67 (4-19) この章終わり(仮)
うんしょ(汗)よいしょ(汗)
ひばりは、万智に手伝ってもらってケラウノスを自分の部屋まで運びこみ、それから一人になると、おもむろにベッドにダイブした。
「くっそー。つかさの奴……いいなー。」
ひばりは、先程つかさが空中をヒラヒラと飛ぶと、その場で何回転も回ってみせ、最後にひばりに軽く手を振って彼女の家の前に着地して帰っていったその光景を思い出すと、口からボソッと独り言を吐きだした。つかさが飛んでいる所が見たいと自分がリクエストしたにもかかわらず、いざそれを目の当たりにしてしまうと、うらやましいやら嫉妬の気持ちやらでベッドの上で思わずバタバタしてしまうひばりなのであった。
(くっそー。もし私が桃色の魔法少女だったら、毎日学校まで飛んで行くし、取り急ぎ明日の数学の小テストなんかプルの答案を透視して丸写ししてやるんだけどな。それに、ワールドスピーカーなんて呪文が使えるんだったら、明日から英語の授業なんか楽勝なんだけどな。)
そんなスケールの小さいよこしまな事を考えていたひばりだったが、そういえばパパが家に帰ってきたので、メグの事について、それとひばりが魔法少女になった事について、これから家族会議を始める。なんてママが言っていた事を思い出した。
ひばりはベッドから飛び起きると、急いで階段を降り家族がいるリビングへと向かった。ひばりがリビングの扉を開けると、会社の同僚との飲み会の帰りで、酔っぱらって気持ちよさそうな顔をしてソファに腰を下し、太ももの上にメグを抱えている父親の耀司の姿が真っ先に目に飛びこんだ。
「まあ、そういう訳で、なんにせよメグは犬でポメラニアンみたいだから、メグにはこれから支子家のペットという形で飼う事にするんで。今回はそれでよろしく頼むよ。」
「そうね。支子家のペット兼家族の一員という事ね。ひばりが長女で万智が次女だから、メグは三女の末っ子って事になるわね。」
「うむ。まあそれでひとまずはよかろう。私が実は何者であれ、今の私はその身体的特徴、生物学的にいっても哺乳類の犬種、ポメラニアンのメスという分類でしかありえんしな。ここは甘んじて支子家のペットとしての立場を受け入れよう。耀司、洋子よ。こちらこそよろしく頼むぞ。」
メグが犬なのに言葉をしゃべっているにもかかわらず、それに対し違和感なくにこやかに談笑している耀司達であったが、唯一万智だけは耀司達と同様に表面上はニコニコとはしていたが、メグに対しても、それにそんなメグの事を違和感なくすんなりと受け入れてしまっている両親に対しても、大きな違和感を感じている様に見えた。
「まあ、そんな訳なんでメグには明日から朝と夜には食事としてドッグフードを必ず与える事にするから。幸いメグはしゃべれるようだから、他に何かリクエストがあるようだったら、家族の一員になった事なんだし、まあ遠慮なくなんでも言ってくれていいからな。」
「そうよ。それに、たまにはドッグフードの他にささみのお肉とかも用意するようにするからね。」
「ふむ。まあそう言ってもらえるとこちらとしてもありがたい。犬の本能として、時には肉肉しい物なんかも体が欲しがるみたいなのでな。」
「まあ、それに身の回りの物なんかも徐々に揃えていってあげるから。――おっ、ひばり。帰ってきたのか。ママに聞いたぞ。なんだお前、早速魔法少女になったみたいじゃないか。それにさっきの迷惑な雷も、聞いたらお前の仕業らしいじゃないか。てっきりこの世の終わりが来たのかと思ったぞ。」
酔いが回ってガハハと愉快そうに笑いながら、耀司はひばりの姿を発見すると、うれしそうに早速ひばりに声を掛けた。
「お帰りパパ。――まあ長年魔法少女の修行を続けてきた私にしたら、あんな魔法くらい、ほんのお茶の子さいさいなんだけどね。」
「なっ。パパが言った通りだっただろ。ひばりが魔法少女だって。それに、薄珊瑚さん家のつかささんも魔法少女だったんだってな。」
「う、うん……。まあ、そ、そうだったんだけどね。――あー! 思い出した。そういえばつかさ、つかさのパパからもママからも自分が魔法少女なんて話一度も聞いた事がないって言ってたよ。どこで聞いたんだよパパ、そんな話。本当にこれでつかさが魔法少女じゃなかったら、危うくつかさの前で大恥をかく所だったよ。」
「えっ? そうだったのか? あれ? ママ、つかささんが桃色の魔法少女だって話。あれって誰から聞いたんだっけ?」
「あら? そういえば、その話って誰から聞いたのかしら?」
「うーむ、あの話ってどこから入ってきたんだろうか。――まあ、とにかく結果的につかささんも魔法少女だった事だし、そんなの、もうどうでもいいじゃないか。」
ほんの少しの間、深刻な顔をしてつかさが桃色の魔法少女だという情報源は一体どこから入ってきたんだったっけと考えこんでいた耀司だったが、本当に覚えていないらしく、すぐに先ほどからの陽気な表情に戻ると、生来の適当な調子でひばりに答えるのであった。
「うむ。つかさが桃色の魔法少女であるとか、ひばりが黄色の魔法少女であるとか、お前達魔法少女を生み出した私ですらわからないのだから、ただの人間という存在であるお前達が、そのような事わかるはずがあるまい。」
今度はママに代わって、メグが耀司の言葉に補足を入れた。
「ふーん。まあ、それだったら私も別にそれでいいけど。――ところで、私とメグの事でこれから家族会議をするって聞いたんだけど。」
「あー、そういえばそんな事を言ってたな。」
「私、今日なんか色んな事があってさー。疲れてるんで、できれば手短に済ませてもらいたいんだけど。」
「そうか。――だったら、今日はもう遅いし、今日の所はこれくらいにしておくか。」
「えっ!? いいの!?」
それに対し、家族の中で万智だけが驚いた顔をして強烈な反応を示した。
「そうね。今日はひばりが魔法少女になったって事がわかったし、それにメグが支子家の家族の一員になる事が正式に決まった事だし。今日はこれでいいんじゃないかしら。」
「そうだな。俺も今日は飲んだ後なんで、今はとにかく正常に物事の判断ができる状態じゃないし。それに、面倒くさいし……。まあ、そんな訳だから、この話は明日、改めてゆっくりしようじゃないか。」
「そうね。それにパパ、明日定時退行日で早くお家に帰ってくる予定だし。やっぱり明日の方が都合がいいんじゃないかしら。」
「じゃあ、今日はもうこれでいい? ママ、お風呂湧いてる? 今日は風呂入ったらもう寝よ。」
そう言うと、ひばりはダルそうな様子で早速風呂場へと向かった。
それから、いつも通りの日常に戻っていったメグを含む支子家の面々だったが、唯一万智のみ、未だ納得がいっていないというような表情をしていた。そして、メグの元に近寄ると、そっと声を掛けた。
「ねえ。あのー、メグってさ。どう考えても普通の犬じゃないよね。あなたって一体何者なの?」
「ふむ。私が何者であるか、か。――私はお前達人類を含むあらゆる生命を創造せし者、そして魔法少女を創造した者であるとでもいっておこう。」
「えっ? ――それって、もしかして神様って事なの?」
「神……か。神という概念は人間が創造した事象なのだが……。まあ簡潔にいえば、それに近しい存在といってもよいだろう。」
「へ、へー。そ、そうなんだ……。」
「まあ、とはいっても、今の私は、先ほども言った通り、生物学上では犬種のポメラニアンのメス、それももっともかわいい盛りだと言ってよい生後53日目の幼犬という存在でしかない。家の中では、愛玩犬の一種として、お前も私の事を存分にかわいがるとよかろう。」
「う、うん。そ、そう。わかった。」
万智は、かわいらしいポメの子でありながらも同時に、こんな神々しい存在を我々支子家が人類を代表して預かっていいのだろうかと、疑問に思いながらも、そこは常に頭の片隅に常に入れておくことにして、とりあえず今はこのポメの子供を支子家の家族の一員として立派な成犬に育てる事を第一優先にしようと、一人心の中で誓うのであった。それに、明らかに異質な存在であるメグを前にしても、普段の適当な感じを変更するような素振りも一切見せなかった他の支子家の一面の様子を目の当たりにして、やっぱり私がしっかりしなければ。と改めて家族の立ち位置を再確認する万智なのであった。
この章は本話で終わりです。次回から新章に入ります。




