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「ちょ、ちょっと、ひばり。一体どういう事なの。これ?」
つかさは、少し驚いた表情で、ケラウノスを両手に抱えたひばりを見た。
ひばりは、自分でも状況をよく飲み込めていなかったので、どう説明したらいいのか自分でもよくわからなかったが、少し苦笑いすると、とりあえず今起こった事をそのまま説明する事にした。
「あのさー……。あれでつかさもわかってくれたと思うんだけど。私も黄色の魔法少女、でさー。それで……さっきの雷なんだけど……。あれが黄色の魔法少女の電撃魔法、メガライト、なんだ。」
「はー。」
「それで……、メグの事も改めて紹介するけど。実はメグもただの子犬じゃないんだよね。全然かわいらしくないからっていう意味じゃなくって……。実はさー。私に魔法を授けてくれたのが、このメグなんだ。」
「はー。」
つかさも、先程目の前で起きた巨大な稲妻を目の当たりにしては、ひばりの言っている事を100%疑う事はできなくなった。それから少しの間、つかさは、ひばりとメグの事を奇妙な顔をしながら交互に見渡していたが、予想外にも、ほんのわずかの時間で平常心を取り戻した。このどのようなな状況下に置かれても、素早く自身の気持ちを落ち着かせる事ができるメンタルの強さ、この切り替えの早さが、バスケットボールプレイヤーとしてのつかさのストロングポイントの一つなのである。
「ふー。」
つかさは、その場で一回軽く深呼吸した。
「ふーん。なるほどね。そしたら今日家に来た時から、ひばりがブツブツ独り言ばかり言ってるなと思ってたんだけど、もしかして、その間ずっとメグと話をしてたっていう事なの?」
「うん。そうなんだ。」
「ふーん。やっぱりそうなんだ。なるほど。ひばりが魔法少女になったのは本当だったんだ。よかったね、ひばり。ずっと魔法少女になりたかったもんね。――でも、さっきみたいに全然関係ない所で魔法をぶっ放したりしたらダメだよ。もしやるんだったら、人目のない所で、誰にも迷惑を掛けないようにしてね。」
「ご、ごめんなさい。」
「うーん……。でも……、やっぱり私は魔法少女じゃないと思うんだけどな。あんなすごい魔法全然使えるような感じもしないし。――それに、もし私が本当に魔法少女だったとしても、魔法少女ってどんな活動するのか知らないけど、今は部活の方が忙しいから、申し訳ないけど、そっちの活動の方は多分手伝えないと思うよ。」
「うん。それはよくわかってる。」
「そう……。それでもいいんだったら、一応私が魔法少女かどうか確かめてみても別にいいけど。それで、私が魔法少女だっていうのはメグが言ってるの?」
「うん。」
「そうなんだ。でも、さっきも言ったけど、もし私が本当に魔法少女だったとしても、あなた達の活動に加わる事は出来ないと思うけど……。それでもいいの? もし、本当に私の力が必要って言うんだったら、事情によっては考えなくもないけど……。」
ひばりは都度メグに確認した。
「うん。いいんだってさ。魔法少女の活動に参加するのは基本的に自由参加なんだって。とりあえずメグは、も……も…色の魔法少女が使えるワールドスピーカーっていう魔法を自分に唱えてほしんだって。そうすれば、私とだけじゃなく、つかさとも万智ともおしゃべりできるようになるんだって。」
「へー、そうなんだ。だったら私もメグと一度おしゃべりしてみたいな。それで……私はどうしたらいいの?」
「こんな生意気な犬と絶対にしゃべらない方がいいと思うけどな……。あっ。それでつかさがもし本当に、も…も色の魔法少女だったら、私と同じようなプレシャスストーン(PS)を持っているはずなんだって。」
「フィロソファーズストーン(PS)、な!」
そう言うと、ひばりは、自分の首元につけられたポメラニアンの子犬の顔をしたブローチの口元から黄色のフィロソファーズストーン(PS)を取り外そうとした。が、ひばりが右手を子犬の口元に近づけようとすると、子犬が不機嫌にウーッと唸り出してひばりの右手に嚙みつこうとするので、ひばりは怖くてそれ以上右手を近づける事ができなかった。
「ひばりよ。そんなに不躾に手を近づけたりしたら、かわいらしい子犬が怖がって威嚇してしまうではないか。こういう時は、よしよしとその子犬の事を褒めながら、そっと鼻元をやさしく撫でてやるとよかろう。そうすれば、子犬も気持ちよく飼い主の元にフィロソファーズストーン(PS)を返してくれるだろう。」
ひばりは、不本意ながらもメグの言う事に従う事にした。そして、かわいいねーとか言いながら、そっと近づいて鼻筋をやさしく撫でてあげると、子犬は口元を緩めてフィロソファーズストーン(PS)をひばりの手元に返してくれた。そして、フィロソファーズストーンが(PS)子犬の口元から離れたその瞬間、ひばりの服装が魔法少女のものから、魔法少女に変身する前まで着ていた普段着に戻った。ひばりは、子犬から受け取ったばかりの黄色のフィロソファーズストーン(PS)をつかさに渡した。
「ふーん。これが本物のプレシャスストーン(PS)なんだ。――やっぱり本物は違うな。なんかすごい重厚感があって重いし、どことなく高級感もあるね。――もしかして……このプレシャスストーン(PS)って五色の魔法少女とかとなんか関係があったりするの?」
「うん、実はメグは五色の魔法少女の知り合いなんだって。それで、私達は五色の魔法少女じゃない方、六色の魔法少女なんだってさ。」
「そうなんだ……。」
ひばりもつかさも、少し残念そうな表情をした。
「いや……。ちょっと待て。そこは決して残念に思うポイントではなかろう。六色の魔法少女の方が、五色の魔法少女より明らかに実力は上なのだぞ。」
メグは、二人の態度に不満を述べた。
「う―――――ん。でも、やっぱりこんな石、私見た事ないけどなー。」
そう言って、最初はつかさも全く心当たりがなかったようだったが、徐々にひばりのフィロソファーズストーンによく似た宝石をどこかで見た事があるような気がしてきた。
「うーん……。あれ? この石……。確か……どこかで……。えーと……。」
そう言うと、つかさは黄色のフィロソファーズストーン(PS)を持ったまま、その場で考え込んでしまった。
「あっ! もしかしたらあれかも……。ひばり、ちょっと待っててくれる?」
つかさは、ひばりに黄色のフィロソファーズストーン(PS)を返すと、家の中に入っていった。それから少しすると、再びひばり達の元に戻ってきた。
「やっぱり……。多分、これだと思うんだけど。」
そう言うと、つかさはひばりに、バスケのシューズが入ったピンク色のシューズケースを渡した。そしてその持ち手の所に、フィロソファーズストーン(PS)のような桃色の丸い宝石がついたキーホルダーが付けてあった。つかさもひばりも、そのキーホルダーを実際に手に取って、チェーンのついたその桃色の宝石を確かめてみた。確かによく見てみると、その石は、ひばりの持つ黄色のフィロソファーズストーン(PS)と同じ様な、独特な重厚感や輝きがあって、ガラス玉だったり、ただの石ころのようにはとても見えなかった。
「でも……。この宝石、確かにプレシャスストーン(PS)にそっくりなんだけど。どこからどう見てもキーホルダーだしね。多分プレシャスストーン(PS)じゃないと思うんだけど……。」
つかさの言う通り、その桃色の宝石の真ん中には金属のチェーンがぶすりと突き刺さっていた。
だがその時、つかさが持ってきた桃色の宝石の確認を終えたメグが、尻尾をふりふりさせながら満足そうな表情で断言した。
「いや、その宝石は、桃色のフィロソファーズストーン(PS)で間違いない。フィロソファーズストーン(PS)は魔法少女にしか所持する事ができない特殊な使命を持った宝石で、歴代に渡り次世代の魔法少女に連綿と受け継がれ、その手元に確実に受け取られるよう、その時々の状況に応じて適切な形に変化する習性がある。その桃色のフィロソファーズストーン(PS)は、つかさの手元に確実に渡されるよう、自ずからそのような形状に変化したのであろう。」
「ふーん。そうなんだ……。」
ひばりは、つかさの持っている桃色の宝石が本物のプレシャスストーン(フィロソファーズストーン)だと聞いて、少し複雑な気持ちだった。
「でも……。なんでこのプレシャスストーン(PS)が私の手元にやってきたんだろう?」
「そのプレシャスストーン(PS)、どうやって手に入ったの?」
「うーん……。実はこのプレシャスストーン(PS)、ていうか、シューズケースっていうより、このバッシュ自体、私が買った物じゃないんだ。」
「誰かからもらったの?」
「うん。実は……。私達のバスケ部、去年全国大会に出場したでしょ。」
「うん。」
「それで、一回戦で対戦した東北の高校のメンバーの中に、同じ一年生の娘がいて……。実はその娘の物なの。」
「ふーん。」
「その娘、すごくバスケがうまくって……。私達に勝ってその後、全国大会優勝までしちゃったんだよね。実はその娘、私が小学生の頃からの知り合いなんだ。」
「へー。」
「それで私達のバスケ部、春休みに東北に合宿に行ってたでしょ? 実は全国大会の後に、その娘の高校からその娘がどうしても私達と対戦したいってリクエストがあったらしくって、それで春休みに東北遠征する事になったんだ。あっ! そう言えば、ひばり、私がお土産に渡したずんだ餅食べてくれた? 実はそのずんだも、その娘のお勧めの店で買ったもんなんだ。」
「うん……。食べた。おいしかった。」
「そう。よかった。それで実はさ、その娘の高校に行って練習試合をしたんだけど……。その娘ベンチにはいたんだけど、なぜか最後まで試合に出なくって……。もしかして全国大会で負傷した足のケガがまだ治ってないのかなって、試合が終わってから確かめに行ったら、彼女一所懸命リハビリ頑張ったんだけど、足のケガがもう治る見込みがないってドクターストップが掛かっちゃったんだって。それで、バスケの方はもう引退するんだって……。」
「そうなんだ……。」
「そう。それで試合が終わった後、彼女から私の分までバスケ頑張ってほしいって、それでその時に彼女からこのバッシュをもらったんだ。」
「そうだったんだ……。」
「うん……。でも、なんでこのプレシャスストーン(PS)を彼女が持ってたんだろう?」
「そういえばそうだよね。うーん……。」
「いや、全然おかしい話ではないぞ。恐らくその少女は、先代の六色の魔法少女、マジカルセクステットのピンクセクスに選ばれた資格者だったのであろう。」
「ピ、ピンクセクス……。」
「うむ。惜しむらくは、つかさの話を聞く限りだと、その少女も魔法少女としてかなりの素質を秘めていたかもしれないという事か……。」
「そうかも知れないね。」
「うむ。先程、フィロソファーズストーン(PS)は、歴代に渡り次世代の魔法少女に連綿と受け継がれ、その手元に確実に受け取られると説明したであろう。よってその桃色のフィロソファーズストーン(PS)も運命に導かれて、その少女の元からつかさの元へと正式に受け継がれたものなのだ。」
「ふーん。」
「よし。これで桃色の魔法少女に変身できる全ての条件が揃ったようだな。では、早速つかさには桃色の魔法少女、ピンクパピーに変身してもらう事にしよう。」
※PS
プレシャスストーン Precious Stone-(大切な石)ー五色の魔法少女が持つ運命の石
フィロソファーズストーン -Philosopher`s Stone- (哲学者の石)ー六色の魔法少女が持つ運命の石
幼少の頃より五色の魔法少女を観て育ったひばりやつかさにとって、PSといえばプレシャスストーンが常識なので、今さら別の名前で呼ぶ事ができない。その事にメグは不満である。




