7 子猫の地球生活スタート★2
クンクン。何やらおいしそうな匂い。階下からは、何かすごくいい匂いがしてくる。地球のご飯って一体どんな感じなんだろう? って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。まずは、なみのママにちゃんとご挨拶しなくちゃ。
階段を降りると、なみがミカに声を掛けた。
「ミカ。これからママにあなたのことを説明するから、後ろからついてきてね。」
「うん、わかった。」
「別に緊張しなくていいからね。ママはやさしいから、事情をちゃんと話せば、きっと大丈夫だから。」
二人は台所に入ると、なみのママがテーブルの上に料理の準備をしていた。でも、テーブルが高くて、ミカには一体何の料理なのかわからなかった。
なみのママは、なみを確認すると、笑顔で、
「なみ、ごはんが冷めない内に早く食べてね。今日はなみの好きなチキンステーキよ。」
「チキンステーキ…」
ミカは、チキンステーキのあまりにおいしそうな匂いにつられて、思わず声を出してしまった。
「あら。なみ、そちらの子猫は?」
なみのママは、先ほどのミカのつぶやきが聞こえたみたいで、なみの後ろに隠れるようにして立っている子猫を見つけると、じーっとミカの方を覗いた。
「あの、ママ。実は、今日学校の裏庭で子猫を拾っちゃって…」
「えっ? もしかして捨てられてたの? でも、この子猫、ものすごく立派な毛並みをしてるし、こんなかわいらしい子猫を捨てる人なんているのかしら?」
「捨てられた、というよりは、脱出してきた、といった方が正しいのかな?」
なみは、この複雑なシチュエーションをうまく説明する方法が見つからない。
「脱出って、どこかから逃げてきたの?」
「あの…う、宇宙から?」
なみは苦笑いを浮かべながら、右手の人差し指を空中に向け、そう答えた。
「宇宙?」
なみのママは、娘の言っている言葉がよくわからず、不思議な顔をしている。
「あの、ママ。これ冗談じゃないから、真剣なことだからよく聞いてほしいの。この子猫ね、ミカっていうの。ぱっと見ただけだと普通の猫に見えるんだけど、実はウラニャースっていう星から来た宇宙猫なの。それで、ミカの暮らす星が今大変な事になっていて、伝説の五色の魔法子猫達を探すために、宇宙船に乗って、今日この地球に着いたばかりなの。」
なみは、真剣な表情で、ママにそう真実を打ち明けた。
「えっ? 伝説の…五色の魔法子猫?」
なみのママは、驚いた表情でなみの顔を見た。
「えっ? ママ、もしかして知ってるの? 伝説の五色の魔法子猫達のこと?」
なみは逆に驚いた表情をして、ママの顔を見た。
「えっ、知らないわよ。そんな子猫。」
「え――っ!? なんで?」
すると、なみに代わってミカはそう叫びながら、驚きのあまり前後の足を真っ直ぐにしながら、ピョーンと空中に跳ね上がった。
「だって、今までふざけたことを言ったことがないなみが、急にそんなことを言い出すんだもん。そりゃ、驚くわよ。でも、あなたがとても真剣なのはわかったから、とりあえずはあなたの言うことを信じてみることにするわ。…へえ、この子猫、宇宙から来たんだ。ミカちゃんって言うのね。見た目は普通のかわいい子猫なのに、どこか変わった特徴があるのかしら?」
なみのママは、未だなみの後ろに隠れているミカの方を見つめると、じっくりと観察し始めた。
「ママ、ミカってすごいんだよ。ミカの星って地球より文明がものすごく進んでいて、それにウラニャースの猫は、地球の猫と違っておしゃべりだってできるし、それに、何といっても魔法が使えるんだよ。ほら、ミカ。ママに挨拶してくれる?」
ミカは、なおも緊張していたが、やがて決心がついたようで、コホンと息を整えて、なみのママの前まで進むと、長い尻尾を垂直にビシッと立て、
「なみのママ、こんばんは。初めまして。私は、惑星ウラニャースという所からやってきた、誇り高きウラニャースショートヘアのミカといいます。実は、先ほどなみが言った通り、今ウラニャースが大変な事になっていまして、この地球にいるはずの、伝説の五色の魔法子猫達を探しているんです。それで、勝手を言いますが、しばらくこのお家に泊まらせて頂けませんか?」
ミカは、以上のことを緊張しながらも、がんばって言い切った。しかしながら、ミカの尻尾の方は、それどころではない状態で、ミカがしゃべっている間、左に行ったり右に行ったり、あっちこっちを行ったり来たりして、なみのママは、ミカの尻尾にくぎ付けになっていた。
「まあ、なんて長い尻尾。」
「ミカ、偉い。ちゃんと言えたね。ねえ、ママ。これで私の言っていること信じてくれた?」
なみは、ミカの方見てニッコリと微笑むと、次にママの方を見てそう尋ねた。
「えっ? この子猫、ずっとニャーニャー言ってるだけだったけど…」
なみのママは、キョトンとした顔でそう答えた。
「え――っ!? なんで?」
すると、なみとミカは声を揃えてそう叫ぶと、ミカは、驚きのあまり、再度前後の足を真っ直ぐにしながら、ピョーンと空中に跳ね上がった。
「でも…宇宙猫だっていうことは信じたわ。だって、そんなに長くて器用に尻尾を使える猫なんて、地球にいないもん。」
なみのママはそう言うと、つけ加えて、
「それに、ミカちゃんが私に向かってニャーニャー言ってる時、何を言ってるのか、私にはわからなかったけど、すごく真剣な表情をしていたし、ミカちゃんが何を言ったのか、なんとなく私には伝わってきたわ。ミカちゃん、ようこそ日乃彩家へ。伝説の五色の魔法子猫達が見つかるまでお家にいてね。それに、ミカちゃんがもしよければ、ずっとお家にいてもいいのよ。」
なみのママは、ミカを見ながら、満面の笑みで新しい家族の加入を歓迎した。
「ありがとう! ママ。」
「ありがとう! なみのママ。」
二人とも笑顔になって、ママに感謝した。
「それよりも早く食事にしましょう。せっかく作ったのに、冷めちゃったらもったいないわ。」
なみのママがそう言うと、早速夕食となった。そして地球の猫だったら、床で餌を食べるのが普通なのだが、ミカは何といっても、地球より遥かに文明が進んだ、誇り高きウラニャースショートヘアの子猫である。家族と同じテーブルに着いて食事をすることになった。もちろんミカのみテーブルの上に乗って食事をすることになった。ミカの前には、底の少し深い小皿が用意され、そこに、なみが学校帰りにコンビニで買ってきたキャットフードを降り注いだ。
「いただきます。」
なみとなみのママがそう言うと、二人は夕食を取り始めた。
「いただきます、って何?」
ミカは、そんな挨拶今まで聞いたことがなかったので、なみに質問した。
「いただきますっていうのはね、ご飯を食べる前に、家族のみんな、食材を作ってくれた人や、食材自身、それに、神様なんかにも感謝するために言うものなの。」
なみは、ミカにそう説明したが、ミカはキョトンとして、
「神様、って何?」
と不思議そうに、もう一度質問した。
「うーん。何て言ったらいいんだろう? ものすごく難しいな。神様っていうのは、なんでも知っていて、私達をそっと見守ってくれてる存在、なのかな?」
「…ふーん。」
ミカは、神様というものが本当にいるのなら、ウラネコ達とロボット達の争いを見守ってなんかいないで、なぜ止めてくれないんだろう? と、不思議で仕方なかった。
「ミカ、それよりもあなたお腹空いてるでしょう? そのキャットフード、早速食べてみて。」
なみがそう言うので、ミカはキャットフードの入った皿に鼻を近づけて、クンクンと匂いを嗅いでみた。うーん、あんまりおいしそうな匂いじゃないけど、乾燥フードよりはましかな。まあ食べられなくはないと思い、早速食べようとしたが、あれ?
「なみ。スプーンちょうだい。スプーンがないとご飯が食べられないよ。」
「えっ? スプーン?」
なみは、最初キョトンとした表情をしていたが、そういえば、この娘ただの子猫じゃなかった。直接口でキャットフードを食べるなんて行儀の悪いことなんかしないよね。
なみがスプーンを台所の引き出しから取ってきて、テーブルの方に戻ってくるなり、なみのママは驚いた。ミカは、なみが持ってきたスプーンを尻尾の先っぽでつまむようにして受け取ると、尻尾を使ってスプーンでキャットフードをすくって、カリカリと食べだした。この食事風景を見た時、なみのママも、ミカが本当に宇宙から来た猫だということを深く理解した。
「どう? そのキャットフードおいしい?」
なみは、心配そうな表情でミカにそう聞いてみた。
「うん。おいしいよ。」
ミカは、そう答えると食事を再開した。でも本当言うと、あんまりおいしくはない。だけど、今の私は居候の身、贅沢なんか言ってられない。
すると、なみは台所の棚に行ってお皿を取って戻ってくると、なみとなみのママが、自分達のチキンステーキをナイフで切って、その皿の上に乗せた。そして、その皿をミカの前に置くと、
「はい、これあなたの分。ミカ、お家では遠慮しないでって言ったでしょ。」
なみは、ミカに向かって、冗談っぽくムッと怒った顔をすると、すぐ笑顔になってそう言った。
「明日からはミカのご飯も私達と同じにしないといけないわね。でも、食べられる物は地球の猫と近いと思うから、食材には気をつけないとね。」
なみのママは、ミカとなみの方を交互に見ながら、笑顔でこう言った。
「なみ、なみのママ、ありがとう。」
ミカの瞳からは涙がこぼれた。そして涙を拭うと、
「あの、そしたらナイフとフォークを下さい。」
と言った。
今度は、なみのママが台所の棚にナイフとフォークを取り行き、ミカに渡すと、今度はなみのママだけでなく、なみも驚いた。なんとミカは、ナイフを魔法で浮かせながら器用にチキンを切って、それを尻尾で掴んだフォークで食べ始めたのだ。そう、彼女は宇宙から来た誇り高きウラニャースショートヘアで、しかも魔法使い。やはり地球の猫とは格が違う。
ミカは、おいしい料理と温かい家族に幸せな気分になりながら、なみのママの方を見た。
うん、やっぱりなみのママなんだろうな。なみとよく似ている。人類の美的感覚はよくわからないけど、多分なみもなみのママも美人なんだろうな。なみのママは、なみより少し背が高くって大人な感じで、長い髪がウエーブしていて、なみのママの落ち着いた雰囲気に似合ってる。あっ、なみのママと目が合った。なみのママはこちらを向いて微笑んでいる。私もなみのママに微笑み返した。
なみのママは、なみの方を振り向くと、
「それにしても、本当にあなたはミカとおしゃべりできるようね。なんで私はおしゃべりできないのかしら? 何かなみだけずるいよね。」
なみのママは少し不満気味だ。
「うーん、何でなんだろう? 実は、裏庭からお家に帰るまで、ずっとミカには隠れてもらってたから、私以外とはお話してないんだ。他の人だとどうなんだろう?」
なみも、なぜ自分はミカとしゃべることができて、ママはできないのか不思議だった。
「でも、それで正解だったかもしれない。ミカみたいなすごい宇宙猫が見つかったら、世界中でも大騒ぎになるだろうから、これからどうするか、慎重に考えた方がいいと思うわ。それと、ミカが他の人ともおしゃべりできるか、パパが戻ってきたら早速試してみましょう。…でも、大丈夫かしら?」
「えっ? 何が?」
なみは、少し心配そうな顔で聞いた。
「うーん、私は猫派なんだけど、パパはどちらかと言うと犬派なのよね。」