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「あー!!」
その時、ひばりは何かを思い出したように大声を出すと、メグの方を見た。
「どうした?」
「そういえば私も魔法少女になったはずなのに、どうやって魔法を使ったらいいの?」
「うっ……。う、うむ。そ、そういえば、そうだったな。ふむ。その件については改めて善処する事にして……。とにかく今はつかさの事を第一優先にしてだな……。」
「そうだよ! 私が魔法を使う所を見せてあげれば、つかさもすぐに信じてくれるじゃん。」
「ふむ。ま、まあ、そう言われると、確かにその通りなのだが……。だが、お前は黄色の魔法少女とはいっても、ユニークな個性を持った特別天然記念物ものの魔法少女というか、大いなる例外というか……。」
メグは、何かをごまかすようにこしょこしょと口ごもった。
「ねえ! どうやったら魔法が使えるの?」
「う、うむ。それは……そう……」
メグは、そんな事をひばりが自分に聞いてくる時点で、ひばりが自分の予想した通り、全く魔法を使えない事がこれではっきりとわかった。かといって、その事を今ここで正直にひばりに話してしまったら、ひばりは魔法少女としてこれから自分に協力してくれなくなるかもしれない。そう考えると、メグは、ひばりにどう答えたらいいのか、困り果ててしどろもどろになると、その後は下を向いたまま黙り込んでしまった。
「――!!」
だが、しばらくすると何か思い出したようにハッと頭を上げた。
「あっ! そうか。その手があったか。フフフ……。ひばりよ。安心するがよい。数千年振りに魔法少女が現世に誕生した事を記念して、お前には特別な贈り物を授けてやろう。」
「え? 何かくれるの?」
そう言うと、メグは地面に四肢を踏ん張って真剣な表情で正面を見据えた。すると、メグの全身の毛が逆立ち始め、かわいいポメラニアンには不似合いな鬼の形相になると、ブツブツと何かを唱え始めた。
しばらくすると、バリバリと音を立てた不気味な黒雲が二人の頭上に徐々に集まりだした。そして、すでに真っ暗だったはずの外の景色が、そこから更に何段階も暗くなったかのように、所々からゴォゴオと響き渡る嵐のような轟音と共に漆黒の闇が辺りを覆い始めた。
「え? 何なの一体? これ!?」
つかさは、突然発生したこの尋常ならざる天候の変異に思わず声を上げた。
「私もわかんない!!」
それにひばりが大声で答えた。
その時、メグは、予期せず飼い主から与えられたジャーキーに大喜びの子犬とは真逆の、邪悪な笑みを顔中に浮かべると一言。
「それでは受け取るがよい。」
そう言った瞬間、辺り一面全てが真っ白に光り輝いたと思うと、街中一帯の全ての電気がほんの一瞬停電して辺りが真っ暗になった。それから一時を置いてドッ グゥオ―オ―オーオーン!!!!!という巨大な爆発音が二人の頭上に響き渡った。その時、二人は今までに見た事も想像もした事もなかったような巨大な稲妻が天空から雲の上に落ちるのを目撃した。そして雲の中に落ちた巨大な稲妻は、その中で光を一点に集中させると、そのまま一本の白い線となって地面に向かって突進してきた。その白い線は、ひばりとつかさの二人が立っていたちょうど真ん中に、ボフン!!というアスファルトに衝突した大きな破壊音と大きな土煙を伴って地面に突き刺さった。
その不気味な黒雲と巨大な稲妻は、翌日の宝箱女子高の中でも一日中話題の中心になり、宝箱市に起きた気象変動が原因の晩春の珍事として全国ニュースで取り上げられたり、ネット界隈では、妖しい黒雲の中から、悪魔が地上に舞い降りたのではないかと一時話題になる程の出来事でもあった。
雷が落ちてすぐに電気も完全に復旧した後、周りの民家から、一体何が起こったのかと、何人か窓を開けて外の様子を確認していたが、それはまさに一瞬の出来事であり、人々の活動に何の影響もなかったので、その後、すぐに人々はそれぞれのいつもの日常生活に戻っていった。
ひばりは、白い線が直撃したアスファルトの辺りを確認した。すると、地面からはプスプスとした煙の中に、何かよくわからない細長い物体が突き刺さっていた。
「はー? なんじゃこれは?」
その細長い物体は、長さがちょうどひばりの半身くらいの、槍としては少し太すぎるし、こん棒としては少し細すぎる。口に出して表現するのが難しい不規則な形をした何かおどろおどろしく、それでいてどこか厳かな雰囲気も感じられる奇妙な光沢を備えた金属の棒だった。
「ふむ。その棒は黄色の魔法少女のみが持つことが許される最強の装備、ケラウノスという電撃の力を凝縮した武器である。その武器があれば、どんなに魔法力が足りない黄色の魔法少女であってもエクサライトまでの魔法を放つことができる。それぐらいの魔法を放つことができるのであれば、黄色の魔法少女として一人前の魔法少女だと言ってもいいだろう。ちなみに先程空中で発現した電撃は、黄色の電撃魔法でいう所の第2段階にあたるメガライトという魔法だ。ひばりよ。数千年振りに魔法少女を復活させた功績として、お前には特別にその武器を進呈してやろう。」
「はー……。」
ひばりは間の抜けた返事をすると、その棒にまだ電気が残っていないか、少しビビりながらも、恐る恐る最強装備に手を触れてみた。ケラウノス本体は、幸いにも電気も熱ももう残ってはいなかったが、少しひんやりとして冷たかった。ひばりは、ケラウノスをよく見てみようと思い、手に取って胸元まで持ち上げようとした。ケラウノスは、実際はその見た目よりも重く、魔法少女になって幾分かパワーアップしたひばりでも、両手でやっと持ち上げるのが精いっぱいだった。その棒は、細くもなく太くもなく中途半端な太さで、直線的な形ではなく、まとまりのない不規則で歪な形をした街の製鉄所に転がっているスクラップの塊のようにも、新進気鋭の前衛芸術家が作製した芸術作品のようにも見えた。
それは、ひばりが魔法少女の武器として一番に求めるかわいらしさや、二番目に求めるかっこよさのカケラというのが全くなかった。それから棒の先端のボコボコしてる部分を見てみると、何か赤色や緑色などの液体が乾いたような跡が所々にこびりついていた。
「ふむ。まあその武器は魔法として使う以外に、別に物理的な武器として使用しても特に差し支えないのでな。」
「はー……。」
(なんか武器の名前も微妙だし、全然かわいくないし……。どうせだったら、私もイエローキティのホタルみたいな猫のアクセントの入ったかわいい武器の方がよかったな。)
ひばりが求めていた武器は、ケラウノスのような、どっからどうみても強そうにしか見えないこんな武器武器しい物では決してなかった。




