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「ただいま……。」
つかさの家から一分も経たず自宅に帰ってきたひばりは、少し疲れた口調で玄関のドアを開けると、続いてつかさとメグが玄関に入ってきた。
「ひばり、あんたの武器この辺に置いとくね。」
つかさは、そう言ってケラウノスを玄関の片隅に置くと、用も済んだのですぐに家に帰ろうとドアに手を掛けた。
その時、ひばりがつかさの家に行ってから中々帰ってこないので、早く家に帰ってこないか心配でリビングでそわそわしていた万智と母の洋子の二人が、ひばりの声を聞くやいなやバタバタと玄関まで駆けつけてきた。
「お姉ちゃんお帰り。」
「ひばり、ずいぶん遅かったのね。あら、つかさちゃんじゃない。こんな時間までひばりに付き合ってもらってごめんね。」
「おばさん、こんばんは。別に大丈夫。私もひばりが久し振りに家に来てくれてうれしかったし。ね! ひばり。」
「うん。まあね……。」
つかさがひばりを見て軽く微笑むと、ひばりは照れ臭そうに顔を背けた。
「そう? それならよかったけど。」
そう言って、洋子がいつものように能天気に笑う一方、万智は、お姉ちゃんの方がまだ少しよそよそしい気がするけど、幼なじみの二人が昔みたいに一緒に家まで帰ってきて、こうして並んで立っているのを再び見れたのがうれしかった。
「それで……お姉ちゃんどうだったの?」
「…………。」
「うん。なんだかよくわからないけど、私、桃色の魔法少女だったみたい。」
ひばりが言いたくなさそうに万智に顔を背けたので、仕方なくつかさが代わりに答えた。
「へー、本当に桃色だったんだ。やっぱりつかさちゃんってすごい娘なんだね。」
そう言いながら、万智は感心した表情でつかさを見た。一方、それを聞いたひばりは不満そうな表情で万智を見た。
「でも……メグに頼んで魔法少女になるのは少し待ってもらう事にしたんだ。」
「え? なんで? あっ! それじゃ、メグはしゃべれないままなの?」
万智は、ひばりがつかさの家を訪問する事になった一番の用件を思い出すと、玄関の下で佇んでいるメグに注目した。
「いや。万智よ、この通りお前とも会話する事が可能になったぞ。つかさが桃色の魔法少女だと確認できたのも、元はといえばお前が姉に強く促してくれたおかげだ。この度のお前の貢献に感謝するとしよう。」
「わっ! 本当にしゃべった!」
万智は、自分がそう聞いたのに、実際にメグがしゃべり出すのを聞くとビックリした。それに、メグがつかさの家に行く前は、その愛らしい外見同様のかわいらしい子犬の鳴き声でワンワン言ってたのに、帰ってきて人間の言葉でしゃべり出すと、その時とは真逆の、まるでどこかの王様みたいな威厳のある感じに変わってしまっていたので、なおさら驚きだった。
「あら? メグって意外に立派な感じでしゃべるのね。」
一方、洋子の方はメグがしゃべっても、相変わらずの能天気さで感心していた。
「つかさは、最終的に魔法少女として完全に覚醒するに至らず、残念ながら魔法少女に変身する事は叶わなかったが、その持って生まれた幸運と才能で、魔法少女にならずとも現在の覚醒過程の段階で、低級のポジティブ魔法と光属性の魔法が使えるようになったようだ。」
「へー……。つかさちゃんってやっぱりすごいんだね。」
万智は、尊敬のまなざしをつかさに浮かべた。
「いやいや、全然すごくなんかないって。魔法少女になれなかったのだって、そもそもは私が六芒星の一筆書きができなかっただけなんだから。」
つかさはそう謙遜したが、妹がつかさにばかり尊敬のまなざしを向けるのに嫉妬して、ひばりが不満ありありの表情で口を挟んだ。
「ふん。私だってさ、魔法が使えるようになったんだからね。」
「えっ? もしかして……さっきのものすごい雷がそうだったの?」
「えっ? わかった? そうそう。実はあれって……私の魔法メガライトが炸裂したもんなの。」
あの稲妻は、メグがどこかから黄色の魔法少女の最強の武器であるケラウノスを引っ張り出してきた時に勝手に炸裂した近所迷惑な魔法だったが、あの時、ひばりは確かにあの稲妻が自分の体内からケラウノスを通して発射されたという感覚があった。
ひばりが自信満々に胸を張ると、万智と洋子はお互いの顔を見合わせて突然ぷっと吹き出した。
「あれ?」
自分も魔法が使えるので自分にも尊敬の目が向けられると思ったのに、二人が大笑いしてしまったので、ひばりは何がおかしいのかさっぱりわからず困惑した。
「やっぱり……。あの雷お姉ちゃんだったんだ。さっき家で雷が起きた時に、あんな意味不明な事を突然するんだとしたら、もしかするとお姉ちゃんが魔法を出したのかもしれないねって二人で話してたんだ。」
「うっ……。でも、あれは……」
ひばりは必死に言い訳を探そうとした。あの魔法は、メグが場の雰囲気作りの一環としてひばりのメガライトを炸裂させたのだったが、実は結果的にはそれが正解だったのかもしれない。真の魔法の威力を理解していないひばりが、もしあの時調子に乗って自分の意思でケラウノスが持つ最強魔法である第六段階のエクサライトなど放っていたとしたら、宝箱市など今頃は軽く壊滅していただろう。
「でも……つかさちゃんはなんで魔法少女にならないの?」
「うん。なんかね、私わかったんだけど……私って今世界中のどんな言葉でもしゃべれたり、物を透視できたりとか、走るのがものすごく早くなったり、疲れが一瞬で取れたりとか、そんな魔法が色々使えちゃうみたいなの。でも、そんなの自分の実力じゃないし、そんな魔法を学校のテストとかバスケの試合とかで使っちゃったらすごく卑怯だと思うし、今の自分には特に必要のないものだから。それに私、とにかく今はバスケに全力を集中したいんだ。」
「そうなんだ。まあ、つかさちゃんらしいって言えばつかさちゃんらしいね。」
「本当にもったいない話だよ。せっかく桃色の魔法少女になれるっていうのに……。私だったら四六時中魔法を使いまくるんだけどな。」
「そうだね。黄色の魔法少女だと雷を出すくらいしかできないだろうし、日常生活で魔法を使う機会ってほとんどないかもね。」
「まあ、そういう訳なんだ。それじゃ、もう私帰るね。――あっ! そうだ! そういう事だからメグ、私が魔法を使えないように戻してほしいんだけど。」
「ふむ。せっかくほぼ全ての魔法少女ですら到達する事ができない程の境地に至り、人間にとってまるで不相応な能力を取得する幸運に巡りあえたにも関わらず、それをあえて行使したくないなど私にも理解不能なのだが……。まあ、それが本人の希望というのならば致しかたない。本来は魔法少女に対しては決して勧めるべき方法ではないのだが……。ならば、そのフィロソファーズストーンから常に一定の距離を開けておくとよかろう。そうすれば、使いたいと思っても自ずと魔法を使う事はできなくなるであろう。」
「そっか……。この宝石は友達からもらった大切な物だから、ずっと身近に身に着けておきたかったけど……。そういう事だったら仕方ないか。」
「それと、そのフィロソファーズストーンはいつでも取り出せる場所に大切に保管しておくように。」
「ところで……そのフィロソファーズストーンってなんなの?」
「風呂何とかストーンっていうのは、昨日パパからもらった丸い宝石の事だよ。五色の魔法少女のプレシャスストーンみたいな物なんだってさ。」
「え? お姉ちゃん達の魔法少女って、もしかして五色の魔法少女とかと何か関係があるの?」
「うん。メグは五色の魔法少女の追っかけなんだって。それで私とつかさは五色の魔法少女に似せた六色の魔法少女っていうやつなんだってさ。」
「そうなんだ……。」
ひばりからそう聞くと、万智と洋子は少ししょんぼりとした。
「いやいや。お前達はなぜいつもそこで残念がるのだ。六色の魔法少女というのはそもそも……」
「あっ! もうこんな時間だし、私もう帰るね。」
「つかさちゃん。ありがとう。助かったよ。」
「うん、別にいいよ。じゃあひばり、また明日学校でね。お休み。」
「お休み。」
つかさは、ひばりのリクエストに応える形で、帰りは空を飛んで帰っていった。ひばりは羨望のまなざしでつかさを見送ると、ひばり達は家の中に入った。
「メグ。あなた達が薄珊瑚さん家に行ってる間にパパが帰ってきてて、今はリビングで寛いでるみたいだから、これからパパと私達に魔法少女の事について改めて教えてもらえるかしら?」
「うむ。まあよかろう。」
「万智。後でこれ二階まで運ぶの手伝ってね。」
「えっ? なにこれ?」
「ケラウノス。」
「ケラ…え? 何?」




