室を使ってくれたまえ。」


 そう言って、教室の使用を勧めてくれたのは、学校の内外で規格外の天才と言われ、生徒会の相談役でもあり、自分達と同じ2年D組のクラスメイトでありながら、午前の授業には一切教室に姿を見せなかった常盤香ときわこうさんであった。

ご読了誠にありがとうございます。


下の☆☆☆☆☆から気持ち甘めに評価を入れて頂くと、☆の数に応じてとてもがんばろうという気になります。

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